「『リベラル野党』を育てる時だ」(元毎日新聞政治部編集委員 平林壮郎)


安倍晋三元首相が遊説中に撃たれて亡くなるという大きなニュースが世界を駆け巡った参院選は10日の投票の結果、与党・自民党の大勝、野党の敗北で終わった。

63議席を得た自民党は単独で改選過半数を確保。公明と合わせて参院全体の6割近い議席を占め、昨年10月の衆院選に続く勝利で岸田文雄首相の権力基盤はさらに強まった。

安倍氏への狙撃事件は衝撃的だったが、自民勝利、野党敗北という結果に驚きはない。賛否が分かれる問題を先送りして超安全運転に徹してきた岸田政権の支持率は5割~6割を維持していた上、新聞などの選挙戦序盤や終盤情勢で自民党の安定した戦いぶりが報じられていたからだ。

参院選全体の勝敗の行方を決めるといわれる32の1人区は前回(2019年)と前々回(2016年)はまがりなりにも野党共闘が成立し、統一候補として巨大与党に挑んだ。しかし今回の統一候補は11選挙区にとどまった。結果は4勝28敗と予想通り野党の惨敗だった。

もともと力の弱い野党がバラバラに戦えば、勝ち目はほとんどない。公示前に自民党関係者は「今度の参院選は負けることはない」と余裕の表情で語っていた。

野党の苦戦はたたかう前から見えていたが、野党にとって根深い問題は実は今回の敗北ではない。2012年からの衆院選と参院選で8連敗も喫しているということにある。

これはどう考えても尋常ではない。いや、負ける理由があるから負けるのだ、という話ではあるが、こう負け続けると、日本の選挙制度が想定している政権交代など夢のまた夢になる。非力な野党では、与党の権力行使のチェックは十分にできないし、日本の政治に緊張感がなくなってしまう。それは与党の傲慢な国会運営や力に頼った暴走をもたらす恐れがある。

6議席減の立憲民主党、2議席減の国民民主党と旧民主党の流れをくむ両党は深刻な結果となった。収束しないコロナ禍に加え、ロシアのウクライナ侵略やエネルギー危機、物価高など戦後の国民生活でも経験しなかった「社会不安」に日本は直面している。多党化し、分断している野党の主張よりも危機の状況だからこそ政治の安定を訴える自民に消極的であっても票が集まったということだろう。

野党の中で日本維新の会は躍進した。改選議席より倍増の12議席を獲得。比例区では立憲より100万票以上積み上げ、目標にしていた比例での野党第一党を達成した。

では与党に対抗するための野党再生に向けて維新が大きな役割を担うのだろうか。答えはノーだ。維新の考え方の基本は新自由主義であり、手法はポピュリズムの傾向が強い。自民より右の立ち位置にあり、自民に対抗する野党陣営の主軸になるのは難しい。

自民に対峙する野党という構図を作るには立憲の立て直しがやはり不可欠だ。課題は多く、いばらの道だが、ここまで負け続けたら神風はもう吹かないと覚悟を決めるしかない。

まず取り組まねばならないのは、自民党に対抗しうる理念を示し、それを実現する具体的な政策を鍛えることだ。弱い立場の人に目配りし、貧困と格差を解消し、人々の連帯を促すような具体策は今の自民党政治からは出てこない。宏池会領袖の岸田首相はその前の安倍-菅政権よりはリベラル寄りだが、2001年の小泉政権以降、自民党は市場原理や規制緩和を強める政治に傾斜しており、立憲が人々の共感を呼ぶ「もう一つの社会像」を打ち出す余地は十分にある。

さらに地方組織の拡充や新たな人材の発掘と登用も急務だ。いずれも言うは易し、ではあるが、本気でやらなければ党自体が消滅する。

今回の参院選で立憲と国民が敗北した理由の一つに、両党の最大の支持基盤である連合の稚拙さも指摘せざるを得ない。

昨年10月に連合トップになった芳野友子会長は自民党本部の会合に出席し、自民党幹部と夜の会食も重ねたという。「連合の政策実現のため」という名目だが、立憲と国民を支援する連合を引きはがしたいという自民党の狙いははっきりしている。権力を持つ自民の「悪魔のささやき」に簡単に一線を越えてしまううぶさ加減は信じがたい。

労働組合の組織率は2割を割り込み、組合員の野党支持の意識も薄まっている。トップの無防備な自民へのすり寄りは野党の支援組織としての連合の弱体化をさらに加速させるだろう。

日本の健全な民主主義のためにも政権交代を期待させる強い野党は必要だ。そのためにも自民党に代わりうる野党を有権者が育てるという意識が欲しい。

参院選の結果、「自民党1強」はさらに続くことになった。だが岸田政権の今後は安泰とはいえない。党内の保守層のまとめ役でもあった安倍氏が亡くなり党内秩序は流動化する。憲法改正や対米公約となった防衛費増額、金融緩和など世論の賛否が割れる懸案に岸田首相は結論を出さないといけない。「聞く力」をアピールするだけではすまなくなるのだ。

立憲は自らを立て直し、野党連携を進め、いかに巨大与党に立ち向かっていくのか。気が遠くなるような道筋に思えるが、次の国政選挙の勝ち負けでいえばたたかい方はある。

今回の参院選の投票率は52・05%。戦後4番目に低く、二人に一人しか投票していない。これは見方を変えれば、掘り出していない「宝の山」が半分もあるということだ。そのうち数パーセントの有権者を振り向かせて得票に上乗せできれば、勝利を呼び込むことも可能なのだ。

平林壮郎(たけお)

1954年東京生まれ。立教大学法学部卒業。毎日新聞政治部で首相官邸、自民党、野党、文部省、自治省など担当。世論調査室長。立教大学、埼玉大学、玉川大学で「現代政治」や「メディアと社会」などを講義する。


こんな記事も