【梅川リポート13】「職人技」の溶接技術で創業60年鉄工所が描く未来像 小山工業所(新潟県上越市)

株式会社小山工業所の小山慶代表取締役社長
株式会社小山工業所(新潟県上越市)は1965年の創業以来、鉄骨鋼構造物の製作や製缶設計、修繕業務を通じて地域社会とともに歩んできた。半世紀を超える歴史の中で培ったのは、確かな溶接技術と、顧客からの突発的な依頼にも応える柔軟性である。同社は鉄に関する「なんでも屋」を自負し、建築物の鉄骨工事からプラント設備の修繕、焼却炉や大型建設機械のメンテナンスまで、多様な業務を手掛けている。
3代にわたる継承
小山工業所は祖父の代に創業し、現在の小山慶代表取締役社長で3代目となる。創業当初は小規模な修繕から始まったが、父の代で事業領域を鉄骨工事などに広げ、地域ゼネコンとの取引を拡大していった。2019年、41歳で3代目社長に就任した小山社長は「アナログからデジタルへ」と業務の一部を移行させるなど改革に着手。CADなどの活用を進め、世代交代とともに新たな体制を整えつつある。
「うちの仕事はAIでは代替できない手仕事ばかり。だからこそ職人の技術を武器にしていく」と小山社長は語る。溶接や組立など、感覚と経験がものをいう現場では、熟練工の技術が欠かせない。高卒で入社しても一人前になるまでに5年から10年を要するという。
新潟県上越市柿崎地区は、戦時中の軍需産業の名残から鉄関連のメーカーが集積する土地柄である。ウエノテックスや柿崎機械など鉄工関連企業が多数存在し、それぞれが分野を棲み分けながら発展してきた。小山工業所もその一角を担い、ゼネコンを通じて大手企業とも取引を重ねている。

小山工業業所工場
代表的な取引先の1つがキャタピラー社だ。OEMや修繕を通じて売上の大半を占める時期もあり、「世界的メーカーとの取引は誇りだ」と小山社長は胸を張る。また、インペックスのオイルターミナル補強工事や、ゼネコンや解体業者のプラント修繕など、大手案件にも関与してきた。こうした信頼は「初回から120%の力で応える」という姿勢から築かれたものだという。
同社の施工実績は幅広い。整備工場や事務所新築工事、木材チップ置き場、メガソーラー架台の設置、神社の手すり補修、タンク製作、新堀川のメッキ階段、螺旋階段の設置、農作業場の建設、作業所クレーン取付など、生活や産業を支える場面にその仕事が息づく。
公共性の高い工事も多く、完成後には「自分の会社が手掛けた」と社員が誇りを持てる仕事が並ぶ。
「現場に収めた製品が形として残ることは大きなやりがい。子どもや家族に“これは自分がやった仕事だ”と伝えられることが誇りになる」と小山社長は語る。
同社の強みは「溶接さえ絡めば何でも対応できる」という点にある。地域住民からのスコップの修理依頼から、数百トン規模の工場鉄骨まで対応できる柔軟性は、他社にはない特徴だ。だが課題もある。職人の技術は経験によってのみ磨かれるため、若手の育成には時間がかかる。溶接資格にも多様な種類があり、下向き・横向き・縦向き・パイプ溶接など、それぞれに専門性が求められる。全社員がアーク溶接と半自動溶接の資格を持つ一方、ティグ溶接の保持者は限られているという。
教育方法は「やりながら覚える」が基本である。昔ながらの職人気質からか、言葉で教えるよりも作業を見て学ぶ文化が根強い。小山社長も「大失敗は許されないが、失敗から学ぶことも重要」と語る。
人材確保と働き方改革
職人育成と並ぶ大きな課題は人材確保である。同社は柿崎商工会などと連携し、企業説明会に参加。大手住宅メーカーからの転職希望者ら約40人と面談した実績もある。最終的に3人程度の採用を目指すが、優秀な人材を確保できる機会と位置づけている。
一方で、労働環境の改善にも取り組む。年間休日はかつて105日程度だったが、現在は110日に増加。さらに有給消化を加えて115日程度を確保している。若い世代が「自分の時間」を重視する価値観に応えるためだ。社長は「時代に合わせて休日日数を増やし、働きやすさを高めていきたい」と述べる。
企業理念は「人と地域に感謝」。社長自身も地元祭りへの協力やロータリークラブ、青年会議所での活動を通じ、地域とのつながりを大切にしてきた。こうした人脈は新規受注や事業拡大にも結びついており、世代交代後の経営基盤強化にも寄与している。
小山工業所は今後、事業分野ごとに専門工場を設立する構想を描く。鉄骨、プラント修繕、大型車両整備などを分けて効率化を図り、より高い品質を実現する狙いだ。創業100周年を見据え、次代へ技術と理念を引き継ぐことが目標である。
「そこに我が社の造ったものがあると誇れるような仕事をしたい。そのために若い力と共に挑戦を続けていく」。小山社長の言葉には、ものづくりの現場を守り抜く覚悟と未来への確かな展望がにじむ。

小山工業所の工事実績
(文・撮影 梅川康輝)