イカした恋のバトルロイヤル 繁殖戦術に秘められた科学 長岡市でネイチャートーク イカの生殖の秘密に迫る

海の中でも恋のかけひきは熾烈だ。

7月21日、長岡市にあるミライエ・ステップで開催された第10回ネイチャートーク「イカたちの恋のかけひき-柔軟で巧みな繁殖戦術-」では、イカの繁殖をめぐる知られざるドラマが科学的に紹介された。

不思議で面白いイカの生態に興味深く耳を傾ける参加者

ゲスト講師を務めたのは、東京大学大気海洋研究所の岩田容子准教授である。会場には、長岡市内のみならず、離島を除く新潟県全域から、動物や生き物に関心のある40人以上が集まり、普段は食卓でおなじみのイカの、奥深い生態に耳を傾けた。

岩田容子准教授によれば、どのオスの精子を交配させるかという最終的な選択権は、メスにあるという

岩田准教授によれば、ヤリイカが一度の繁殖期に複数のオスと交接し、メスの体に異なるオス由来の精子を貯めることができるという。そして、その状況下で「受精をめぐって精子同士が競い合う“精子間競争”」が起きているとする。

注目すべきは、ヤリイカのオスの体格によって精子の性質が異なる点だ。体が小さな「小型雄」の精子は、体の大きな「大型雄」の精子よりも約1.5倍長いことが確認されており、繁殖戦略の違いが形に現れているという。こうした違いは、精子が用いられる場所―メスの体内か、体外(腕の付け根付近)か―にも対応していると考えられている。

一方で、メスもただ受け身ではない。ヒメイカなどの例を挙げ、メスが自らの行動で精子の受け取り場所や受精のタイミングを調整し、不要な精子を口から出して排除してしまう行動も観察されているという。

後半の質疑応答では、イカの生殖戦略に関する問いや感想が相次ぎ、参加者の関心の高さがうかがえた。

新潟県見附市から参加した高橋友美さん(40)は、「イカについてあまり知らなかったけど、今日の話で興味がわいた」とした。また、新潟県妙高市から参加した櫻井俊司さん(23)も、「(イカの生態が)そこまで多様だとは思わなかった。想像以上に複雑で面白い」と語った。

長岡科学博物館の催し物は必ずチェックしているという高橋友美さん

 

動物が好きで、上越市で動物に関わる仕事をしているという櫻井俊司さん

今回のトークは、長岡市の科学博物館が「生きものを知るたび、“もっと知りたい”が見つかる」をテーマに開催しているリレー講演シリーズの一環。講演の模様は8月下旬頃に、YouTubeでも配信予定とする。

イカたちの恋は、科学の眼で見れば見事な戦略と選択の連続だった。水面下で繰り広げられるバトルロイヤルの行方は、まだまだ私たちの想像を超えていきそうだ。

(文・写真 湯本泰隆)

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