第10回 祈りをつなぐ観光―関山仮山伏モニターツアーから見えたもの(蔡紋如「MAHORA西野谷」代表)
「仮山伏の棒遣い」演武
先日、妙高市の関温泉組合が実施した「妙高 仮山伏の棒遣い体験ツアー」 に参加し、改めて観光の意味を考えさせられました。妙高山の山岳信仰を軸 に、その背景にある歴史や文化、人々の祈りの形を肌で感じ取ることができた からです。
ツアーの中でいただいた「宝蔵院御膳」は、地元の方々が五年以上かけて復 元した精進料理。300 年前の古い日記を手がかりに、限られた資料をもとにお 母さんたちが現代の味付けで再現した郷土料理です。古文書を実際に手に取り ながら食べるその体験は、まるで時間を超えて過去とつながるような感覚でし た。「もっと良くしたい」と前向きに工夫を重ねる姿には、地域の誇りと温か さがにじんでいました。
そして今回のツアーの中心となったのが、「仮山伏の棒遣い」の演武体験で す。妙高はかつて修験道が盛んでしたが、江戸時代には山伏の姿が消え、村人 が代わって神事を担う「仮山伏」の文化が生まれました。その象徴「仮山伏の 棒遣い」では、地元から選ばれた若者6人が2人一組で長刀(薙刀)・太刀・ 六尺棒を操り、22 種の型を奉納します。
今回のモニターツアーでは、地域外の人が初めて演武に参加するという新た な試みも行われました。地元の男性たちが所作や道具の扱いを丁寧に教え、衣 装の着付けや装飾まで心を込めて手伝ってくれました。これまで地域外には伝 えられることのなかった文化も、時代に合わせて形を変えながら受け継いでい くことが大切です。形は変わっても、根底にある「祈り」や「感謝の心」は変 わらない——そのことを強く感じました。
こうした取り組みこそが、観光の本質を教えてくれます。単なる“旅行体験”ではなく、その土地の文化的価値を理解し、次の世代へとつなげること。観光は本来、地域に根ざした人々の暮らしや物語を感じることから始まります。それぞれの土地にしかないストーリー、そしてそれを守ろうとする人の存在が、何よりの魅力です。
こうした地域資源を掘り起こし、磨き上げる活動こそが、地域の価値を再発見し、文化を未来へ残す力になると感じます。地方には、まだ掘り起こされていない物語が数多く眠っています。今回の体験を通じて、改めてその一つひとつを丁寧に拾い上げ、未来へつないでいくことの大切さを実感しました。
台湾出身。2014年に結婚し、夫とともに妙高へ移住。独学で総合旅行業務取扱管理者の資格を取得し、妙高市観光協会に積極的にアプローチしてインバウンド専門員として採用される。主にアジアの華僑系顧客をターゲットにプロモーションを展開し、企画制作を担当。また、FacebookなどのSNSを活用して日本での生活をPRする活動も行う。コロナ禍で観光業が大きな打撃を受けたことで、地域のために何ができるのかという強い危機感を抱くようになる。2023年、農業と観光業を通じて地域を活性化することを目指し、合同会社穀宇を設立。2024年には京都大学経営管理大学院観光経営科学コースを卒業。同年4月に築120年の文化複合施設「MAHORA西野谷」を開業する。
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