【コラム第4回】「地域活性化とインバウンド 次のステップへ」(蔡紋如「MAHORA西野谷」代表)

MAHORA西野谷の縁側で着物撮影体験
最近、取材を受ける機会が増え、「次の目標は何ですか?」とよく聞かれる。次の目標は、もう一棟の空き家再生に取り組むことだ。日本各地で古民家や空き家の再生に興味を持つ人は増えており、特に若い世代が地域に関心を寄せるケースが多くなっていると感じる。単にもう一棟を再生して終わりではなく、この取り組みを通じて上越妙高エリアに関心を持ってもらい、古民家宿をきっかけに地域を訪れてもらいたいと考えている。
ただし、知らない土地にいきなり移住するのはハードルが高い。生活の安定や職業としての足がかりがなければ難しいのも事実だ。そのため、地方でビジネスをしたい若者にまず上越妙高エリアに興味を持ってもらい、ここを拠点にチームを組んで活動できる場を作りたい。観光のみに注力するのではなく、雇用を生み出すことも大きな目標だ。
先日、MAHORA 西野谷では場所貸しでインバウンドセミナーが開催された。参加者の皆さんが非常に熱心で、インバウンドへの関心を強く感じた。しかし、ただ「外国人に来てもらう」だけではなく、「この地域のどんな魅力を、誰に届けたいか」を意識することが大事だと思う。外部の人間だからこそ気づく地域の良さもあり、地元住民が普段の生活で見落としている魅力を掘り起こすのが重要だ。
「この宿はインバウンド向けですか?」とよく聞かれるが、正直なところMAHORA 西野谷開業当初はインバウンドを深く意識していたわけではない。振り返ると、結果的に自然と海外のお客様を迎え入れる体制が整っていたという感じだ。私自身が台湾出身であるため、繁体字のページを作成したり、冬のスキー客向けには英語の情報を整えたりしている。最近ではブラウザの翻訳機能も進歩しているので、十分な予算がなくても日本語のコンテンツを発信すれば、興味を持ってくれる方は少なくない。
一方、初期段階では OTA(オンライン旅行代理店)を活用するのも効果的だ。海外の場合は特にBooking.com、Agoda、Expedia、Airbnb など、自分の宿のスタイルに合った媒体を選ぶと、コストを抑えながらも国際的な露出が可能になる。また、自社サイトがない場合でも、最低限 Google ビジネス報を登録しておけば、多くの外国人観光客に情報を届けられる。
MAHORA 西野谷の一年から見えるもの
現在、MAHORA 西野谷に宿泊するお客様の割合は、日本国内と海外がほぼ半々だ。冬季は妙高がスキーリゾートとして知られているため、海外からの長期滞在者が多い。意外なことにリピーターではなく、初めて妙高の雪を選ぶ方が目立つ・妙高特有のパウダースノーを求めてやってくるのが大きな理由だろう。
一方、グリーンシーズンは国内やアジア圏のお客様が中心になる。古民家一棟貸しの特性から、家族やグループがプライベートな空間を楽しむために利用するケースが多く、子どもたちの自然体験や特別なお祝いの場としても好評だ。
これからもこうした特性を活かし、地域に根ざしたインバウンド戦略を展開していきたい。古民家再生を通じて、上越妙高エリアでの暮らしやビジネスの可能性を広げる取り組みを続けることで、観光だけでなく、新たな雇用やコミュニティづくりにもつなげていきたいと考えている。

蔡紋如(サイ・ウェンル)
台湾出身。2014年に結婚し、夫とともに妙高へ移住。独学で総合旅行業務取扱管理者の資格を取得し、妙高市観光協会に積極的にアプローチしてインバウンド専門員として採用される。主にアジアの華僑系顧客をターゲットにプロモーションを展開し、企画制作を担当。また、FacebookなどのSNSを活用して日本での生活をPRする活動も行う。コロナ禍で観光業が大きな打撃を受けたことで、地域のために何ができるのかという強い危機感を抱くようになる。2023年、農業と観光業を通じて地域を活性化することを目指し、合同会社穀宇を設立。2024年には京都大学経営管理大学院観光経営科学コースを卒業。同年4月に築120年の文化複合施設「MAHORA西野谷」を開業する。
【関連サイト】
MAHORAホームページ