【梅川リポート14】ストック型収益への転換を進めるMATSUI企画設計(新潟県上越市)、建築設計から飲食・教育まで広がる展開

新潟県上越市名立区の本社オフィス
新潟県上越市を拠点に建築設計やリノベーション、不動産事業を手がける株式会社MATSUI企画設計(新潟県上越市)は、創業から11年を迎えた。長期優良住宅をはじめとする設計サポート事業を主軸に、鉄骨施工図の分野では全国規模で大手ゼネコンや商社からの受注を重ねてきた。さらに近年は、空き家問題に向き合う不動産・リノベーション事業、地域の賑わいを生む飲食事業、そして教育事業へと裾野を広げている。
建築設計サポートで全国を支える
2014年10月、同社の松井千代仁(ちよひと)代表取締役が自宅にて個人事務所「MATSUI企画」を設立したのが出発点である。以来、建築設計サポート事業では、全国のビルダーに対して構造計算や省エネ計算を支援してきた。対象は戸建て住宅にとどまらず、ビルや工場、駅舎、倉庫、アミューズメント施設など多岐にわたり、金沢オフィスを拠点に施工図の受注も拡大している。

株式会社MATSUI企画設計の松井千代仁(ちよひと)代表取締役
同社が手掛けた実績には、首都圏の大型駅施設、さらには東京オリンピック関連施設も含まれる。愛知県の「ジブリパーク」や上越市水族館での施工図も担い、一般客が目にするアクリルトンネルの裏側には同社の図面が生きているという。こうした国家的規模のプロジェクトを支える裏方として、松井代表は全国を飛び回り、設計士同士の協業体制を築き上げてきた。
松井代表が次に注力したのは「保存と活用」である。幼少期に宮大工への憧れを抱いた経験から「壊すよりも残す」ことに価値を見出し、既存建物の利活用を追求した。
リノベーション事業では、用途変更や間取りの再構築を通じて中古住宅や空き店舗に新しい命を吹き込む。コロナ禍を契機に家で過ごす時間が増えると、暮らしの質を高めたいという需要が高まり、同社は松井代表の宅地建物取引士資格を活かして不動産部門を立ち上げた。リノベ不動産のFCに加盟し、中古住宅の購入から改修、販売までを一貫して担う体制を整えた。
さらに空き家管理事業にも踏み出した。遠方に実家を持つ相続世代を対象に、郵便物確認、外観点検、換気、草刈りといった定期管理を代行するサービスを開始。
管理の過程で購入希望者が現れれば仲介やリノベーションまで一気通貫で対応できる仕組みを構築している。松井代表は「空き家を壊すだけでは地域の財産が失われる。利活用を通じてランドマークを残したい」と強調する。
飲食事業への挑戦
一級建築士事務所としての成長を基盤に、同社は地域に根ざした飲食事業へも進出した。2023年5月には高田の町家を改装した「高田町家BAR 桔梗(ききょう)」を開店し、和風の個室空間で語らいを楽しめる場を提供している。
続いて2024年5月には「しらす丼屋 桔梗」をオープンしたが、漁獲や流通の不安定さから今年8月に閉店を決断した。挑戦と撤退を経て、地域に合った飲食モデルを模索し続けている。

新潟県上越市仲町の「高田町家BAR 桔梗(ききょう)」
同年、道の駅うみてらす名立に「Sweets Techichi」を出店し、タオピオドリンクやスイーツなどで観光客や地域住民を惹きつけた。さらに直江津では老舗ベーカリー「ブーランジェ・エム」をM&Aにより傘下に収め、イベントやカフェへのパン供給など販路を拡大している。松井代表は「飲食は生活に直結し、人を笑顔にできる事業。建築や不動産と同じく、人の暮らしを豊かにする一因となる」と語る。
2025年5月から新たに教育事業として学習塾も開設した。高田地区には既存の塾が多いものの、合う合わないの選択肢を求める声が根強く、市場性を見込んでの参入である。松井代表は「教育は人づくりに直結する社会貢献」と位置付け、地域に根ざした学びの場を提供する構想を描く。
多角化の先にあるビジョン
同社の事業は建築設計が根幹であり、売上の約7割を占める。一方で、リノベーションや不動産は1件あたりの規模が大きく、数千万円規模の売上を生むことも少なくない。飲食や教育はBtoC事業として地域住民に直接関わり、会社の知名度を押し上げる。松井代表は「受け身の受注型から、ストック型収益への転換を進める」とし、不動産賃貸や空き家管理など安定収益基盤の確立に力を注ぐ。
「社会に必要とされる企業であり続けたい。建築から始まったが、すべては人の生活を豊かにするためにある」と松井代表は語る。地域の街並みを守りながら、新しい価値を創出し続けるマツイ設計グループ。上越から全国へ、同社の挑戦はこれからも続く。
(文・写真 梅川康輝)