【取材レポート】武田信玄の家臣達が語り継いだ上杉謙信公の「敵に塩を送る」! 竜哲樹(にいがた経済新聞社顧問)

歴史家の乃至(ないし)政彦氏による「敵に塩を送るは忠実か」と題する記念講演会
新潟県上越市ゆかりの戦国武将・上杉謙信公を顕彰する「謙信公『義の心』の会」(石田明義会長)は4月27日、歴史家の乃至(ないし)政彦氏を招き、同会4月例会として、「敵に塩を送るは忠実か」と題する記念講演会を市民プラザで開催した。始めに第1部として石田会長は「山鳥毛一文字一時帰還~謙信公祭100回」をテーマに、「謙信公祭100回のアニバーサリーイヤーを記念して、謙信公の愛刀・山鳥毛一文字が8月13~24日、上越歴史博物館に展示されることになり、まさに450年ぶりに上越市に一時帰還となる。豪壮で華麗な一振りを見に全国からたくさん刀剣ファン・謙信公ファンが訪れるに違いない。今回の絶好の機会を盛り上げるために6月21日上越市で『山鳥毛一文字を10倍楽しめるフォーラム』を開催したい」と言及した。
当日は同会員ら約50人が集まり、乃至氏の独自の視点による「上杉謙信公像」が披露され、参加者らは大きな関心を持って、熱心に耳を傾けていた。なお、乃至氏は戦国史や上杉氏、上杉謙信公について造詣が深く、史実の忠実な歴史考証は高い評価を受け、今一番注目される新進気鋭の歴史家であり、NHKBSの番組や著書など多くの謙信公関連の番組出演や書籍出版しているほか、各地で講演会活動も行っている。なお、乃至氏は昨年の同会例会にも講演している。
今回の演題である「敵に塩を送るは忠実か」では、乃至氏は「昔から『敵に塩を送る』ということわざがあったが、独自に調べる中で、謙信公がどういう人物なのかと大変興味を持つようになった。今川氏真や北条氏康が海のない信玄に塩の輸出を禁止した状況において、謙信は信玄とは塩止めではなく弓矢で戦うんだと厳命した。武田は塩で困っていたが、『謙信が塩の値上げを規制する』との筋書きが拡散したと言われている。しかし事実は、『山鹿語類』から影響を受けた武田側が語り継いで、塩送りという史実が広がり、謙信の方も『信玄と合戦する気はあるが、経済戦争には加担しない』との思いから、北条や今川との関係の中で、彼らに和睦を妨害されないように計算したのではないか。そうした一連の対応を通して、その印象がそのまま武田家中で語り継がれたことで、この『敵に塩を送る』という逸話は『風流』のカテゴリーに属することになったのではないか。世にいう『義の心』とは、こういう風流ある心映えを指すのかもしれない」と語った。
つまり武田家は滅んだが、武田家臣達が、謙信の善行を語り継いで、今日に至っているのではないかと結論付けたのである。故に上杉謙信の「敵に塩を送る」というのは史実と捉えられるに違いない。
乃至氏は1974年香川県高松市生まれで、現在は神奈川県相模原市に在住。2011年、伊藤潤氏との共著「関東戦国史と御館の乱」でデビュー。著書は「謙信×信長 手取川合戦の真実」や「謙信越山」「上杉謙信の夢と野望」など多数。テレビ出演はNHK「歴史秘話ヒストリア上杉謙信の折れない心~義の武将知られざる苦闘~」やNHKBS「武将温泉」、TBSBS「諸説あり」など。
なお、「謙信公『義の心』の会」は毎年11月に、謙信公が幼少の頃に修業した上越市の林泉寺で坐禅体験会を開いているが、林泉寺のお堂に入られるのは同会のみとなっている。

約50人が耳を傾けた講演会の様子
文・竜哲樹(にいがた経済新聞社顧問)
撮影・梅川康輝