【3つの理由】誰も書かない「ウクライナ戦争」の真の勝者(ジャーナリスト上杉隆)


ウクライナ戦争での勝者は誰か? ロシアか? ウクライナか? あるいは別の国だろうか? 時に、戦争に勝者はいないという。だが、今回のウクライナ戦争ほど、はっきりと勝者の姿が現れたのは珍しい。

敗者は明確である。攻撃を受けているウクライナ? 国際社会からの信頼を失いつつあるロシア? あるいは、欧州の安全を守れなかったNATO? それともバイデン大統領になって対外的な力を失いつつある米国? 答えは、国際連合である。

1945年に創設された国際連合、その耐用年数を過ぎているとはよく指摘されることだ。無理もない。戦後のプレゼンスは激変し、国際協調の枠組みも新しいものになっている。80年近く前の戦勝国による国際管理体制がいつまでも有効だとは誰も思っていない。

とはいえ、今回のロシアの動きが示すように、P5(常任理事国)がここまで国連自身を蔑ろにすると、存在理由そのものが問われることになる。理事会の決定は意味をなさなくなり、国際的な安全保障の枠組みも無効化してしまうと言っても過言ではない。日本などの国がかつて目指していた常任理事国入りという議論がほとんど起こらなくなっているのも頷ける。

一方で、今回のウクライナ戦争は、意外な者の頭上に冠を戴かせた。その国が得た3つのメリットを挙げれば、必然的にその理由も見えてくるだろう。

1, 北京オリンピック中の非開戦公約を達成し、平和の祭典をアピール。
2, ロシアが受けるであろう経済制裁(SWIFTからの排除)の代替として、デジタル人民元を提示。
3, ウクライナ、ロシア双方にとって最大の貿易国となり、経済的な資源エネルギー戦略においても、また軍事的な意味でも圧倒的な存在となった。

今回の戦争の勝利といえば、習近平の中国をおいてほかにいないだろう。戦争当事国でない中国が勝者というのは奇怪な解釈に思えるかもしれない。しかし、今回の中国の対応は、ロシアという大国ですら、中国の影響力を無視できないということを見せつけた以上に、中国の承認を得れば、先進国の大半を敵に回してでも戦争ができるのだということを証明したことになる。

考えうる理由をひとつずつ解説しよう。

一つ目は、北京オリンピック中の開戦回避という困難な外交カードを見事にロシアに飲ませることができたことに尽きる。これによって中国は、北京オリンピックは平和の祭典として無事終了したと喧伝することができた(パラリンピックを無視しているという意見はそもそもかき消されている)。オリンピック休戦は、中国の外交的な勝利となっただけではない。あの強権的なプーチン大統領ですら、習近平国家主席のお願いは聞くのだということを世界中に見せつけることに成功したのだ。

他国の開戦日をコントロールできるというのは、戦争以上に世界史的に大きな事件だ。中国の存在と影響力はついにここまできたのだ。

二つ目は、デジタル人民元への移行の事実上の承認となったことだ。昨年より国内10か所のテスト地域で推し進めてきた中国のデジタル人民元は、北京オリンピックの開幕に合わせて世界中にローンチ・アピールしたのは記憶に新しい。だが、実際は、アフリカ、中央アジア、中南米などの一部の国・地域での積極的な導入にとどまり、全世界的なトレンドにはならないとみられていた。ところが、ウクライナ戦争によって大きな波となることが確定した。開戦によってロシアが国際金融決済の仕組みから排除される可能性を予測した中国は、各国からの措置を想定してデジタル人民元への誘導、というか迂回案をロシアに提示していた。

実際に、米国・EU(日本も)などが足並みを揃えてSWIFTからのロシアの排除を決めたが、これこそこそ中国の狙い通りであったのだ。ルーブルが凍結される中、デジタル人民元という新しい通貨、その強力な武器でもって、中国はロシアを救う形になるのだ。

三つめは、戦争当事者でも交戦関係国でもない中国は、ロシアにとってもウクライナにとっても、最大の貿易国であると点だ。まずは、ウクライナ。ウクライナにしてみれば、中国はトウモロコシを代表とする農産物の世界最大の輸出先であるし、鉄道や港湾インフラ、さらには、中国初の空母「遼寧」がウクライナ製であるように軍事的にも強いつながりをもっている。ロシアにとっても中国が大切なお客様であるのは同様だ。

中国は資源・エネルギーなどで最大の貿易相手であるだけではなく、今回の戦争によって制裁が予定されているEUなどの「代替取引先」ともなる。中国とロシアは、年間約17兆円の貿易額に加えて、天然ガスと原油の11兆円規模の新契約も締結した。経済制裁にとって苦しいはずのロシアだが、中国さえいれば「モーマンタイ」なのである。こうした等距離外交によって、中国は最良のポジションを得たということになる。

外交巧者の中国が覇権をうかがう日はもうまもなくだ。

 


上杉隆
1968年福岡県生まれ、東京都育ち。ジャーナリスト、株式会社NOBORDER社主、『ニューズ・オプエド』プロデューサー、NOBORDER NEWS TOKYO編集主幹​、株式会社八ヶ岳高原テラス会長、株式会社AICC社長、株式会社メディアカウンター社長、鳩山邦夫衆議院議員元公設秘書、ニューヨーク・タイムズ東京支局元取材記者、公益社団法人日本ジャーナリスト協会元理事長、日本外国特派員協会会員、日本政策学校顧問、本山派修験宗僧侶派員協会会員。『石原慎太郎「五人の参謀」』(小学館文庫)、『田中真紀子の正体』(草思社)、『議員秘書という仮面 – 彼らは何でも知っている』(小学館文庫)、『ジャーナリズム崩壊』(幻冬舎新書)など著書多数。


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