「孤独は解消できる」──分身ロボットOriHime開発者が語るテクノロジーが拓く希望のかたち
長岡市では、明治3年に国漢学校の新校舎が開校したことにちなみ、毎年6月15日を「米百俵デー」と定めている。これに合わせ、国漢学校の跡地であるミライエ長岡では2025年6月7日、「米百俵デー市民の集い」が催され、長岡市内から100人以上の市民が参加した。

発表に耳を傾ける参加者
冒頭では、昨年度の米百俵未来塾に参加した小・中学生を代表した2人が、活動成果やこれからの目標を発表。塾での活動を振り返るとともに、自らの夢や目標について力強く語った。その後、株式会社オリィ研究所の吉藤オリィ所長による講演が行われた。折り紙が趣味だとする吉藤所長は、高校時代、電動車椅子の新機構の開発に携わり、2004年の高校生科学技術チャレンジ(JSEC)で文部科学大臣賞を受賞。世界最大の学生科学コンテスト「ISEF」ではグランドアワード3位に輝いている。早稲田大学進学後は、自らの不登校経験をもとに「孤独の解消」をテーマに掲げ、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を開発。2012年には株式会社オリィ研究所を設立し、現在はOriHimeのほかにも、視線入力による意思伝達装置など、テクノロジーによって人と社会をつなぐ数々のプロダクトを生み出している。

吉藤オリィ所長と登壇したのは、OriHimeパイロットの一人、ナオキさん。OriHimeを通じての様々な出会いや経験が楽しいという
吉藤所長は、自身が病気のために学校に通えなかった頃の体験や、高校時代に携わった電動車椅子の開発を通じて、「人は、周囲からどう扱われるかによって、その後の人生が大きく変わる」ことを実感したという。そして、「発明や開発といったテクノロジーの力が、人の“扱われ方”を変えることで、その人の人生さえも変えられる」と語った。その柔らかくも芯のある語り口に、参加者たちは深く聞き入っていた。
「世の中はまだ完成されていない。だからこそ、私たちにはできることが残されている。恐れず、変化してほしい」と、吉藤所長は独自の言葉で若者たちにエールを送る。
講演後、弊社の取材に応じた吉藤所長は、病気療養中の自宅で、時折かかってくる営業電話の販売員にさえ悩みを打ち明けてしまうほど、深い孤独のなかにあったことを振り返った。「自分は何のために生きているのか」と問い続けた日々こそが、現在の活動の原点になっているという。「実は、一人では何もできない立場にある人ほど、日ごろから“社会に恩返しをしたい”という思いを抱いている。だからこそ、テクノロジーの力を使って、そうした人々の居場所を受け入れてくれる社会をつくりたい。そして、そうした人たちを適材適所に配置できる新しい仕事を、世の中にもっと生み出していきたい」と、今後の展望を語った。

単独取材に応じた吉藤所長
(文・写真 湯本泰隆)