【亀田製菓を世界のKAMEDAへ】髙木政紀社長に訊く「昇華へ の道筋」、ライス‐イノベーション‐カンパニーへ

国内米菓業界のトップランナーである亀田製菓株式会社(新潟市江南区)が、近年のグローバル戦略を背景に大きく形を変貌させる、その羽化の段階にあることを読者はご存じだろうか。「米菓メーカー」の枠を脱した「ライス‐イノベーション‐カンパニー」への昇華は、もう既にカタパルトから発射されている状態だ。

2025年6月に同社は、それまで合弁で技術支援をしてきたアメリカの菓子メーカー、THフーズを完全子会社化し、北米のグルテンフリースナック市場の拡大を加速している。今後は米菓・スナックの枠にとどまらず、グルテンフリーそのもののマーケットで存在感を示していくだろう。2030年代前半までに海外の売り上げ構成比を約50%にする計画を公表しており、「あられ、おせんべいの亀田」は変貌の時代に差し掛かっている。

今回、にいがた経済新聞では、同社の代表取締役社長COO 髙木政紀氏にインタビューをする機会を得た。

髙木社長は、小学校の途中まで旧亀田町で育ち、幼少期から「亀田製菓」の大看板を見ながらあこがれれを抱いたという。1990年、亀田製菓に入社。その後、工場長や総務部長、営業本部長などを歴任した。亀田を知り尽くす生粋のDNA、現場出身のリーダーが、今変貌の羽化に差し掛かる会社をどう語るか(聞き手 にいがた経済新聞 伊藤 直樹)

── まずは現在地である2025―2026における経営課題についてお聞かせください

髙木社長 亀田製菓が長く歩んできた製菓業を広域化させ「食品業」へと変えていこうという転換期はかつてもありましたが、それをさらに精細度を上げて次のステージへ、これからは「米(こめ)業」でやっていきましょう、というのが今の段階。2023年の中期経営計画で「お米の可能性を最大限に引き出して、世界で新価値・新市場を創造する【ライス‐イノベーション‐カンパニー】の実現をビジョンとして掲げました。ですから2025-2026の経営課題は【ライス‐ イノベーション‐カンパニー】としての事業基盤の徹底、そしてグローバル化への推移となります。

現在、事業の三本柱は国内米菓事業、海外事業、食品事業となります。国内米菓事業においては、米をはじめとする原燃料の高騰で厳しい状況にはありますが、メーカーとして数多くの商品を有しているので、独自価値を訴求して新しい価値を生み出していきます。そのためのキャッシュフローの創出力が必要です。海外事業においては、THフーズ買収をきっかけに北米市場の再構築を進めます。食品事業は長期保存食の規模拡大やシーズ事業である米粉パン、プラントベースフード事業の育成に注力していきたいと考えます。

「5年後には国内、海外の売上構成比を50:50に近づけたい」と髙木社長

──  ライス‐イノベーション‐カンパニーとはどういう意味ですか?

髙木社長 「お米の価値」というのは食べておいしいだけでなく多岐にわたります。グルテンフリーであって健康価値が高いところ、さらには稲から抽出した乳酸菌の存在にも注目しています。私たちは長年お米とともに成長してきた会社として、想像力を駆り立てて新しい価値創造をしてまいります。

かつて食品業へ転換しようという時期があったことを話しましたが、それでは領域がぼんやりしてしまう。自分たちのコア・コンピタンスを考えた時に、それはやはり「米」に対する技術力である、という自負がありますから。

2025年から亀田製菓は地元農業法人と協働で稲作事業をスタートさせている

その一環で、稲作従事者の高齢化や耕作放棄地の増加といった米にまつわる社会課題の解決に寄与すべく、今年から地元の農家と農業法人を設立して稲作にも携わっています。原料調達が直接の目的ではありませんが、2027年に設立70周年を迎えるわが社が「米と歩んできた」という姿を世界に発信したいという思いです。

──  海外戦略では、特に注目しているエリアはありますか

髙木社長 やはり最も注力をしているのは北米です。6月に買収をしたTHフーズでは、弊社と三菱商事さんで協力して「うす焼きせんべい」の生産技術を確立し、北米市場で「グルテンフリークラッカー」として展開してきました。結果、直近約15年で約400億円の市場を創出するに至りました。亀田製菓には性質の異なる多くの商品が存在します。これらの技術を北米に持っていき、なおかつアメリカナイズした魅力を付加すれば、「足し算」が「掛け算」になっていくと考えます。

北米戦略の橋頭保となるTHフーズ

アジアも重要な地域として認識しています。若い世代を中心にあられや揚米菓が浸透しているようです。アジアはクロスボーダー取引の拠点としての役割にも期待しています。亀田グループ全体で人と商品の流動性を高め、リソースを最大限活用し、世界中のお客様にお米の魅力を届けてまいります。

米国で「グルテンフリークラッカー」としてヒットを飛ばしたTHフーズの商品は「うすやきせんべい」の技術が活かされたものだ

 

── 最終的に亀田製菓の海外市場と国内市場の構成比は、どのあたりを目指されているのですか

髙木社長 2023年の中計の段階で、海外の構成比は15%程度でした。それが現在で既に35%になっています。北米市場も当初の70億円の売り上げを2030年代前半には約750億円までに引き上げたい。約10倍の数字ですが、既に当初の5倍程度には届いています。他と合わせて海外の売り上げを880億円にまで引き上げる。そのころには国内海外合わせて売上約1,800億円(現在約1,300億円)になっている計画ですから、五分五分に近い構成比に持っていきたいと思います。

既に海外市場でもKAMEDAブランドが確固たるポジションを築いている

── 一方で国内はいかがでしょうか。米菓市場自体が成熟しきった感があり、伸びしろを見つけるのが困難になるのでは

髙木社長 あまり心配はしていない、というより国内の米菓市場が縮小する懸念は持っていません。人口動態に依るところはありますが、5~10年は萎むことはないと思っています。亀田製菓は赤ちゃんからシニアまでそれぞれに適した食感の商品を作る技術があります。フルラインナップをまだ各階層にすべて打ちこめていないのです。現在は50代以上のお客様を中心にご愛顧いただいており、若年層は拡大の余地があります。その辺はアンテナショップなどを活用しながらお客様との接点を増やしてまいります。

国内でも新しい技術開発に積極的に取り組んでいます。国内で培った技術を海外に持って行ってマネタイズできる仕組みを確立する、というのが中計で打ち出した方針の1つでもあります。国内の技術革新もまだまだ期待しています。

ニューノーマルな時代に、おなじみの亀田製菓の商品も全く違う食のシーンで重用されることが

 

そのうえでどんなことができるか。今まで米菓というのはそのまま完成品としてお召し上がりいただいていますが、最近では食の中間材として、食事の素材として食べていただくというスタイルも広がっています。例えば柿の種を砕いてフライの衣にしたり、ハッピーターンの粉をからあげ粉に混ぜてみたり。はたまたソフトサラダを食べて1食の代わりにしたりと様々な形でそれぞれの食のスタイルに溶け込んでいます。基本的には嗜好品なので、明日柿の種がなくても困らないし、ハッピーターンがなくても困らないわけですが、様々な食シーンにフィットする形を提案できれば、必需品の領域に変わってくる余地はあると考えます。

── 食品部門では「防災食」というのは、現段階でどのくらいの市場性があるのでしょうか

髙木社長 例えば、能登半島地震の被災地復興に赴いた自衛隊が持参したアルファ米などは亀田製菓のグループ会社である尾西食品の製品です。米を瞬間的に乾燥させ、それを水でもどして食用にする「アルファ化」という技術でできたものです。宮城県の仙台市に工場を増設して、これから生産力増強に入っていくところです。このような長期保存食は非常時のみならず、キャンプに持っていくなど常食としての活用も広がっています。また水がない環境でもお召上がりいただけるけんちん汁とアルファ米がセットになった商品も、これをご飯と混ぜて炊き込みご飯風になる商品も販売しています。現在は日本国内中心ですが、いずれ海外に持っていく準備もしています。まだ法人、個人すべてに落とし込めているわけではありませんが、それでも生産が間に合わないくらいで、この分野は重点的に伸ばしていく考えです。

亀田製菓が今後注力を増す長期保存食のラインナップ

── 今後M&Aや提携、コラボレーションなど対外戦略についての考えをお聞かせください

髙木社長 まずは既存の海外事業・食品事業の幹を太くしていかなければなりません。広く浅くの部分に着手するというより、今ある既存の事業を第一としていきます。

我々が過去に、「自前主義」で課題に対応してきたことは反省すべき点です。例えばコロナ禍で物流が滞ったり、急激に需要が高まったりした時に、本社のスタッフが通常の業務を止めて工場につくりに行ったりしていました。結局それでスタッフ機能が崩れ、工場の生産体制も崩れてしまうということがありました。今は同業他社にも声をかけて協業体制を築いています。「生産のキャパシティが少し空いていたら使わせてもらえませんか」とか「うちのパーツでこんなものがありますが使いませんか」などやり取りをして、亀田製菓グループ以外の同業他社に作ってもらっている商品もいくつかあります。お互いに潤っている時には切磋琢磨すれば良いし、困っている時は助け合うという変化適応力がある業界を目指したいですね。

私は日本の食品のクオリティが世界で一番高いと思っていますから、それを前面に打ち出すことで世界でも十分に通用すると考えます。業界の中で戦う競争ではなく、共に創る「共創」がこれから必要とされると思います。

亀田製菓株式会社(新潟市江南区)

── 今後5年で亀田製菓はどんな進化を遂げたいとお考えですか

変化適応力をつけていかなければなりません。「ニューノーマルな時代」という言い方もできますが、今までの常識が通用しないような時代が来ています。米だけに関わらず食糧問題、人口問題を考えても、おそらく今後は「モノが潤う時代」は来ないでしょう。そのリスクを新たに計算に盛り込んで、ニューノーマルな時代における我々の事業構想を形成していかなければなりません。

将来的には米菓のみならず食品事業の海外展開も視野に入れています。(日本の米菓メーカーから)世界のライス‐イノベーション‐カンパニーに大きくシフトしていくでしょう。では国内をおろそかにするのか、というとそうではなく、国内で我々の技術を高め、その技術に組み込んで積極的に世界KAMEDAブランドを広めていまいります。

髙木社長の話す通り、もはや亀田製菓は「亀田のあられ・おせんべい」のステージを超えて、グローバル企業として確立し、なおかつまだかなりの伸びしろを残している状態にあると言える。

5年後、新潟の風土が作り出した技術が世界を席巻している姿に期待を寄せたい。

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