【特集】「地方だからこそ可能性がある」地方での「人づくり」と「場づくり」を進めるきら星・熊谷浩太CAO NIIGATAベンチャーアワード受賞者インタビュー

きら星株式会社の熊谷浩太取締役CAO
「本来なら首都圏などのほうがビジネスはしやすい。しかし、私たちは地方に可能性を感じるからこそ、地方に特化している」そう断言するのは、地方への移住支援、事業・起業支援、交流拠点の創出や地域イベントの開催など地方での様々な取り組みを手がけるきら星株式会社の熊谷浩太取締役CAOだ。
同社は2019年に設立。地方移住者を支援する事業「ロカキャリ」では、仕事から住まい、地域との繋がりなど「人」の支援から「場」の支援まで、移住にかかわるあらゆる事柄を一括して支援できる体制が強み。その取組は、今年6月に開催された「NIIGATAベンチャーアワード2025」でアシスト部門最優秀賞に選ばれた。同社は現在、県内では湯沢と燕三条に拠点を構えるが、近々長岡にも進出する予定で、今後の広がりにも注目が集まる。

今回で11回目となる「NIIGATAベンチャーアワード」が6月に開催された。新潟県内で活動する個人のビジネスアイデアやベンチャー企業の事業を評価するコンテストで、今年の応募数は過去最多。6月2日に行われたプレゼンテーション審査会では、書類審査を勝ち進んだ応募者たちが自身のアイデアを熱弁し、しのぎを削った。
今回の特集では、各部門で最優秀賞に輝いた株式会社ForestFolks、日本マダミスラボ、きら星株式会社の代表者にそれぞれ話を聞いた。
移住前から移住後まで、地方での暮らしに伴走するサービス

熊谷CAOは2022年、不動産ベンチャーのジェクトワンに在籍中、空き家対策人材として新潟県三条市へ派遣され、同市へ移住。今年4月にきら星に入社した
「私たちが展開しているのは『場』の支援と『人』の支援」だと熊谷CAO。きら星が展開する移住者支援サービス「ロカキャリ」は、移住先からそこでの就職あるいは起業、コミュニティでの関わりなど、一貫して移住を支援できる点が強み。
特にユニークなのは、「オーダーメイド移住体験」のサービスだ。移住前に地域へ来て、暮らしや仕事、教育などを肌で体感してもらうことで、移住後のミスマッチを防ぐ狙いがある。
とはいえ、実際に住んでから「土地に合わない」と感じてしまう人も少なくない。熊谷CAOは語る。「首都圏など他の地域からいらっしゃると、やはり今までの価値観とは違う部分がある」。だからこそ、きら星では地域住民との交流やイベントの開催など、移住者が地域と繋がる場づくりにも注力する。また、移住者が就いた仕事で問題がないかを毎月ヒアリングするなど、定着までを見据えた伴走支援を行っている。
地域の一員だからこそできるサービス

きら星の事業内容は幅広い。前述した移住・転職相談の「ロカキャリ」や、地方での起業支援サービスのほか、交流拠点の「きら星BASE」や民泊、縁日などのイベントの開催なども手がける(写真は「NIIGATAベンチャーアワード」プレゼンテーション審査会時に撮影)
こうしたきら星のきめ細かいサービスは、同社自体が地域へ溶け込んでいるからこそできることだ。「オンラインで情報を伝えることもできる。しかし、(移住者支援のためには)地域の協力業者や地域住民の方の中に、我々も入って信頼を得ることも重要」と熊谷CAOは話す。9月に予定する長岡市への拠点開設も、地域にしっかりと根を下ろすための第一歩だ。
さらに今後は、新潟県内にとどまらず拠点を増やしていく方針だという。「(新潟と)同じように困っている人が欲しい地域、あるいは地域に行きたいという方々のニーズを捉え、人と地域を結びつける場所をどんどん増やしていきたい」(熊谷CAO)。
熊谷CAOが目指すのは、単に移住者を増やすことではない。地方が抱える根本的な課題に向き合う。都心部と比べ、地方は給与体系が低く、起業してもスケールが小さいのが実情だ。それが移住を躊躇わせる原因にもなり、また人が居ないからこそ経済が縮小していく負の循環ができている。
この状況を変えるためには、地方でも稼げる仕事や仕組みをつくることが不可欠だ。「我々自身ももっと勉強して、東京で働いてる水準のまま移動できたり、地方でもすぐに仕事に就くことができるような世界をつくっていきたい」と熊谷CAOは力を込める。
新潟から挑戦し、さらに高みを目指して

6月2日に開催された「NIIGATAベンチャーアワード」プレゼンテーション審査会の様子
今回、「NIIGATAベンチャーアワード」ではこの「ロカキャリ」の事業を説明。起業家やベンチャー企業の支援・育成を行う企業を表彰する「アシスト部門」で最優秀賞を獲得し、熊谷CAOは自信を深めたと語る。「我々はローカルに特化しており、そこが評価されたのだと思う。本来であれば首都圏や関西圏などもっと人が多いところで事業を興したほうがビジネスとしてはやりやすい。しかし、我々は地方に可能性を感じている」。
また、他の参加者からも多くの刺激を受けたという。「参加者には、もっとスケールが大きい事業をされてる方もたくさんいた。我々も見習って、ビジネスを育てていきたい」規模が大きくなれば、それだけ多くの人を支援できる。徐々に規模を拡大しはじめている同社のこれからに期待だ。
最後に、これから「NIIGATAベンチャーアワード」、あるいは起業に挑戦したい人へのアドバイスを聞いた。
「こうしたアワードを取ることを目指して起業するのも、選択肢の1つとしてあると思った。切磋琢磨できる企業が新潟にはたくさんある。(アワードで)自分の現在地を把握して、もっと上を目指すために挑戦してほしい」(熊谷CAO)。
地方に根ざし、地域とともに歩むことを選んだきら星。その取り組みは、単なる移住促進にとどまらず、地域社会の再構築に繋がるものだ。そして熊谷CAOの言葉には、「地方こそが挑戦の舞台である」という確信がにじむ。その歩みはこれからも、地域に新たな光を灯していくだろう。
【関連リンク】
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