【電気工事は暮らしを支えるものづくり】地域のインフラを支え、次世代のプロフェッショナルを育てる 矢野電気工業所(上越市)の企業文化とは
自宅や職場、病院や学校といった日常の場から、夜の街を照らす街灯に至るまで、私たちの暮らしは電気なしには成り立たない。快適な暮らしに欠かせないインフラを支え、電気工事の新設から保守点検まで、建物の生涯に寄り添いながら働く技術者たちがいる。
今回は、上越で長年電気工事に携わる株式会社矢野電気工業所(新潟県上越市)を取材。若手からベテランまで幅広い年代が働く同社の仕事のやりがいや魅力、人材育成への取り組みについて話を聞いた。
60年以上の実績が築く、地域への信頼
上越市柿崎区に本社を構える株式会社矢野電気工業所は、昭和36年(1961年)の創立以来、地域の電気インフラを支えてきた電気工事会社だ。「お客様に信頼される製品とサービスを提供する」をモットーに、電気工事を中核として、通信工事、消防設備、空調工事まで包括的なサービスを提供している。
事業構成は公共・企業向けが約6〜7割、一般向けが約3〜4割。県立病院や県立高校、中学校、小学校、保育園など、地域の重要な公共施設の電気設備を数多く担当する一方、地元工務店と連携した一般住宅やアパートの電気工事にも取り組む。営業エリアは上越市13区を中心に、新潟県内全域をカバーしているのも特徴だ。
同社の競争優位性は、新設から保守点検まで一貫したサービス提供体制にある。
担当者が各現場を継続的に受け持ち、新築時の施工から保守点検、修理に至るまで、建物のライフサイクル全体をサポート。同社に掲示された多数の感謝状は、長年にわたる技術力と対応力への評価を物語っている。
現在、従業員数は23名(社長、専務含む)で、うち男性19名、女性4名。1級電気施工管理技士8名、第一種電気工事士14名をはじめ、多数の有資格者を擁し、設計から施工、保守まで高度な技術力で対応できる体制を構築している。
未経験者を一人前に育てる、独自の教育システム
同社の人材育成では、先輩社員によるマンツーマン指導体制を採用。未経験者でも安心して働けるよう、基本的に作業は2人1組で行い、先輩社員が実践的な作業を通して指導している。約3年をかけて、新人社員を一人前の技術者として独り立ちできるまで育成している形だ。
資格取得支援制度も充実している。竹内靖雄社長は「仕事をしていく中で様々な資格が必要となります。毎年個々の力量を踏まえて目標を決め、資格取得を目指してもらうために、受験費用、講習会参加費、学習教材費は全て会社で支援しています」と語る。
また、竹内社長は資格取得者への手当支給制度も新設。今までは資格を保有していても給料に反映されていなかったが、頑張った分はきちんと評価したいという竹内社長の信念に基づく施策だ。
年間休日117日、残業はほとんどなく、退勤時間は17時半。有給取得率は100%を達成している。また、熱中症対策として空調服やドリンクの支給など、社員の健康管理にも注力。こうした働きやすい環境づくりの成果として、2024年以降、若手が3名入社するなど、人手不足に悩む業界において特筆すべき成果を上げている。
現場で輝く若手社員が語る成長の秘訣
段階的な教育や研修、資格取得サポートで若手社員の育成に取り組む同社。実際に働く入社2年目の五十嵐哲哉(19歳)さん、今年入社したばかりの下間涼久さん(19歳)の二人に、仕事の魅力や職場環境について聞いた。
まずは、電気工事士だった祖父に憧れてこの道を選んだという五十嵐さん。「子どもの頃、祖父が一人で照明器具を取り付けたり、配線している姿に惹かれました。職場見学の時の社内の明るい雰囲気も入社の決め手になりました」と振り返る。
五十嵐さんはこれまでに、一般住宅から公共施設まで幅広い現場を経験した。
「先輩社員と一緒に配線して、実際に電気がついたときに楽しさを感じます。図面も入社1年でだいたい読めるようになりました。配線ミスをした際も、先輩に怒られるようなことはなく、丁寧に指導してもらえたのが印象に残っています」と話す。失敗を叱責せず成長の機会とする社風が、若手の挑戦を後押ししているというわけだ。
一方、入社半年の下間さん(19歳)は、日常で使われる電気に関するものづくりの過程に興味を持って入社。現在は発電所の配線工事を担当する。
「入社1ヶ月目に任されたコンセント工事を無事に終えた時の達成感が忘れられません。先輩から教わったことが身に付いていると実感できる瞬間が嬉しいですね。仕事で分からないことは何でも聞くことができますし、手取り足取り教えてもらえる環境が心強いです。そんな環境があることが、仕事のやりがいにもつながっています」と笑顔で語る。
取材当日、五十嵐さんが現在担当しているという、公共施設でのLED化工事現場を訪問した。約280台の照明を交換する2カ年計画の大規模プロジェクトだ。基本2人1組で作業し、電線を専用工具で結線し、絶縁テープを巻いていく。時に先輩社員からアドバイスをもらいながら、一つ一つの照明を丁寧に取り付けていく。
「関わっている仕事が形になっていくことで、自分の成長を実感できます。入社後に第二種電気工事士を取得しましたが、次は第一種を目指しています。できることの幅をどんどん広げていきたいです」と五十嵐さん。
下間さんも「資格取得はサポートが手厚いこともあり、積極的に挑戦してみようと思えます。今後は、お客様に満足してもらえる電気工事士になりたいです。僕たちがしてもらってきたように、将来は後輩を指導できる立場を目指します」と展望を語る。
現場で輝く若手社員が語る成長の秘訣
竹内社長が掲げる経営の根幹にあるのは、「社員全員を幸せにする」という明確な理念だ。「そのために大切にしているのが、やはり社員とのコミュニケーションです。社員の要望を積極的に聞きたいですし、社長室には気軽に社員が入ってきていつでも相談できる空気を保ちたい。それが風通しの良い職場環境の実現に通じると考えています」(竹内社長)。
朝の挨拶一つにしても、雰囲気づくりには欠かせない要素と竹内社長は語る。「挨拶は社会人として当たり前のことですが、元気な挨拶が社内の明るい雰囲気につながりますから、しっかりと挨拶するように呼びかけています。以前に比べると、暗い顔をして出社をする社員が随分と減りましたよ」と嬉しそうに竹内社長は語る。
社員の要望を形にした実例もある。実際に「休日を増やしてほしい」という社員の要望があり、2024年4月から土日完全休日制を実現。同時に給与のベースアップも実施し、全社員を対象に待遇改善を図った。
こうした「社員を幸せにする」という理念を軸に、竹内社長は三つの柱で経営ビジョンを構築している。
第一の柱は「安全と健康は経営の基盤である」という考え方。毎朝の朝礼では、社員一人一人がKY(危険予知)活動を行い、その日の現場でどんな危険が予想されるかを発表。具体的な危険予知を共有することで、全員の安全意識を高めている。
第二の柱は「顧客満足と信頼を第一に」という姿勢だ。確かな工事技術で社会に貢献、工事品質とサービスの向上を追求し、頸北地区を中心とした地域密着型経営を継続しながら、新規顧客の開拓にも注力している。
第三の柱は、同社が近年最も力を入れている人材育成だ。現場管理職候補を含め、若手の育成に力を入れ、資格取得支援や教育体制の充実を図りながら、次世代の技術者育成を経営の重要課題として捉えている。
創業100周年に向けて、今まで以上に地域に根ざした企業へ
同社の今後の事業展開としては、2027年に向けたLED照明への切り替え・移行推進が大きなテーマだ。蛍光灯の生産が2027年に生産終了されることから、LED化の需要が急速に拡大。地域環境に配慮した製品の提供に力を入れたいと竹内社長は意気込む。
「感震ブレーカーの普及や地域の防犯カメラの設置・普及も視野に入れています。地域で一人暮らしをされている高齢の方から防犯面での相談を受けることもあり、防犯カメラ設置やインターネット経由で遠隔監視できるシステムの提案なども行なっています。電気工事を通じたあらゆる業務で地域の安全・安心に貢献することも、私たちの重要な役割です」と竹内社長。
また、地域清掃活動や柿崎時代祭りでの神輿担ぎ、老人施設の除雪作業など、地域活動にも積極的に参加することで、業務の枠を超えた地域貢献を実践している。
「地域のためにできることを行うことで、地域に根差し、地域から必要とされる会社になっていく。地域のニーズを満たしていくことで、その地域の活性化に役立ち、企業の経営・発展にもつながる。私たちの仕事は、電気工事というものづくりの楽しさと地域に役立つというやりがいに満ちています」(竹内社長)。
矢野電気工業所は、これからも確かな技術と温かい人間関係、そして地域への深い愛情を持ち、創業100周年に向けて地域とともに歩み続ける。
【会社情報】
株式会社矢野電気工業所
新潟県上越市柿崎区柿崎7259
TEL:025-536-2323
https://yanoden.net/