【コラム】新年度になりました|益田浩(元新潟県副知事・前中国運輸局長)

はじめに

新年度になりました。4月中旬には東京の桜も葉桜になりましたが、新潟はGWに向けて、もう少し楽しめそうでしょうか。今年は(今年も?)天候不順で、3月になっても何度か寒波に襲われましたが、そのためか、近年には珍しく、4月上旬の入学式のシーズンにまだ桜が咲いていました。私の幼少期には、桜は入学式の頃でしたが、今は3月の卒業式の時期です。そう思うと、秋の季語である台風も、最近は早ければ6月に来襲しています。アメリカのトランプ新政権により地球温暖化対策が停滞し、異常気象に拍車がかかることが懸念されます。

通勤経路にある桜

混迷するのは、今や地球温暖化の施策に限られません。「千日に刈った萱一日に亡ぼすこと勿れ」という格言があり、築いた信用も油断すると一瞬で崩れてしまうという意味で、自らへの戒めとしていますが、日々目にするアメリカのトランプ新政権の振る舞いを見ていると、まさに悪いお手本となっています。第二次世界大戦後の自由貿易体制の恩恵を他のどの国より享受しており、また、西側世界のリーダーを自負していたアメリカがここまで内向きとなるとは予想できませんでした。同盟国・友好国を敵に回したいかのように連発される諸々の施策や大統領、閣僚の不躾な発言は、これまでのアメリカへの憧憬を一瞬で霧消させています。将来、失ったものを取り戻すためにいかなるコストを払うことになるのか、そもそも取り戻そうという意識も無くなるのか。今後の世界史の中で、歴史の転換点と記録されるかもしれません。多極化する世界情勢の中で、日本のかじ取りは格段と難しくなります。

残念と言えば、新潟県庁での勤務から東京に戻って以来、愛して止まない寿司バル弁慶・神田店がこの4月26日に閉店となります。新潟が誇る有名寿司店・弁慶の系列店で、美味しく、値段もリーズナブルな同店は、知人との会食で紹介すると、間違いなく激賞され、リピーターになってくれます。毎回、旬のネタのお寿司を満喫し、棚に並ぶ大量の日本酒のカップ酒に目移りしていました。Tsubamesanjo Bit東京店と並び、東京で新潟を感じる貴重な行きつけのお店で、残念でなりません。息子も大好きで、土曜日にはよく一緒にランチに行きました。ここで初めてウニが食べられるようになった息子は、高校生でこの味を覚えてしまい、もう回転寿司には行けないと嘆いています(涙)。閉店の発表後、2回、昼と夜に訪問して名残を惜しんできました。推し活の用語でいうと、「推しは推せるときに推せ」です。推しが卒業発表をしたような喪失感があります。こんなに早くお別れが来るとは。これまで、ありがとうございました。

寿司バル弁慶・神田店

にぎり・弁慶スペシャル

 

民間企業で働く

昨年12月に東京の民間鉄道会社に顧問として再就職してから、早くも4ヶ月が経ちました。周囲の方々にとても良くしてもらい、正直、予想以上にすんなり新しい職場に馴染んでいます。国家公務員の頃、国土交通省鉄道局を2回経験し、新潟県庁出向時にはえちごトキめき鉄道の社外取締役を務め、北海道庁や中国運輸局では、地方ローカル線の存廃問題に関わるなど、鉄道事業はある程度土地勘があるため、少しはお役に立てているのではないかと思います。良い意味で意外でしたが、新しい取組を推奨する企業文化もあり、鉄道の利用促進につながる外部との新規連携施策ができないかなと模索しています。読者の皆様も面白そうなコラボ案件の提案がありましたら、是非、お声掛けください。

現在は、7年ぶりに個室ではなく、いわゆる平場に決まった座席があり、毎日、1時間弱かけて出勤しています。平場の席では、周りの会話や電話のやり取りが耳に入ってくるので、何の案件が動いているのか、アンテナが立てやすく、また、近くの同僚にも声がかけやすいので助かります。同じ鉄道会社でも座席がフリーアドレスの会社があり、国土交通省の同期が再就職しているのですが、「隣に席に誰がいるのか、分からない。人を訪ねていこうにもどこに座っているのか、分からない」という悩みを聞きました。フリーアドレスは職場スペースの有効活用やコミュニケーションの活性化などのメリットがあると言われていますが、盲点もあるのだなと感じました。

民間企業なので、中長期計画や施策を考える際には、収支計画は必須であり、ROA(総資産利益率)、ROE(自己資本利益率)、EBITA(利息税引前当期純利益)、などの経営指標やアセットライドなどの用語がしばしば議論の俎上に載り、資料にも登場します。KPI(重要業績評価資料)以外の指標は、国家公務員の施策ではあまり目にしません。個別の施策では、収支がトントンくらいであっても、実証実験的にかなり柔軟にトライアルしています。どういう施策を取ると、どういう反応があり、どういう結果となるのかを検証する意義があればやってみよう、響かないかもしれない施策もなぜ響かないのか、どのくらい響かないのかが分かるのであれば試してみる価値があるという考え方です。鉄道事業単体での収支は厳しくても、グループ全体としてプラスになるならGoサインが出たりするので、かなり柔軟だなと感じます。国の場合、その施策だけを取り上げて国会やマスコミで上げ足を取られそうで、二の足を踏むでしょう。

その他、民間企業ならではと感じたのは、労働組合と株主総会です。国家公務員には争議権がないなど労働基本権が一定の制約を受けているため、労働組合がストライキ権を確立するための投票行為や労働条件の改善を求める春闘は新鮮でした。なお、労働組合の幹部の方々からは、いわゆる天下り反対と厳しい態度を示されるかなと緊張していましたが、丁寧かつ建設的に応対していただき、安堵しました。労使の懇談会で意見交換や懇親をする機会があり、国家公務員の頃も交通系の労働組合幹部の方々とは折に触れて、施策に関する意見交換をしていましたが、個別の企業の労働組合の平素の活動や体制などには興味津々なので、質問攻めにしてしまいました。

株主総会は例年6月に開催するため、現時点では未経験です。自分が株主からの質問に答弁する立場にはないため、今回の株主総会は事前準備も含めて、勉強させてもらう機会と臨みます。

思えば、北海道庁で交通企画課長を務めた際、北海道議会の新幹線・総合交通体系対策特別委員会で初めて答弁デビューをし、内閣審議官を務めた内閣官房では、東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部企画・推進統括官として、東京2020オリパラ大会の開催準備に関して、また、国際博覧会推進本部事務局次長として、現在開催中の大阪・関西万博の開催準備に関して、それぞれ衆議院や参議院の諸委員会で答弁する機会がありました。

前者では、関連法律の改正の必要性やコロナ禍での東京オリパラの開催の是非について野党から厳しく追及されましたし、後者では、参議院外交防衛委員会で、林芳正外務大臣(当時、現内閣官房長官)の隣で答弁し、NHKで全国中継されています。

参議院外交防衛委員会(令和4年3月31日)

国会答弁ではありませんが、令和6年3月26日に開催されたJR西日本のローカル線である芸備線を巡る存廃問題を議論する第1回芸備線再構築協議会で議長を務め、その後の記者会見に対応した際は、全国初の事例であったことで多くのマスコミの関心を集め、大リーグの大谷翔平選手の記者会見と間違っているのでは、と同僚と冗談を言うくらいの数のカメラの放列の前で、質疑を行いました。現在は、記者会見はもちろん、来賓として多くの方々の前であいさつするような機会も無く、すっかり肩の荷が下りた感じです。

職場環境においても国との違いが多々あり、いわゆるお茶出しも女子職員に頼むことはなく、市販の小型ペットボトルが冷蔵庫に用意されていて、訪問者に提供することができます。中国運輸局長の頃は小型ペットボトルを購入する予算がなく、女子職員の手を煩わせるのも気が引けたので、毎月負担する共用費で購入した自分たちが飲むための1.5Lのペットボトルから自分でお茶を入れて、来客に出していました。また、今では自分の名刺の用紙代を自ら負担する必要が無くなりました。福利厚生制度も格段に手厚くなりましたし、社員食堂も安価で、かつ、大事なことですが、美味しいです。

霞が関の官僚の働き方がブラックだと言われ、若手の退職者が続出してようやく社会的課題となってきましたが、深夜に及ぶ国会対応、給料の安さ、基本的な勤務環境の劣悪さなど、人材獲得競争で大きなハンデを負っていることは間違いありません。それを補うだけのやり甲斐があると強調されますが、仕事のやり甲斐はどこで働いても見いだせます。国家公務員のコストは税金で賄われることから、国家公務員叩きに熱心なマスコミをはじめ、誰も待遇改善の取組を自分事として考えていない状況が続いています。社会インフラの老朽化と同じで、見た目にも気づくほど劣化するまで、なかなか迫っている危機が世の中に伝わりません。国家公務員、特に官僚の待遇を大幅に見直さないと、早晩、我が国の背骨がガタガタとなりそうです。古巣の将来を懸念しながら、今月は終わることにします。

 

益田浩(ますだひろし)|元新潟県副知事・前中国運輸局長

昭和61年3月私立修道高等学校卒業、平成3年3月東京大学法学部卒業。国家公務員Ⅰ種(法律)合格。平成3年4月運輸省採用。平成9年7月運輸省大臣官房人事課付(英国ケンブリッジ大学留学国際関係論)、平成27年7月自動車局自動車情報課長、28年6月大臣官房参事官(税制担当)などを経て、29年7月新潟県副知事。令和2年7月内閣官房内閣審議官(内閣官房副長官補付)、内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局企画・推進統括官、令和4年6月国土交通省中国運輸局長。現在は在京の大手私鉄会社顧問。

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