流通業界が注目する僻地の食品スーパー 五泉市「エスマート」の“プリン伝説”とは

 五泉市の中心街から遠く離れた橋田という集落で営業する食品スーパー「エスマート」は業界誌による特集記事掲載やマーケティング本に成功例として紹介されるなど、その経営法が注目を浴びている。

 

 全日食チェーンによくある45坪程度の小規模店、しかも商圏人口約370人という過疎地にあり、商環境に恵まれているとは言い難いにもかかわらず実に繁盛している同店は、地元密着だけでは成立し得ない絶望的なロケーションの中で、商圏外からも多くの買い物客が訪れる。このあたりの事情については1月10日発行の「にいがた経済新聞」の記事をお読みになっていただきたい。

 

 このエスマートは、あるエピソードで全国的に名前が売れた。「プリン伝説」といわれるその事件は今から7年前の話。

 ある時、鈴木店長は発注ミスからあるプリンを大量に仕入れてしまった。4個発注のところを96個たのんでしまったのだ。当時森永が発売していた「黄金比率プリン」というプリンだが、売れ線が「3個パックで100円のプリン」に対してこれは1個138円。96個はエスマートにとって絶望的な数だった。ただし食べてみると確かに美味かった。店のスタッフもこれを試食し、みな美味しいと絶賛した。

 

 その日から店頭に並んだが、スタッフが地域のお客さんに「このプリンがとても美味しい」伝えながら売った結果、96個は2日で完売した。それどころか売り切った後も、馴染みの客から「あのプリンは今度いつ入るの?」と問い合わせがあった。そこで今度は思い切って144個仕入れた。チラシには問い合わせた人の名前を入れ「○○さん、あのプリン入ったよ」とローカルな遊び心で表現した。これもあっという間に売り切った。

 

 その後もエスマートで「黄金比率プリン」は売れ続けた、というより不思議な売れ方を示したといった方が正しい。この橋田集落に限定されて“局地的なプリン文化”が根付いたのだ。年寄りは孫の笑顔見たさにこのプリンを買って帰るのが定番スタイル、よその家を訪ねる時も手土産にはこのプリンという具合だ。プリン自体は森永の商品だから、エスマートだけで特別に売っているものではなく、町中の大型スーパーでも扱っていた。しかし全国的にはそれほどのヒット商品とはならなかった。

 

 結局、廃番となるまでの1年半の間にエスマートは「黄金比率プリン」を一万個以上販売した。ピーク時には月に2000個を売ったというから、これはもう“現象”と言える。

 

 鈴木店長は大学卒業後、大手チェーン店に勤めたのち実家の跡を継いでエスマートの経営者となったが、当時は僻地の食品スーパーに希望を見出せなかったという。流通業界では当たり前と思われている①不景気だと売れない②値段が高いものは売れない③立地が悪いと売れない、などの“常識”を信じていた。「それまで常識と思っていたことが、すべて逆だった」と話す鈴木店長はこれをきっかけにエスマートの経営に意欲がわき、マーケティング戦略の実践で来客を伸ばした。

 

 なぜエスマートでだけ「黄金比率プリン」が売れたのか。スタッフが実際に試食し「おいしいよ、こんな味だよ」と客に伝えたこと、違いはたったこれだけ。しかしこれが大型チェーン店にはできない。美味しい商品、ちょっと珍しい商品が入荷しても伝えることができないから、客はその商品に気づくことがないのだ。

 

 僻地の小さな食品スーパーにマーケティングの醍醐味が詰まっていた、という話。

店長の鈴木さんの“プリンリスペクト”がスゴい(笑)

こういうくすぐりに消費者は弱い