【ウクライナ紛争】ロシアが開戦せざるを得ないオプエド的8つの理由(ジャーナリスト上杉隆)


緊迫を極めているウクライナ情勢

ウクライナでの「紛争」がはじまろうとしている。欧米や日本の報道を見る限り、絶対的な正義はウクライナにあり、大抵ロシアは悪の枢軸ということになっている。

果たして、本当にそうなのだろうか?

健全な懐疑主義はジャーナリズムの基本であり、民主主義を成熟させる必須の条件でもある。異論・反論であるオプエドという概念は、まさしくこうした際に活用されるべきだろう。ということで、オプエドの観点から「ウクライナ戦争」を分析してみようと思う。

いかなる国でも一般人がメディア情報に左右されるのは致し方のないことである。とくに、リテラシーの低い、メディア教育を受けていない日本人は、より一層、偏狭な考えに陥りがちだ。

日本のメディアが世界標準と思ったら大間違いである。世界の200以上ある民主国家の中で、いまだ前近代的な記者クラブシステムが存在しているのは日本くらいだし、メディアがオプエドやコレクションを採用していないのも同じく日本くらいだ。

つまり、私たち日本人は、極めて遅れたシステムの中で生成されるニューズのシャワーを小さいころから大量に浴びて育っており、ゆえにジャーナリズムやメディアについて無自覚に無知なのだ。それは日本のメディア人とて例外ではない。むしろ筆者からすれば、日本の情報産業の人間ほど、奢れる無知の沼の中に沈んでいるようにみえてならない。

この世の万事に絶対はない。正義などありえないし、仮にそう語る者がいたとしたら、神か詐欺師か日本のジャーナリストのどれかだ。大抵の戦争が神の名の下に始まるのは、理屈がないゆえに権威付けが必要だからだろう。ジャーナリズムが、そうした政治家や行政官のポジショントークに引きずられていては永遠に真相は見えない。

今回のケースで言えば、なぜロシアはウクライナで紛争を始めようとしているのか、を日本のメディア人は理解できないだろうし、いや理解するつもりもないだろうし、理解できるようになることもない。発表ジャーナリズムと欧米メディアからのノークレジット引用に慣れてしまった彼らに、的確な分析をする力もない。ーーさぁ、日本のメディアについては、このくらいで止めておこう。

だから、ロシアが、ウクライナでの紛争に駆り立てられるのかを理解できなくても、読者の皆さんが嘆く必要は一切ない。本来ここで嘆かなくてならないのはみなさんではなく、日本のメディアの人々なのである。

では、いったい私たちはどうすればいいのだろうか? 実は簡単な方法がある。オプエドの概念でこの戦争をみればいいのだ。具体的にいえば、ロシアやロシアに近い国のメディア、もしくはシンクタンクや情報機関などが何を語っているかに触れてみるだけでよい。なんと容易いことだろう。うん、簡単すぎる。

人は追いつめられると攻撃的になる。それは個人も組織も国家も同じだ。国家で言えば、内政で追いつめられれば、国民の目を外に向けさせるために戦争を仕掛けるし、他国からの脅威と圧迫を感じれば、やられる前にやれという意識(その多くは妄想だが)が働き、開戦を仕掛けるのだ。

誰の分析だって?ヘロトドスでも、タキトゥスでも、司馬遷でも、ツインビーでも、ジャレット・ダイヤモンドでも、ユヴァル・ノア・ハラリでも読んでみればいい。そこに記されている開戦理由の多くは共通しているのだ。

インターファックス通信によれば、すでにプーチン大統領は、予備役召集のための大統領令にサインしたという。戦争は近い。つまり、ロシアは何かに追いつめられているか、もしくは何者かの恐怖を感じているということになる。

Путин подписал указ о призыве граждан РФ из запаса на военные сборыПрезидент РФ Владимир Путин подписал указ о призыве граждан Р
www.interfax.ru

では、ロシアは何を恐れているのか? ざっとロシアやベラルーシなどのロシア寄りのメディアに目を通せば、欧米メディアではみえない、オプエド的なロシアの開戦理由に至ることはそれほど難しいことではない。そこに答えが書かれている。

1,チンギスハーンのタタール占領
2,ナポレオンによるロシア侵攻(祖国戦争)のトラウマ
3,プロイセンによる攻撃からの帝政崩壊とロシア革命
4,ヒトラーのソ連侵攻(独ソ戦)の恐怖の記憶
5,第二次世界大戦東部戦線の地獄絵図(3,000万人死亡)
6,米ソ冷戦終結による壁の崩壊と資本主義の浸透
7,NATO(往来自由)の拡大と加盟国の増大
8,イラク戦争によるテロリズムの国内浸透

いかがだろうか? 仮に、これら脅威に立ち向かうために、プーチンは開戦という選択肢を企図していると考えたら……。それは、もはや勇ましい強硬策でもなんでもない。単に見えない恐怖に慄いている、歴史的に虐げられ続けてきたロシアというか弱き大国の姿が浮かび上がってくるのではないだろうか。

オプエド的に考えると今回の「ウクライナ紛争」はこのようにも見えてくる。この手法で分析している日本のメディアはそう多くはないが、ゼロではない。『にいがた経済新聞』や『ニューズ・オプエド』などが先陣を切っているし、それに続いてくるメディアも出てきている。日本のメディアが依存型ジャーナリズムから脱却できるチャンスである。引き続きウクライナ紛争の報道に注目したい。

※筆者が確認した中では、大手メディアでは「テレビ東京」の豊島晋作氏がオプエド的な分析をしていた。さすがである。
https://www.youtube.com/watch?v=9j_-bJnp3Z8

 

上杉隆
1968年福岡県生まれ、東京都育ち。ジャーナリスト、株式会社NOBORDER社主、『ニューズ・オプエド』プロデューサー、NOBORDER NEWS TOKYO編集主幹​、株式会社八ヶ岳高原テラス会長、株式会社AICC社長、株式会社メディアカウンター社長、鳩山邦夫衆議院議員元公設秘書、ニューヨーク・タイムズ東京支局元取材記者、公益社団法人日本ジャーナリスト協会元理事長、日本外国特派員協会会員、日本政策学校顧問、本山派修験宗僧侶派員協会会員。『石原慎太郎「五人の参謀」』(小学館文庫)、『田中真紀子の正体』(草思社)、『議員秘書という仮面 – 彼らは何でも知っている』(小学館文庫)、『ジャーナリズム崩壊』(幻冬舎新書)など著書多数。


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