【特別寄稿】北陸新幹線開業から10年 駅前が語る地域のこれから 平原匡(上越妙高駅前フルサット運営)

上越妙高駅西口全景。中央に見える扇型のコンテナタウンが「フルサット」
去る3月15日、北陸新幹線およびえちごトキめき鉄道は開業10周年を迎え、各種セレモニーが開催されました。フルサットでは恒例の「フルサット市」が催され、多くの皆さまにご来場いただきました。2025年春現在、コロナ禍が落ち着き、人の流れが戻りつつある中で、駅周辺の雰囲気も大きく変化した印象を受けます。今回は、上越妙高駅の現状と今後の可能性について、改めて整理してみたいと思います。
開業当初は「何もない」と評されていたこのエリアも、年月とともに変化を遂げてきました。2018年には東口に1棟、2020年にはさらに2棟のホテルが開業し、計500室以上を有する規模に。これにより、駅周辺の夜間 滞在人口は大きく様変わりしました。もちろん、2020年以降はコロナ禍によって新幹線利用者が激減し、厳しい時期が続きましたが、ホテルの存在は観光・ビジネスの両面で滞在需要を生み出し、「通過する場所」から「滞在する場所」へと、駅の性格が変わりつつあることを、日々の事業を通じて実感しています。
では、現在の上越妙高駅周辺はどのような位置づけにあるのでしょうか。以下の3つの視点から整理してみます。
1「バケーション」の入り口として
上越妙高駅は、妙高市に近接した立地から、スキー場やリゾート施設へのゲートウェイとしての機能を担っています。ホテルの送迎バスが発着し、観光客がこの駅を起点にリゾートエリアへ向かう光景は、今や日常の一 コマとなりました。開業当初は、妙高エリアへは⻑野経由が一般的でしたが、上越妙高駅の整備により、こちらを起点とする動きも着実に増えています。レンタカーやレンタサイクルの貸し出し拠点が整ってきたことも、大きな要因です。また、【佐渡島(さど)の金山 】の世界遺産登録が実現した中、関⻄⽅⾯から佐渡へのアクセス拠点としての役割が⼀層強まると期待されます。
2「ワーク」ビジネスのハブとして
新潟県や上越市の誘致施策もあり、駅周辺には首都圏企業のサテライトオフィスが徐々に進出しつつありま す。この流れは、今後もハード面の整備とともに加速していくと考えられます。
リモートワークに対応した個室や、小規模(10名程度)の会議スペースに対するニーズも高まり、10年前には 問い合わせベースだったこれらの需要も、今では日常の風景として定着しています。
また、「新幹線駅前での起業・創業」をテーマとした地域づくりへの関心も高まっており、NHK福井で放送された【ホクロック!「北陸新幹線延伸まで1年 どうする?北陸のまち」放送日:2023年4月6日】でも、フルサットを中心とした「新幹線新駅 × 地元の若者によるチャレンジ」が、時代に即した価値ある取り組みとして紹介されました。
3「ライフ」暮らしを支える環境整備の必要性
職(食)と住の両立に加え、「生活(ライフ)」そのものを支える環境の整備も重要です。ホテルや飲食店、コ ンビニはそろっている一方で、地元の人々が日常的に通うパン屋、酒屋、スーパーなど、暮らしの匂いが感 じられる店舗はまだ少ないのが現状です。
あるワーケーション利用者は「地元のスーパーに行ってみたい」と語っていました。旅行で訪れる海外の街 で、地元スーパーを歩くのが楽しいように、日常に触れられる場所があることは、⻑期滞在者にとって地域を 深く知るきっかけになります。今後は、ロングステイに対応した宿泊施設や、生活機能のさらなる充実が求められ、そのような需要を喚起し、受け止める必要があるでしょう。
年月を重ねる中で、上越妙高駅前は「完成された街」ではなく、成⻑・変化を続ける「進化する街」としての姿を見せ始めています。これは、新幹線開業から10年、そしてフルサットの9年間の歩みを物語っているとも言えるでしょう。
駅とは、地域のエッセンスを凝縮したブイヤベースのような存在であるべきではないでしょうか。訪れる人にはその街の魅力を分かりやすく伝え、地元の人にとっては他地域とつながる風通しの良い場”となる。地方創生のキーワードである「ワーケーション」の観点からも、上越妙高駅は「ワーク・ライフ・バケーション」 の環境整備に注力すべきです。それこそが、新しい価値を生み出すエリアへと発展していく鍵になると信じています。
次の10年をどう過ごすか?次の世代で議論を!

上越妙高駅開業10周年を記念したフォーラムの様子
3月22日、上越妙高駅開業10周年を記念したフォーラム「2035年に向けて、地域の将来を思い描こう!『上越 妙高駅 10年の軌跡と未来への展望』」が開催され、市内外から約50名が参加しました。主催は、上越市・妙高市の事業者らによる「上越妙高駅ネクスト10コンソーシアム」です。
基調講演では、⻘森大学の櫛引素夫教授が、新幹線開業から10年の全国的な動向を紹介。記者としての経験を もとに、上越妙高を含む各地の現状と課題を多角的に語りました。新幹線は地域活性化の手段である一方で、 駅周辺と旧市街との連携や、観光以外の波及効果が見過ごされがちであると指摘。地域連携、住⺠意識の変 化、そして⻑期的な活用戦略の必要性を訴えました。重要なのは、画一的な評価ではなく、地域ごとの主体的な取り組みと未来志向の行動であり、現代の技術も活かしながら、地域課題を解決する手段としての新幹線の 可能性が示されました。
続いてクロストーク。セッション1、上越市創造行政研究所の内海巌副所⻑との対談では、新幹線駅の開業前 後を懐かしい写真と共に10年前を知る2人で振り返りました。セッション2では「移住・起業」をテーマに、 市内に移住し事業を始めた3名が登壇。宮本正裕さん(ガンギブリューイング/クラフトビール醸造)、打田亮 介さん(ニトデザイン&リビルド/町家のリノベーション)、高木桂さん(清里いばしょベースcha-ya/子ど も食堂の運営)といった取り組みを通じて、地方に移住し、暮らし、働くリアルが語られました。中でも東口にオープンしたガンギブリューイングの共同運営者・宮本正裕さんは、「NIIGATA-JOETSU-MYOKO(新潟、上越、妙高)」という地域ブランドのもと商品を展開してきたことに触れ、「上越妙高」という名前のブランド力を強調。インバウンド分野の成⻑が期待される中、海から山までが一体となったエリアの可能性をプレゼンしまし た。
セッション3では、新幹線開業によって生まれた「人流」に焦点を当て、富山国際大学の大谷友男教授と、人流調査を行うデジタルマネージ・ウィズエーの横田孝宜代表取締役が登壇。大谷教授は「北陸新幹線開業以降、富 山・金沢では人の流れが旧市街地から駅前へとシフトした」と説明。横田代表取締役は「駅⻄口にあるフルサットで は、宿泊者を中心に平日夕方の滞在人口が増加しており、出店希望者にとって有益なデータとなる」と述べました。

定期的に開催される「フルサット市」
この度、10周年を単なる節目にとどめず、こうした地域の変化を共有する場を持てたことは非常に意義深く感 じています。今後も、観光、医療、移住、教育といった多角的な視点から、新幹線がもたらした変化を捉え、 語り合い、次の10年へとつなげていきたいと考えています。
まちづくりの文脈では「賑わい」をつくることがしばしば語られますが、私たちは「賑わいをつくるプレイヤ ー」を集め、育てることにこそ価値があると考えています。挑戦したい人の入り口”として上越妙高駅があり続け、その中心にフルサットがあるという意識は今も変わりません。
10周年を迎えた今、次の10年は静かなる醸成の時間です。華やかさは控えめかもしれませんが、10年後に 「美味しく熟した地域」として存在感を放つために、着実な戦略と地道な人材のターン(回帰・定着)を積み 重ねていくことが求められています。一人ひとりの人材が地域に根付き、動き出すことが、街にとって何より の財産となるはずです。