第9回 インバウンド誘致、その前に、古民家宿の「自分らしさ」(蔡紋如「MAHORA西野谷」代表)

MAHORA西野谷にてセミナーを開催しました

「台湾人のオーナーの宿だから、宿泊客も台湾の人が多いんでしょう?」――よくそう尋ねられますが、実は少し違います。
昨年1年間の宿泊データを分析したところ、意外な結果が見えてきました。宿泊者数で見ると、日本人の数が海外からのお客様を上回っていたのです。

一方で、海外からのお客様は長期滞在される傾向が強く、延べ宿泊日数の割合では、日本人と海外のお客様がほぼ半々でした。また、予約経路にも興味深い変化が見られます。海外からのお客様は海外OTA(オンライン旅行会社)経由の予約が多いものの、最近はOTAで情報収集をし、当宿の公式サイトから直接予約する方が増えています。

お客様の意外な素顔

日本人のお客様は20代後半から40代の比較的若い層が多く、特に「男旅」が目立ちます。古民家に泊まること自体にロマンを感じていただいているのかもしれません。私自身、女子旅なら温泉旅館を選ぶと思いますが、そう考えると新たな気づきがあります。
こうした分析を通じて、特定の国籍に偏らず、多様な旅人に選ばれていることを実感しました。冬の妙高を訪れるオーストラリアのお客様はまだ少なく、大きな伸びしろがあるのも心強い点です。

ターゲット設定と情報発信

インバウンド需要が高まるなか、ターゲットをどう設定するかは重要な課題です。自社サイトは日本語を基本に、英語や繁体字中国語でも発信しています。ただし、言語対応だけがすべてではありません。ブラウザの自動翻訳機能も普及しており、多言語化に多額の費用をかけなくても発信は可能です。OTAに全面依存して運営する宿もある中で、私たちは「自分の宿を深く知ること」を優先しています。
コンセプト、規模、地域での役割——常に立ち位置を見直し、現状に満足せず、さらに前進することを意識しています。反省点を挙げるなら、売上の伸びが思ったほどではないこと。もっと多くの人の目に留まるよう、積極的に行動する必要があります。

小さな宿だからこそできること

国別の訪日データや最新統計は観光庁(JNTO)のウェブサイトで確認できます。加えて、地域のマクロデータからも学びが多い。妙高では6月と11月が閑散期で、夏と冬の合間をどう埋めるかが課題です。こうした傾向を踏まえながら、年間を通して安定した集客を模索しています。
今年はGoogle広告を学びましたが、常時広告を打ち続けるスタイルは小規模宿には難しいと判断しました。その分、SEOやSNSの役割が大きくなります。SNSは単なる宣伝ではなく、お客様とコミュニケーションを築き、宿の「物語」を広めていくための大切なツール。大切なのは“ストーリー”ではなく、旅人の心を動かす“コンテンツ”です。
皆さんは旅先をどのように決めていますか?検索やSNS、偶然目にした写真や記事がきっかけになることも多いでしょう。お客様の目に触れなければ選ばれることはありません。だからこそ、私たちは古民家での暮らしの魅力を発信し、人と地域を結ぶ「心の架け橋」となれるよう挑戦を続けていきたいと思います。

蔡紋如(サイ・ウェンル)

台湾出身。2014年に結婚し、夫とともに妙高へ移住。独学で総合旅行業務取扱管理者の資格を取得し、妙高市観光協会に積極的にアプローチしてインバウンド専門員として採用される。主にアジアの華僑系顧客をターゲットにプロモーションを展開し、企画制作を担当。また、FacebookなどのSNSを活用して日本での生活をPRする活動も行う。コロナ禍で観光業が大きな打撃を受けたことで、地域のために何ができるのかという強い危機感を抱くようになる。2023年、農業と観光業を通じて地域を活性化することを目指し、合同会社穀宇を設立。2024年には京都大学経営管理大学院観光経営科学コースを卒業。同年4月に築120年の文化複合施設「MAHORA西野谷」を開業する。

 

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