【梅川リポート18】異業種から地域密着型介護事業へ参入した飯塚代表の挑戦と展望
建設業を本業としながら、介護事業に新たな道を切り開いたのがビィ・エフ・クリエイト株式会社(新潟県上越市)の飯塚正彦代表取締役である。同社は地域密着型のデイサービス「樹楽(きらく)」と、小規模多機能型居宅介護施設を運営し、介護と建設という異業種を両輪に据えた経営を続けている。取材では、参入の経緯から業界の課題、今後の事業承継やM&Aまで、率直な思いを語ってくれた。
建設から介護へ 異業種参入の背景
「もともとは建設業一筋でした。設備工事の現場でキャリアを積み、30代後半で独立したのが始まりです」と飯塚代表は振り返る。独立当初は個人事業からのスタートだったが、経営の安定を模索するなかで「まったく異なる業種をもう一つ持つことで、リスクを分散したい。それと、これからの身内(親)の介護について考える中」との発想が生まれたという。
介護事業に本格参入したのは約14年前。ちょうど地域の高齢化が進み、デイサービスや小規模多機能型居宅介護施設の需要が高まりつつあった時期であった。
「まったくの素人でしたが、知らないからこそ飛び込めた。知りすぎていたら怖くて踏み出せなかったと思う」と笑う。創業当時は、昼は建設の仕事、夜は介護現場の夜勤に入るという生活を続けたという。「職員が足りなければ自分が現場に入る。寝る時間もなく必死だったが、身をもって現場を知ることができたのは大きな財産になった」と振り返る。
地域密着の介護拠点「樹楽」
現在は上越市頚城地区で、デイサービスと小規模多機能型居宅介護施設を運営している。両事業所は同一建物内に併設され、送迎や宿泊、訪問介護といった多様なサービスを一体的に提供する。
デイサービスは定員10名、小規模多機能は宿泊9名、通い18名が上限で、スタッフ約20名が支えている。「地域密着型なので利用者の範囲は車で30分圏内。13区内や大潟、吉川地域の方々が中心です」と話す。
利用率はデイサービスで5割前後、小規模多機能で9割とあともう少しの状態を頑張っている。「宿泊のニーズが高い。独居の方や、家族が一時的に見られない時の利用が多い。登録制なので、使う使わないに関わらず一定の報酬が得られ、事業の安定にもつながっている」という。
ただ、介護業界全体の構造的な課題も口にする。「制度上、サービス内容・人員基準が厳しく定められているため、独自性を出しにくい。食事やスタッフの接遇など、限られた範囲で工夫するしかない」と指摘する。
調理員の確保も難しく、現在はスタッフが一部調理済み食材を用いながら提供している。「本来は手作りで提供したいが、調理済みの食材の味が非常に美味しく栄養も加味している事、そして人員の確保やコストの問題も大きい影響している」と苦しい胸の内も明かす。
人材確保と制度のはざまで
介護事業における最大の課題は「人材確保」だという。
「介護業介は一定の人員基準を満たさなければ事業が成り立たない。利用者が減っても職員数を減らせない“ゼロイチ”の世界。制度に縛られ、運営の柔軟性が取りづらい」と語る。さらに、最低賃金の上昇に対して介護報酬の改定が追いつかない現状も経営を圧迫している。
「介護報酬は原則3年に1度の見直しだが、最低賃金は毎年上がる。結果として人件費負担が増す一方だ。来年度には見直しの議論もあるが、まだ確定していない」と述べ、制度改正への期待と不安を滲ませた。介護職の待遇改善は業界全体の課題であり、「報酬が上がれば優秀な人材が集まり、経営の安定にもつながる」と訴える。
建設と介護、2本柱の経営
同社の事業構成は現在、建設と介護がおおよそ半々。
「数年前までは介護の比率が高かったが、建設の基盤が整い、バランスが取れてきた。今後も両事業を同じ比重で伸ばしていきたい」と展望を語る。
建設部門では、設備工事を中心に人員を増やしながら安定化を図っている。一方で、介護部門は地域との連携を強め、よりきめ細かいサービスを目指す方針だ。
「建設と介護という、一見つながりのない事業を並走させることがリスク分散になる。片方が厳しいとき、もう一方が支える関係を築ければ理想」と語る姿勢は実に現実的である。
M&Aによる事業承継と拡大戦略
飯塚社長は、将来を見据えたM&A戦略にも意欲的だ。
「この3〜4年ほど前から真剣に学び始めた。建設・介護のどちらか一方ではなく、両事業をバランスよく成長させたい」と語る。上越地域では案件が少なく、長野県や新潟市、さらには関東方面まで視野に入れている。「簡単ではないが、交渉や資金計画など勉強すべきことは多い。無理に広げるより、相性の良い企業と組むことが大事」と慎重な姿勢を見せた。
また、将来的な事業承継にも触れ、「自分が現役で動ける間に、次の世代へバトンを渡したい。自社を誰かに託すか、同じ志を持つ人と並走する形で継続させるか今後検討していきたい」と語る。経営者としての責任感と、地域に事業を残す使命感がにじむ。
介護と地域社会のこれから
人口減少と高齢化の進行により、介護業界は今後も大きな変化に直面する。
「団塊世代が施設に入る今後10〜15年がピーク。その先は需要減少も見込まれるが、生き残れるかどうかは“今”の取り組みにかかっている」と強調する。
一方で、地方経済全体の縮小傾向にも危機感を持つ。「建設も介護も例外ではない。地方では東京に資金が吸い上げられ、地元にお金が落ちにくい構造になっている。地域の中小企業が踏ん張らなければならない」と語る。
飯塚代表は、大手チェーンとは異なる「地域密着型経営」にこだわる。「大手のように資金力はないが、小回りが利く。利用者の顔が見える距離でやっていきたい」と語り、「食事や接遇、スタッフの笑顔といった“温もりのあるサービス”こそが、私たちの強みにしていきたい」と力を込めた。
【記者メモ】
異業種参入から10年以上。建設と介護という二本柱を築いた飯塚代表の経営には、「現場に立つ覚悟」と「地域を支える責任」が息づいている。制度や環境の変化が激しい中でも、現場を知る経営者としての冷静な分析と、地域へのまなざしを忘れない姿勢が印象的だった。「知りすぎていたらできなかったかもしれない。無知だからこそ飛び込めた」。そう語る言葉の裏には、挑戦者として歩み続けてきた自負と、地域の未来を見据える確かな視点がある。
(文・撮影 梅川康輝)