【コラム第5回】“暮らし”を学ぶ場所としての古民家宿(蔡紋如「MAHORA西野谷」代表)

MAHORA西野谷の夏休みの過ごし方

先日、MAHORA西野谷に近隣の小学校の子どもたちが課外授業で訪れました。

築120年を超えるこの古民家には、足踏みミシンや四畳半の茶室風図書室、吹き抜けに渡る太い梁、囲炉裏のある居間など、かつての暮らしの面影が残ります。普段の生活では出会えない風景に囲まれ、子どもたちは目を輝かせながら「こんな家に住んでみたい!」と声を上げていました。

その声を聞いた瞬間、胸に熱いものがこみ上げました。古民家を残すことは、過去を守るだけでなく、未来を想像するための跳び箱になる。子どもたちの素直な言葉が、そのことを改めて気づかせてくれました。

静かな季節に宿る、本当の豊かさ

私が日本に来たのは、20代の頃。ワーキングホリデーで全国を旅した中で、心に残っているのは、観光地ではなく、日本人の友人宅で夕食を囲み、畑仕事を手伝った日々でした。たどたどしい日本語でおばあちゃんと会話しながら、その土地の日常にふれる時間。その体験に、暮らしの豊かさを感じていました。

いま、妙高が抱える“閑散期”の課題に向き合う中で、この感覚がヒントになるのではと考えています。妙高の宿泊業では、祝日や夏休みを除く春から秋の集客が課題となっています。冬はインバウンド客で賑わいますが、雪のない季節は静けさに包まれます。でも私は、その静けさこそが妙高らしさだと感じています。田植えの風景、畑に広がる緑、秋風に揺れる稲穂。何気ない営みの中に、都市では味わえない時間が流れています。

暮らしにふれる旅を目指して

この季節だからこそできる滞在の形を、模索しています。たとえば、親子向けの里山体験や、自然・食文化をテーマにしたワークショップ。観光とは少し違う、「暮らしにふれる旅」。ごく普通の田舎の日常を、静かに体感してもらうことです。

最近改めて感じるのは、「妙高に行きたいから何かをする」のではなく、「やりたいことがあって、その場所を選ぶ」という利用者目線の大切さです。たとえば、古民家に泊まりたい。自然の中で過ごしたい。田舎の暮らしを体験したい。一人ひとり違う思いの中で、この地域は何を届けられるのか。そんな問いを、改めて心に留めています。

その一歩として、MAHORA西野谷では、交流スペースを活用し、7月4日から2週間限定で料理イベントを開催します。東京出身の若いお二人が初めて妙高を訪れ、地元のお米や季節の食材を使った和食を心を込めて届けてくれる予定です。こうした機会を通して、地元の皆さんにも妙高の魅力を改めて感じていただき、訪れる方々にも、この土地に流れる暮らしの時間を味わってもらえたらと思っています。

この古民家が、子どもたちにとっては昔の暮らしを知る学びの場に、大人にとっては、日々の暮らしを見つめ直すきっかけになる場所になれば。世代や国籍を越えて、出会いと対話が生まれる場になればと願っています。そして、私自身がワーキングホリデーで感じた「日常の豊かさ」。今、少しずつこの場所でかたちにしています。特別なものではないけれど、確かに感じられる温かさや心地よさ。そんな空気が、ここには流れています。

これからも、MAHORA西野谷を通して、暮らしの手触りをまっすぐ届けていきたいと思います。

 

蔡紋如(サイ・ウェンル)

台湾出身。2014年に結婚し、夫とともに妙高へ移住。独学で総合旅行業務取扱管理者の資格を取得し、妙高市観光協会に積極的にアプローチしてインバウンド専門員として採用される。主にアジアの華僑系顧客をターゲットにプロモーションを展開し、企画制作を担当。また、FacebookなどのSNSを活用して日本での生活をPRする活動も行う。コロナ禍で観光業が大きな打撃を受けたことで、地域のために何ができるのかという強い危機感を抱くようになる。2023年、農業と観光業を通じて地域を活性化することを目指し、合同会社穀宇を設立。2024年には京都大学経営管理大学院観光経営科学コースを卒業。同年4月に築120年の文化複合施設「MAHORA西野谷」を開業する。

 

 

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