【梅川リポート11】「神コスパ」草刈機のヒットで躍進、新潟・上越発「ホンダウォーク」の成長の軌跡

プラウ上越店

新潟県上越市に本社を置く株式会社ホンダウォークが、地方発のものづくり企業として注目を集めている。同社が手掛けるオリジナルブランド「PLOW(プラウ)」の草刈機が大ヒット商品となり、売上高は今期目標を達成した。地方の一企業がいかにして市場を開拓し、成長を遂げたのか。その背景には低価格・高品質を実現するユニクロ方式ともいえるビジネスモデルと、徹底したアフターサービス、さらに動画配信や会員制度を駆使した顧客接点の強化があった。

「神コスパ」の草刈機がヒット

快進撃を支えるのは、自社開発の草刈機「クサノザウルス」である。2023年9月に発売された同製品は、従来型の肩掛け式草刈り機と比べ、作業効率が約10倍に向上する。例えば1時間かかっていた作業をわずか6分で終えることが可能となるうえ、価格は6万9800円(税込)と手頃で、一般的な草刈機の相場と比べても安価だ。

「価格の割に性能が圧倒的に優れている」と評判を呼び、口コミやSNSを通じて急速に拡散。農作業や庭の手入れに悩む高齢者層からも支持を集め、発売から2年足らずで累計8,000台を販売するヒット商品となった。購入者の間では「神コスパ」という言葉が使われ、従来の市場の常識を覆す存在となっている。

自社開発の草刈機「クサノザウルス」と同社の石塚賢一郎代表取締役会長

プラウの製品はすべて自社オリジナルである。背景には中国の提携工場と結んだ生産体制がある。大量ロットでの発注によりコストを抑え、さらに日本の利用環境に合わせて錆びにくい部品を使用するなど仕様改善を施すことで、品質と価格の両立を実現している。

同社の石塚賢一郎代表取締役会長は「いいものは高いというのは昔の話で、今は値ごろ感がなければ売れない。安かろう悪かろうでは信用につながらない。当社は必ずアフターサービスを行う」と語る。安価な輸入品がネット通販にあふれるなか、同社は修理対応や部品供給といったサポートを徹底することで差別化を図っている。この戦略は着実に成果を挙げ、草刈り機や薪割り機など野外作業機械の分野で存在感を高めている。

ブランド名「PLOW」には、英語で「耕す」という意味に加え、プライス(価格)がロー(安い)という意味も込められている。ユニクロのビジネスモデルに通じる「低価格・高品質路線」を掲げ、家庭や農家の負担を軽減する商品を提供し続けてきた。

同社が最初にプライベートブランドを立ち上げたのは2011年。LEDランタンから始まり、次第にラインアップを拡大。現在では薪割り機や草刈機など多彩な野外作業機械を揃えている。

「野外仕事をもっと楽しく」

「野外仕事をもっと楽しく」というコーポレートメッセージのもと、便利で負担の少ない商品を提供し、地域の生活を支える役割を担っている。

ホンダウォークは上越市の商業施設「ウイングマーケット」に本店を構えるほか、新潟県内では新発田、長岡、上越の3店舗、長野県安曇野市、福島県会津市、山形県南陽市にも直営店を展開しており、今年10月には長野県佐久市に新店舗をオープンする予定である。これで計7店舗体制となる。

一方でEC販売にも注力し、公式サイトや大手通販サイトを通じて全国に商品を届けている。店舗とネットで価格やポイント制度を共通化し、どこで購入しても同じ条件で利用できるようにした点も支持を集めている。

会員制度も整備され、年会費無料で購入金額に応じたポイントを付与。毎月1日にはポイント5倍キャンペーンを行うなど、リピーターを生み出す仕組みづくりを進めている。

自動で芝を刈るロボット芝刈機

石塚会長自らが出演するYouTubeチャンネルとネットラジオ

同社が特徴的なのは、積極的な情報発信である。石塚会長自らが出演するYouTubeチャンネルは登録者数が1万7900人を超え、年内には2万人到達を目指している。週3本のペースで商品紹介や活用法を発信し、顧客との接点を強化している。

また、会長は4年前からネットラジオ番組を開始し、毎日15分間ほどのトークを配信している。累計1160回を超える継続力は、YouTubeでの発信にも活かされている。石塚会長は「結果を急がず、楽しみながら続けることが大切だ」と語り、発信活動を「趣味ではなく事業の一環」と位置づけている。

成長の原動力について石塚会長は「結局は社員のおかげだ」と繰り返す。中国人スタッフを含む多国籍の人材が生産やサポートに携わり、地域に根差しながらグローバルな視点で事業を展開している。

「社長が一人でできることは限られている。社員との信頼関係を築きながら、お客様に安心して使っていただける商品を提供し続けることが大事だ」との言葉には、現場を重視する姿勢がにじむ。

今後については「ビジョンを大げさに語るつもりはない」としながらも、「野外仕事をもっと楽しく」という原点を貫く姿勢を明言する。修理やアフターフォローを通じて顧客と長期的な関係を築き、信頼を深めることを重視している。また、軽井沢に近い立地を生かした長野県佐久平の新規出店に加え、さらなる市場拡大が期待される。

「安かろう悪かろう」ではなく「安くて良いもの」を提供する地方発の企業モデルとして、ホンダウォークの挑戦は続いている。

(文・写真 梅川康輝)

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