「FBIはなぜトランプ私邸を家宅捜索したのか」(明治大学名誉教授 蟹瀬誠一)


史上初2回も連邦議会の弾劾訴追をまんまとすり抜けた傍若無人な米国のトランプ前大統領に、また前代未聞の事態が勃発した。

米連邦捜査局(FBI)が8日、フロリダ州パームビーチにあるトランプの邸宅マール・ア・ラーゴの家宅捜索に踏み切ったのだ。大統領経験者が家宅捜索を受けたという話しはこれまで聞いたことがない。

司法省による異例の申請で公開された捜査令状によれば、捜索容疑は公文書の隠匿・破棄、スパイ防止法違反、連邦捜査にかかわる文書の破棄や改ざんというから極めて由々しき事態だ。

押収品リストの中には最高機密を含む11組の機密文書があり、中には「TS/SCI」と呼ばれる最高機密もあった。核関連など漏洩されれば米国の国家安全保障に「きわめて重大」な打撃を与える情報のことである。

昨年の大統領退任時にトランプはホワイトハウスから機密文書を含む公文書を無断で持ち出したことが明らかになり、今年に入って国立公文書記録管理局がトランプの邸宅から段ボール箱15個分の文書を回収していた。だがそれ以外にもトランプが機密文書を隠し持っていることをFBIが突き止めていたのだ。

米国では1978年の大統領記録法によって、大統領の公務に関する電子メールやメモ、書簡などあらゆる記録を保存し、退任時に国立公文書記録管理局に提出することが義務づけられている。貴重な歴史的資料だからだ。機密文書隠匿罪は2千ドルの罰金と3年以内の禁固刑。スパイ法違反で有罪になれば文書ごとに最高10年の実刑となる。

ところがトランプはそんなことはお構いなし。家宅捜索は「検察による不正行為」「司法の武器化」「24年の大統領選に出馬させないための民主党の過激左派による攻撃」「魔女狩り」だと怒りをぶちまけた。自分を”被害者“に見立てて支持者の怒りを煽るのは彼の常套手段である。

在任中の選挙妨害、脱税、セクハラなど数々の疑惑や連邦議会議事堂襲撃事件への関与など、自身に不利な証拠はすべて隠滅しようとしているのだろう。

はたしてトランプは訴追されるのか。その可能性はある。起訴できる確証がなければFBIが前例のない前大統領の家宅捜索に踏み切らないだろう。

ただ、3ヶ月後に迫った中間選挙前に司法省が訴追すると、選挙に影響を与えるだけでなく政治的謀略だと批判されることは間違いない。トランプ支持者が多い共和党はすでに「司直の政治化」だとして猛反発している。おそらく訴追は来年になるのではないか。

米紙ニューヨーク・タイムズの記者が、秋に発売される著書で、トランプが在任中に公文書を頻繁にトイレに流していたことを証拠写真とともに暴露していることが明らかになった。米ニュースサイトAXIOSによって公開されたその写真を私も見たが、便器の中に沈んだ紙片にある文字はトランプの筆跡と酷似している。

事実なら公文書破棄の常習犯だったことになる。間違ってもこんな危険人物を再度大統領に選んではいけない。

蟹瀬誠一

1974年上智大学文学部卒業。米AP通信社、フランスAFP通信社記者、米TIME誌特派員を経て、1991年にTBS『報道特集』キャスターとして日本のTV報道界に転身。米国、欧州、南米、中東、アジア、中国、ロシア情勢など海外ニュース取材に活躍。西側TVジャーナリストとして初めてロシア戦略原潜タイフーン内部取材、中国マフィアなどをスクープ。ウクライナ戦争についても連日寄稿している。現在は『賢者の選択Fusion』キャスター、『ニュース・オプエド』編集主幹。外交政策センター理事、価値創造フォーラム理事、明治大学名誉教授、東京クラシッククラブ専務理事。趣味は読書、美術鑑賞、ゴルフ。


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