「強制投票で真っ当な政治を目指した方がよっぽど良いのではないか」(明治大学名誉教授 蟹瀬誠一)


参議院選挙がいよいよ目前に迫ってきた。選挙後は、いつものようにマスコミが投票率の低さと若者の無関心を嘆くことになるだろう。しかし、馬鹿も休み休み言えである。

そもそも戦後の20代の投票率は、昭和42年(1967年)の衆議院選挙を除いて、すべての選挙で世代間最下位である。つまり偉そうに上から目線で政治意識の低さを嘆く大人たちも若いときにはほとんど投票に行かなかったのだ。

ちなみに消費税増税が争点だった1996年の選挙での20代の投票率は戦後2番目に悪い36.42%。昨今の若者の投票率より低い。政治意識の低かった若者も歳をとるとやがて投票に行くようになるのである。

高齢者の意見が政治に過剰に反映される「シルバーデモクラシー」が蔓延るのも当然と言えば当然なのだ。今やシルバーデモクラシーは、日本だけでなく、少子高齢化で人口が減り始めた先進諸国でも議論されている問題だ。「みなさん、投票に行きましょう」と声を枯らしても国民の政治意識が高まるのを待っていてはあと何百年、いや何千年掛かるか分ったものではない。

となると投票率は上げる方法は2通りしかないと私は思う。罰かご褒美である。オーストラリアは罰を選択した。投票所に行かない人には50オーストラリア・ドル(約5,000円)の罰金が待っている。そのお陰でオーストラリアでは投票率が90%以上と高い。ベルギーなどでも同様の罰金制度がある。じつは、義務投票制度を導入している国は世界で約40か国もあるのだ。

義務投票制度は政治家にとっても厳しい制度だ。なぜなら国民が自分の1票の行方に強い興味を持ち、有権者が政治家を見る眼がおのずと厳しくなるからである。本気で国民の方を向いていない政治家は落選の憂き目にあうことになる。

もうひとつは投票に行くと「ご褒美」がある制度だ。実現はしていないが、米フォーチュン誌が提案した。大統領選挙の一般投票の投票率が50%程度と低いからだ。いっそのこと大統領選挙に宝くじを付けてしまえというのである。

やり方はいたって簡単だ。投票用紙の一部を宝くじにして、投票に行くと宝くじの当選権が得られるようにするのだ。新大統領が決まると同時にニュース番組で宝くじの当選者も発表されるから、投票日は大変なお祭り騒ぎになるだろう。

一等当選金額が500億円ぐらいになっても不思議はないという。なぜなら宝くじのスポンサーになりたい企業が続出するからだ。確かに全米が注目するのだから抜群の宣伝効果があるに違いない。さすが成功を所得の多さで計る資本主義のお国柄である。

さて我々日本人には罪とご褒美のどちらを選ぶだろうか。どちらにせよこれまで投票に行かなかった人たちが投票所に足を運ぶようになれば政治が変わり、政治が変れば社会が変る。

そもそも有権者のわずか3割しか支持していない人物が国会で偉そうに発言していることが理不尽の極みではないか。強制投票は愚民政治に繋がるとの批判があるが、この制度でオーストラリアやベルギーが滅びたという話は聞かない。自由投票で頼りにならない政府が生まれるくらいなら、強制投票で真っ当な政治を目指した方がよっぽど良いのではないか。

 

蟹瀬誠一

1974年上智大学文学部卒業。米AP通信社、フランスAFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、91年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のTV報道界に転身。米国、欧州、南米、中東、アジア、中国、ロシア情勢など海外ニュース取材に活躍。西側TVジャーナリストとして初めてロシア戦略原潜タイフーン内部取材、中国マフィアなどをスクープ。ウクライナ戦争についても連日寄稿している。現在は『賢者の選択Fusion』キャスター、『ニュース・オプエド』編集主幹。外交政策センター理事、価値創造フォーラム理事、明治大学名誉教授、東京クラシッククラブ専務理事。趣味は読書、美術鑑賞、ゴルフ。


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