【梅川リポート15】総合建設から観光、不動産まで多角経営に挑戦する信越工業グループ(新潟県妙高市)

信越工業株式会社本社(新潟県妙高市)
新潟県上越市と妙高市を中心に、建築・土木から観光、不動産事業まで幅広く展開する地元企業がある。創業は屋根瓦の製造から始まり、戦後の復興とともに総合建設業へと事業を広げ、現在では注文住宅「S⁺umica」ブランドを展開するほか、ホテル運営や温泉施設、不動産事業を通じて地域経済に深く根を下ろしている。信越工業株式会社(新潟県妙高市)グループの歩みと現在の取り組みをたどる。
瓦屋から総合建設へ戦後復興の礎
企業のルーツは瓦職人にさかのぼる。創業者は戦時中、上海でレンガ工場に従事し、帰国後に粘土質の土を使って自ら瓦を焼いたことから事業を始めた。以降、屋根工事業を営んできたが、「屋根だけでは将来食べていけない」との判断から総合建設業へと転換。地域の需要に応える形で、住宅から公共工事まで手がけるようになった。
現在の事業の柱は建築部門で、売上の7~8割を占める。特に主力は一般住宅で、注文住宅ブランド 「S⁺umica」を展開している。かつて坪単価は50万~55万円だったが、資材高騰や人件費上昇により現在は坪80万円~85万円に上昇。標準仕様で40坪の家を建てれば約3,000万円が必要になるという。

同社が手がけた住宅
上越市や妙高市を中心に展開するが、柏崎市では中越沖地震後の復旧工事や寺院修繕などを請け負った実績もある。顧客の希望に応じて現場で柔軟に対応する姿勢が強みで、工事中に顧客が要望すれば棚や書斎などを追加できる点も評価されている。同社は建築と土木の両輪で公共工事にも関わる。保育園の整備、旧「いきいきプラザ」の解体工事などを受注し、跡地には新図書館が10月にオープンする。地域の暮らしを支えるインフラ整備にも大きな役割を果たしている。
不動産とホテル事業への展開

上越妙高駅前のアパホテル
同社は不動産事業も展開する。法人化した「楽栄不動産」や「MSK」を通じて賃貸・売買物件を扱うほか、アパホテルのフランチャイズ運営にも参入した。全国で60棟以上に拡大するアパホテルの地方展開の一翼を担い、上越妙高駅前に161室を擁するホテルを開業。開業当初の建設費は約12億円だったが、現在では倍額以上が必要となるといい、ホテル建設コストの高騰を物語っている。
稼働率は高く、コロナ禍を乗り越えた現在は90%以上を維持。外国人利用客も全体の2割を占め、スキー滞在を中心に長期宿泊するケースが多い。自動チェックイン機やAI翻訳機を活用し、外国人対応を進めている点も特徴だ。
ただし、課題もある。駅前には複数のホテルが立地し、宿泊客は700~800人規模になるが、夕食を提供できる飲食店が不足しているという。人気店は予約が必要で、入れなかった客がコンビニで済ませるケースもある。田中正人代表取締役は「地元食材を扱う居酒屋や小料理店が増えれば、地域全体の魅力向上につながる」と話す。
温泉施設「かわら亭」の源泉

宿泊・日帰り温泉のかわら亭(新潟県妙高市)
妙高高原では外国人による不動産需要が高まっている。中古住宅は出ればすぐに売れる状況で、冬季利用を目的としたセカンドハウスとして購入する例が多い。建設部門を併営する同社にとっては、リフォームや改修工事の受注にもつながっている。同社は創業から75年を迎えた。コロナ禍では「かわら亭」の休業や人員削減を余儀なくされたが、昨年度「かわら亭」は過去最高売上を達成した。現在は「創業100年」を目標に掲げ、グループ全体での連携を強化している。社員にも「景気が良い時ほど慎重に」と戒めを伝え、堅実な経営姿勢を徹底している。
田中代表取締役は34歳で事業を継承して以来、18年にわたり経営を担ってきた。「借り入れを可能な限り返済し、後継者が背負わなくてもいい状態にしたい」と語る。

信越工業株式会社の田中正人代表取締役
瓦屋として始まった同社グループは、建設、不動産、観光と事業領域を拡大し、地域のインフラや観光資源を支える存在となった。人口減少や物価高騰といった課題を抱えつつも、地域に根ざした経営理念のもと、100年企業を目指す歩みは続く。
(文・写真 梅川康輝)