【トップインタビュー】今秋、開業30年目を迎えるベルナティオ 地域と共に歩む「美しきふるさと」の理念を次世代へ

新潟県十日町市の豊かな自然に包まれたリゾートホテル「あてま高原リゾート ベルナティオ」が、2025年10月で開業30年目を迎える。バブル期の1987年、リゾート法により建設された多くの施設の中で、ベルナティオは地域と深く結びつきながら現在も発展を続ける稀有な存在だ。

顧客満足に加え従業員満足にも重きを置き、業界平均26.6%(※)の離職率に対し同社はわずか7.1%と大きく下回る。この数字は、独特の企業文化と従業員を大切にする経営姿勢の表れといえる。

今回、開業30年目の節目を前に、今後の展望や地域と共に歩んできた同社の経営哲学について、ベルナティオを運営する株式会社当間高原リゾート(新潟県十日町市)の福本 玲子代表取締役社長に話を訊いた。

(※)厚生労働省 2023年雇用動向調査結果より

株式会社当間高原リゾート 福本 玲子代表取締役社長。愛媛県松山市出身。1994年東京電力入社。変電部門での現場作業から始まり、スクールプロジェクトなどの新規事業立ち上げ、柏崎刈羽原発PR館マネージャーなど多様な経験を積み、技術から経営まで幅広い知見を持つ。30年のキャリアを経て2024年株式会社当間高原リゾート代表取締役社長に就任。顧客と地域、そして従業員を大切にする経営を実践している

目次

◎新環境への挑戦と地域との絆を深める1年
◎地域と歩んだ30年の軌跡
◎従業員満足度向上への独自の取り組み
◎2035年に向けた展望と挑戦
◎おわりに

 

新環境への挑戦と地域との絆を深める1年

ベルナティオは1996年に第三セクターとして設立され、地域振興と観光拠点の役割を担ってきた。宿泊、温泉、ゴルフ場や自然体験プログラムを提供し、観光と地域交流の場として親しまれている。

施設名「ベルナティオ」は、イタリア語“Bel Paese Natio”(美しきふるさと)から由来する

福本社長は2024年のトップ就任後、最初の1年を「地域と社内の”人”を知ること」に重きを置いた。十日町市や県内経済団体の活動に積極的に参加し、これまでベルナティオを支えてきた人々の声に耳を傾けた。「この地域ではお酒を囲んで語り合う文化が根付いており、交流の場も多い」と笑顔で語る姿から、地域との距離を縮めてきた歩みが伝わる。

様々な業種・職場を経験してきた福本社長は「未知のフィールドに飛び込むことを楽しんできた」と話す

一方、社内では200人超の従業員全員と個別面談を実施。半年以上をかけて全員と対話し、悩みや考えを共有した。福本社長が感じたのは、従業員の意識の高さだ。

「行動指針である『あてまVISION2030』を意識して日々行動することがスタッフ一人一人に深く浸透していることに驚いた。さまざまな会社に関わったが、こんなにもビジョンに向けてみんなが動くことを実践できている会社は珍しい。まだまだ過渡期ではあるが、すごいことだと思う」と福本社長は語る。

経営理念やビジョンを明記したクレドカード「あてまVISION 2030」(左)と「ベルカード」(右)。ベルカードは、同僚の行動への関心や感謝を記入するもので、従業員通路に掲示し表彰も行う

ベルナティオでは、フロントやサービス部門のみならず、ハウスキーピングや整備スタッフまでが顧客に自然な笑顔で挨拶を交わす。裏方スタッフまでが主体的におもてなしを実践している点が大きな特色である。

「人に会いに来るホテル」を目指す同社にとって、この姿勢は何よりの強みだ。福本社長は「無意識のうちに心を込めたサービスを実践してくれていることがありがたい」と話す。

 

地域と歩んだ30年の軌跡

新潟県十日町市、豊かな森と清流に囲まれたあてま高原は、東京ドーム約109個分という広さ

これまでの歩みは、地域の理解と協力なくしては成り立たなかった。創業準備段階から、地元住民の協力を得ながら用地提供や建設が進められた。初代社長の梅田 健次郎氏が地域住民と真正面から向き合ったことで、信頼関係の基礎が築かれた。

一方、経営は順調なばかりではなく、開業当初は利用が伸び悩んだという。直営化への移行で運営体制を刷新し、経営と現場を一体化したことで共通ビジョンの下に全員がまとまった。この体制変更により、法人会員顧客中心から一般顧客の利用も大幅に増加した。

さらに、2015年の開業20年目を機に「10年先のありたい姿」を言語化した「あてまVISION」を策定。マネージャー以下の若手中心で話し合いを重ね、スタッフの想いを反映したビジョンが形となった。現在は2035年を見据えた新ビジョン作りが現場主導で進んでいる。トップダウンではなく、現場で活躍するスタッフ主導で議論が進められているのが特徴だ。

VISIONの策定や表彰制度に取り組む「VISION委員会」

さらに、2015年の開業20周年を機に「10年先のありたい姿」を言語化した「あてまVISION」を策定。マネージャー以下の若手中心で話し合いを重ね、スタッフの想いを反映したビジョンが形となった。現在は2035年を見据えた新ビジョン作りが現場主導で進んでいる。トップダウンではなく、現場で活躍するスタッフ主導で議論が進められているのが特徴だ。

また、地域住民との交流も創業当初から継続。敷地内フォーラムセンターでの演劇やイベント、盆踊りなど季節行事を通じて地域との絆は深まり、今ではホテル側が主体となって地域を巻き込む企画が数多く行われている。

地域に根ざした経営を使命とし、従業員の大半を地元から採用。さらに、花火大会など地域共催イベントを多数実施し、雇用や経済面でも地域貢献を続けている。

 

従業員満足度向上への独自の取り組み

人とのつながりを大切にし、「人に会いに来るホテル」を目指す

「社員が笑顔でなければお客様に笑顔を届けられない」という考えのもと、同社では従業員満足度向上のため、感謝カード制度や研修補助、資格取得支援などの仕組みを整えている。

また、委員会活動や部活動も盛んである。顧客満足度以上の感動を与える「CSCD委員会」やホテルのビジョンをまとめ、表彰制度などを策定する「VISION委員会」、顧客満足度の向上や美化活動を行う「VMD委員会」など、従業員が主体的に企画を立案。ホテル全体のサービス向上や業務改善に貢献できる体制を整えている。

ホテルスタッフで結成された和太鼓パフォーマンス集団、あてま太鼓部「鼓響」

続いて、太鼓部やゴルフ部をはじめとする部活動は、部署や役職の垣根を越えた交流の場に。階層にとらわれず、従業員同士がコミュニケーションを活発に取り交わせる風土が根付いているのだ。

 

2035年に向けた展望と挑戦

明石ちぢみを身にまとい、記者を迎えてくれた福本社長

今や、全国でも高い評価を誇るベルナティオは、7年連続で楽天トラベルアワードを受賞。2019年 楽天トラベル朝ごはんフェスティバルでは全国優勝、ミシュランガイド新潟2020特別版でも4パビリオン・極めて快適なホテルに掲載されるなど、高い評価を獲得してきた。非日常と安心感を両立させる空間づくりや、地域食材を活かした料理が利用者の支持を集めている。

しかし一方で、十日町市が直面する人口減少や高齢化、さらには施設の老朽化といった課題は看過できない。福本社長は「守るべきもの」と「変えるべきもの」を整理し、2035年を見据えた新ビジョンの構築にスタッフとともに取り組んでいる。

「人によるおもてなしは守り、効率化できる部分は変革する。その線引きが将来の競争力を決めると考えている」と語り、その姿勢こそが、輝かしい評価を次世代につなぐための鍵となる。

 

おわりに

30周年を記念し、2026年4月からイベントや特別プランなどを多数展開予定

開業30年目を迎えるベルナティオは、単なるリゾート施設ではなく、地域と共に成長してきた存在である。「人に会いに来る、来てもらうホテルを目指そう」と福本社長の言葉には、人と人のつながりを何より重視する姿勢が表れている。

「長年にわたり見守り、伴走し、支えてくださったお客様と地域の皆様に心から感謝している。これまで育てていただいた皆様の期待を超える創造を、一緒に挑戦していきたい。今後も進化し続けるベルナティオに着目いただき、共に笑顔の時間を過ごしていただければ」と福本社長は目を輝かせた。

この30年間ベルナティオが存続・成長できた理由は、地域を大切にし、従業員を尊重し、訪れる人との心の交流を守り続けてきたからに他ならない。次の10年、そしてその先に向けても「美しきふるさと」の理念を掲げ、地域と共に歩み続けていく。

 

【株式会社 当間高原リゾート】
新潟県十日町市馬場癸1239番地
TEL:0257-58-4888

【関連リンク】
あてま高原リゾート ベルナティオ

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(インタビュー・文 新井匡美)

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