【一挙全賞発表!!】「第2回新潟文学賞・新潟漫画賞」受賞作を発表
「第2回新潟文学賞・新潟漫画賞」受賞作発表
【県知事賞】
「平凡な景色」齊藤想
【ショートショート・エッセイ部門】
大賞
「平凡な景色」齊藤想
佳作
「まわる、まわる、たらい舟はまわる」 阿蒙瞭
「にいがた総踊りの親子」 矢鳴蘭々海
「主語の時間」高遠みかみ
【純文学部門】
大賞
「スプリング・エフェメラル」ような恵
佳作
「川のゆくえ」若山香帆
【ライトノベル部門】
大賞
「しゅけん信仰」淡島あわい
佳作
「キャンドルカフェの陽気な人魚たち」紋屋のあん
【漫画部門】
佳作
「無題」
「いわむろBPにバスを」わらじ88
選評 西崎憲(作家・翻訳家)
第一回の「NIIKEI文学賞」は第二回の開催にあたって「新潟文学賞・新潟漫画賞」と呼称を変更した。今回の応募数は220人で、前回の受賞作・佳作とは異なる傾向の作品が選ばれることになった。文学賞のほうのみであるが、選考委員を代表して選評を述べさせていただく。
純文学部門
大賞「スプリング・エフェメラル」ような恵
佳作「川のゆくえ」若山香帆
大賞作品「スプリング・エフェメラル」はさまざまな形で「詩」を散文に導入しようと試みた作品のようである。直接的な引用、アフォリズム的挿入、テキストへの再帰的記述など、つぎからつぎへと詩そのものや詩的
佳作の「川のゆくえ」もすぐれた作品であった。リアリズムからかなり逸脱した、通常の公募文学賞ではあまり見ないタイプかもしれない。こちらも世界文学的な視点をそなえていて、偶蹄目の義兄、不条理感、迷宮的な構成、冥界行などの素材、要素の扱いには浅はかな軽さはない。理知的かつ空想的で、書き手としては未来を約束された力を持っていると思う。一方自信にかける筆の運びだと感じる瞬間もあって、もしかしたらプラクティスがもうすこし必要なのかもしれない。一流の作家の初期作品といった雰囲気がある。
ライトノベル部門
大賞「しゅけん信仰」淡島あわい
佳作「キャンドルカフェの陽気な人魚たち」紋屋のあん
「しゅけん信仰」は議論なく大賞に選ばれた。生贄の言い伝えに現れる狼「しゅけん」と、少女たちの交情を組みあわせたこの作品の好感度は高かった。文章がよく、描写も人物造形も達者である。そしてらいのなさ、さわやかな読後感、文章を書くこと、創作という行為にたいするリスペクト、とにかくよいところの目立つ作品である。プロット作りにかんしては未知数であるが、ひじょうに期待できる書き手である。
佳作の「キャンドルカフェの陽気な人魚たち」はラノベ的要素の闇鍋のような作品である。映画の予告編的な印象もあり、じっくりと読ませようという作りではない。しかし全体的に漂う雰囲気は優しく、ユーモアも質のよいものなので、読後感はよいものであった。
ショートショート・エッセイ部門
大賞「平凡な景色」齊藤想
佳作
「まわる、まわる、たらい舟はまわる」阿蒙瞭
「にいがた総踊りの親子」矢鳴蘭々海
「主語の時間」高遠みかみ
この「ショートショート・エッセイ」という部門名は誤解を生じさせるところがあったようだ。募集側としては「ショートショート」か「エッセイ」のどちらかを送って欲しいということで、ふたつの要素をあわせた作品という意味ではなかったのだが、少なくない数のハイブリッド作品が送られてきた。しかし結果として不思議な魅力をもった傑作が揃ったわけで、怪我の功名といえるかもしれない。
大賞の「平凡な景色」はほぼ完璧といえる作品である。どのような場にだしても高い評価を受けるだろう。幸福な作品である。広く読まれてほしい。
佳作の「まわる、まわる、たらい舟はまわる」は法螺話的な展開が楽しい。
同じく佳作の「にいがた総踊りの親子」は発想と技術のバランスがとれた作品であり、集中力の高さが目立つ。
「主語の時間」は現代文学の手法に通じている印象である。どんな
県知事賞
「平凡な景色」齊藤想
県知事賞は議論なしで「平凡な景色」に決定した。淡々としているが味わい深く、ノスタルジックであるが後ろ向きではない。見事な掌篇である。
漫画部門選評 Belne(審査員、開志専門職大学教授・漫画家)
「無題」
絵は手慣れた洒脱な絵です。コマ割りはコママンガとして一定の読みやすさもあります。
新潟のイメージを随所に入れ、ご当地感を出していること、主人公のボケにモブが突っ込むセリフのテンポもあります。ただ、画面が1-2-3頁とも、ほとんど同じ絵柄で、コマの中の人物もほとんど同じ描写なので、情報量の薄さを感じてしまいます。見応えが薄い感じです。新潟のご当地的なボケとツッコミもほとんどがセリフに頼ってしまっていて、大きくクローズアップするべき描写が小さく、画面の意外性がありません。また、全体のストーリーラインからするとラストに至る4頁目の前段部分にもう少し意外性が欲しいところでした。
画力もストーリー力も一定の水準に達している分、洒脱に流してしまっているところが気になります。たらい舟に乗っているラストのコマは世相の皮肉もあり、オチとしては納得でした。画力とアイデア力はあるので、もうひとつ推敲し、主人公の良くも悪くも魅力や個性を描いて、ご当地感をクローズアップし、場面力を活かし、セリフを推敲して、コママンガとしての熱量があればと思い、惜しさを感じます。
「いわむろBPにバスを」わらじ88
岩室温泉への提案型4コマが9本。発想そのものはニッチながら、面白い。背景も情報密度が高く丁寧に描かれています。ただし、少し書き込みすぎで、画面が重すぎます。提言の内容と、現状批判はリアルに描かれていて、ご当地感というよりも知っている人は納得・共感してくれるかもしれません。そういったあるある感や、身内感はあると思います。けれども提言の中身そのものはギャクとしても、ちょっと笑えない部分が重なっていたり、無批判で甘々である必要はありませんが、読み味、読後感を考えると、もう少し推敲は必要だったと思います。絵的な部分は前述のように丁寧で情報量が豊かな分、モブシーンの使い回しと仕上げの甘さが少し気になりました。
一方で、最終ページでは、いわむろBPにバスをという主張が伝わる勢いは感じました。総評としては、若干皮肉な郷土愛の2作と感じました。絵は両方とも達者で巧さは感じましたが、視点を拡げ、「読者がいる」作品としての熱量をもう少し感じさせてほしいという思いを持ちました。大賞は該当作無し。佳作2編に選ばせて頂きます。