老舗ふとん店が守る「顔の見える商売」 変わらぬ接客と独自商品 (新潟県長岡市 桜井ふとん店)
寝具小売業の苦境が続く。総務省の調査によれば、寝具小売業の事業所数はこの20年間で約60%減少。販売額も20%近く落ち込んでいる。特に、2008年のリーマンショックと2020年のウィルス禍がその流れを決定づけた。また、量販店やインターネット通販の台頭、若年層の購買スタイルの変化により、「町のふとん屋」は次々と姿を消している。しかし、そんな逆風の中でも、静かに暖簾を掲げ続けている店がある。東神田に店を構える「桜井ふとん店」(有限会社桜井ふとん店)。創業は明治初期、1949年に第二創業を迎え、1961年から現在の業態となった。元々は城内町に店を構えていたが、時代の変化とともに、倉庫として使っていた東神田の物件を店舗とした。対面販売と細やかな接客を続けている。
「正直、布団の販売数は昔よりだいぶ減った。ネットや量販店で買う人が増えたからね。でもうちは、顔を合わせて話しながら買ってもらうのが商売だと思ってる」
そう語るのは、櫻井完二郎代表取締(79)だ。事業以外にも、町内の祭典委員会の委員長を務めたり、地域のイベントを支えたりと、精力的に地域の活動にも取り組んでいる。

老舗を守り続ける櫻井完二郎代表取締役
同店では寝具の販売や修理だけでなく、レンタルも手がける。年間を通じて見れば、繁忙期は盆・正月・GW・長岡まつりの年4回。この期間は、市外にでた親類縁者が、長岡の実家に戻ってくる。寝具が足りなくなる。そこでサービスを利用するという流れだ。長岡まつりの時期には70件ほどの貸し出しがある。それでも一昔に比べると、だいぶ需要が減った。
現在の従業員は4人。平均年齢は70代半ばだが、後継者はおらず、櫻井代表の子どもも現在は別の仕事に就いている。「継がせるつもりもないし、一方で、同店を必要とするお客様もいる。だからお店を畳めない」櫻井代表は語る。
同店を支える主力商品の一つが、「お手玉枕」と呼ばれる小さな枕だ。発案者は櫻井さんの母・千代さん。家族がある日、茶筒を枕代わりにして寝苦しそうにごろ寝をしていた様子から着想を得た。1989年頃に意匠登録され、最盛期には1日2000個を出荷。最盛期は、銀行の粗品や敬老の日の贈り物として人気を集めた。現在も、京都の問屋や土産物屋への卸が続いており、寺院では座禅用の円座としても使われているなど、細く長く、確かなニーズに支えられている。「生き残るというのは、余所と同じようなではなくて、やっぱり独自性がなければ駄目。それでここまで来た」とする。

主婦のアイディアが商品に お手玉枕
現在、同店でもインターネットによる販売を行っている。過去には、楽天やYahoo!への出店を行ったこともあるが、手数料が高くて、運用も複雑。「やっぱり実物を見て触ってもらう方が合ってる」とする。
取材中、駒形さんという男性客(71)が、事前に購入していた布団を引き取りに来た。駒形さんは、今回はじめて同店で布団を購入した。もともと量販店での買い物が苦手で、十分な説明を受けて納得した上で良いものを長く使いたいという考えから、個人商店での購入をするようにしているという。「(量販店のような)有限責任である株式会社は、自社の販売している商品に対して責任を取らないため、店の看板を懸けて、命がけで商売行う個人商店とは根本的に違う」とする。

今も接客を基本とした販売を続ける桜井ふとん店
近年、ネット販売が主流となりつつ世の中に対して、実際に商品を確認できない不安や、過去の購入で失敗した経験から、「ネットで調べても結論がないんですよ。こうやってお店の人に直接聞けるって、ほんとありがたい」と実店舗で買い物をする魅力を語った。
情報が溢れる時代だからこそ、「顔の見える店」の価値が、見直されつつあるのかもしれない。
(文・写真) 湯本泰隆
【店舗情報】
有限会社桜井ふとん店
〒940-0035 新潟県長岡市東神田1丁目3-5
TEL:0258-33-7151|FAX:0258-32-2021
メール:e-futon@nct9.ne.jp
公式HP:http://www.nct9.ne.jp/e-futon/
アクセス:長岡駅東口から徒歩約17分