【特集】障害者や精神疾患…支援を必要とする人々の暮らしを県職員として支えて 新潟青陵大学卒業生・関悠河さん
障害者施設「コロニーにいがた白岩の里」(新潟県長岡市)で利用者の男性の手を引く若手職員、関悠河さんは県の福祉行政職員。新潟青陵大学(新潟市中央区)の社会福祉学科ソーシャルワークコースを卒業後に入庁し、今年で社会人7年目だ。
これまで保健所や病院でソーシャルワーカーとして相談業務も経験してきた関さんは「やっぱり一番大事なのは、共に生活する中で、利用者の方々をよく見ながら、気持ちを汲み取ること」と利用者に寄り添う姿勢を大切にしていると話す。
言葉で伝えることが困難な人たちの気持ちに寄り添って
「コロニーにいがた白岩の里」は、長岡市寺泊にある施設。2024年に指定管理者制度が導入され、現在は社会福祉法人長岡福祉協会が運営しているが、移行期間のような形で関さんをはじめ県職員も働いている。同施設は障害者の総合的な支援施設となっており、関さんは「児童部」で利用者に寄り添い、その生活をサポートするのが仕事だ。
「今、私が支援させていただいてるのは重度の知的障害のある方々が多く、言葉で伝えることが困難な方がほとんどです」と関さん。しかし、生活支援に対話が必要な点は変わらない。「会話ができないので、思ってることやしたいこと、逆にやめてほしいこと、困ってることが伝えられません。なので、表情や行動が『いつもとなにか違うな』というところを日々感じられるようになるのが一番大事だと思っています」。
関さんは県の福祉行政職員としてこれまで様々な業務に携わってきたが相談業務が主で、こうして利用者の生活を直接支援するのは初めて。最初は利用者の気持ちを汲み取ることに苦戦もしたが、同じ県職員だけでなく施設の先輩職員にもアドバイスを貰いながら奮闘する。
「すごく着実に仕事をこなしている印象で、『今日は関さんが居るから大丈夫だ』と思える職員です」と話すのは、同施設児童部の梅田裕之寮長だ。「(働き始めた当時は)戸惑うこともすごく多かっただろうと思います。でも、分からないことや困ったことをそのままにせずにすぐに聞いてくれました。どんな職場でもそうだとは思いますが、仕事は一人でこなせるものではありません。職員がチームになって一緒に考えていくことが重要で、逆に関さんから色々教えてもらうこともあります」。
また、関さんの利用者への距離感も評価する。生活支援の場とはいえ、過干渉は利用者にとってストレスになる場合もある。「相手が入ってきて欲しくないところは入らない。利用者の方にも踏み込みすぎると拒否する方も結構いらっしゃる。そのあたりの気づきは、関さんは早かったと思います」(梅田寮長)。
看護師をしていた母を見て福祉の学部へ
関さんは燕市の出身で、将来を考え始めたのは高校生の頃。進路に悩む中で参考にしたのは、家族の背中だった。「当時は特段、将来何かをやりたいという考えはありませんでした。でも、母が精神科病院の看護師をやっていて、障害のある方の話なども当時から聞いていたので、そういった看護や福祉の現場で働くのもいいかもしれないと思いました」(関さん)。
そうして門を叩いたのが、新潟市の新潟青陵大学だった。同大学は看護や福祉心理、子どもなどの分野を中心とした学校で、看護師、助産師、社会福祉士、公認心理師、保育士などの専門職を育成している。
同大学について「垣根を越えて学べる機会が用意されているのは、とても良いことだと思います」と紹介するのは、新潟青陵大学福祉心理子ども学部臨床心理学科の関谷昭吉准教授だ。関さんが在学した当時は、社会福祉学科に所属していた。
「専門家を育てると言うと何か一つの道を究めるイメージがありますが、人を対象とした時には『横幅』も重要になります。『福祉だけ』とか『心理だけ』でなく、様々な分野を少しずつでも知っている人と知らない人では、まったく違います」(関谷准教授)。身体のケアと心のケア、社会との関わりなどそれぞれの専門性はありつつも、隣接分野の知識は現場で大きな力になる。また、進路に悩む学生たちにとっても、幅広い知識を身につける機会が提供されていることは心強い。

また、関谷准教授は「関東の大学や国立の大学と比べて小規模だからこそ、学生の成長や学んでいる姿が手に取るようにわかるところが、この大学の良さの一つ」とも話す。今回も、関さんが卒業して5年以上が経つが「取材の依頼が来て顔と名前がパッと思い浮かんだ」と笑う
精神疾患の人などからの相談に乗る相談員の仕事では、「(相談者は)簡単に他人に悩みなんて言えない」と関谷准教授は話す。だが、コミュニケーションの中に不安や不満みたいなものが実は隠されており、それを見つけることが相手の言い出せなかった話を引き出すきっかけになるという。
「ほんの一瞬の表情などに、相談者が思っていても言わないメッセージが込められていて、それをちゃんと受け止めて返すことで、相談者との良いコミュニケーションができて、良い支援につながっていくんです」(関谷准教授)
関さんが学んだ「社会福祉」は、子どもや高齢者、障害のある人など、社会的に不利な立場に置かれやすい人々が抱える悩みや課題の解決を目指す分野。病院などでの相談員として実習に出る機会もあった。
当時の様子について関谷准教授は「実習で多くの学生は傾聴しているつもりなのに、なぜか患者さんから『話を聞いているのか』と怒られる体験をします。大抵、話を聞いてメモは取りつつも、自分が教科書に書いてある通りにできているかの確認しかしていません。でも関さんは、患者さんの話す内容や、表情、声調子から思いを感じとり、その状況に即した対話を意識したら、内に秘めた思いをたくさん教えてくれたと笑顔で報告する姿が今でも印象に残っています」と振り返る。
県の職員として様々な福祉の現場を経験して
関さんはその後、福祉行政職として県に入庁した。
「福祉行政職は大きく分けると、県庁の福祉保健部で県の政策や企画立案に携わる職員と、関さんのように現場で支援を行う職員に分かれます」と解説するのは、県福祉保健部障害福祉課の新保和敏参事(課長補佐)。後者はさらに、関さんのように障害者施設などで直接利用者の生活支援を行う職員と、病院や保健所、児童相談所などで相談支援に携わる職員に分かれる。
新保参事によると、特に近年は福祉行政職員の育成のため、入庁10年程度の若手職員は各現場を約3年ごとにローテーションするような形になっている。「現場の経験を直接積んだ職員たちが企画立案や政策の推進にかかわっていくことで、福祉行政職という職種の強みを出していきたいと考えています」。また、研修の体系化や新人教育の改善も進めている。相談支援の場合、これまでは相談者と職員が一対一で面談していたが、若手と中堅職員の2人で相談にあたって「見ながら覚える」機会も増やす工夫なども行っているという。
こうしたプログラムの開始は2021年度ごろから本格的に開始され、その少し前に入庁した関さんはいわばそのモデルケースのような存在だ。

児童虐待への対応の必要性が高まるにつれて、近年は全国的に児童相談所に配置される職員の数は増えているという。一方で、障害者施設は多様な支援プログラムのノウハウを持つ民間に委託されるケースが増えており、「コロニーにいがた白岩の里」も同様だ(写真は施設内の「レインボーロード」)
関さんはこれまでに県内の保健所や新潟県立精神医療センターに勤務。うつ病や統合失調症などの患者からの相談業務に携わってきた。「自分の考えをうまく表現できなかったり、それで暴力的になってしまう人から気持ちを引き出すのは難しいことで、会話の中で信頼関係を築くというのはすごく知識も経験も必要です。そういった部分は、どこの職場でも重要でした」と関さんは振り返る。
保健所では、地域で暮らす精神疾患の人のところへ何度も訪問するなど、日々の細かい関わりを大切にした。「訪問したら何気ない会話や雑談から始めて、『やっぱり病院で治療したほうがいいよね』と提案して、実際に治療へ繋げていきました。相手の方が最初はなかなかうまくいかない状況から『少しでも楽になった』とか『今は楽しい』と言って笑顔を見れることがやっぱりこの仕事の一番のやりがいです」(関さん)。
県の福祉を担う中核へ
こうした経験を、現在の職場でも活かす。「障害のある方の特性について知識としてはあるのですが、実際に働いてみるとやはり人それぞれに色々な感覚があり、それぞれが気持ちを抱えながら生活しています」(関さん)。日々接する中で相手の機微を読み取り歩み寄ることは、これまでの職場でも現在の職場でも変わらない。
「コロニーにいがた白岩の里」では日々の生活だけでなく、利用者に合わせて自立への道のりも支援する。「自分が住んでいた地域や、本人たちが生活したい場所も選べるのが最終的な目標だと思っています」と関さんは話す。「施設での生活の中で、まだ自分がやりたいことが実現できていない利用者の方がたくさんいるのではないかと思っています。その方たちが、もっと日々をより自立した生活を送れるような取り組みや支援を、私だけでなく職員のチームとして提供できるようにしていくことが、これから一番やっていきたいところです」。
県の職員である関さんは、派遣期間の終了とともにまた別の職場へ異動する。梅田寮長は現在の仕事の経験が、また別の職場で生かされることに期待を寄せる。「現在、県の仕事としては直接支援がかなり減っていて、ケースワークや相談業務が主になっています。しかしそうした中でも、今の経験があるからこそ、実際の利用者がいるということを意識しながら仕事に関わっていくことができると思います」。
新保参事も「関さんも、もうすぐ指導する立場になっていきます。そうすると、彼個人の支援の力だけでなく、チーム全体の力にも大きく影響して支援力の向上に繋がっていくはずです。いわゆるプレーヤーとしての中核を担っていただく職員がこれからの世代で増えていくことに、非常に大きい期待を持っています」と関さんの将来にエールを送る。
様々な課題を抱える現代社会。ケアに関する仕事は今後も拡大し、中でも行政としてそこへ関わる立場は重要だ。
関さんは将来へ向けて意気込む。「障害によって日々の生活が苦しかったり精神的にうまくいかない人たちを、今より自由な生活を送れるように支援していくことが必要だと思っています。まだまだ経験不足ですが、これから色々な方と協力し、教えられながら新潟県の福祉に貢献できる職員になれたらと思っています」。
【学校情報】
学校法人 新潟青陵学園 新潟青陵大学・新潟青陵大学短期大学部
住所:新潟市中央区水道町1丁目5939番地
新潟青陵大学は2000年に開学し、新潟県初の看護、福祉、心理系の大学として1学部2学科を開設した。現在は看護学部看護学科と福祉心理子ども学部社会福祉学科・臨床心理学科・子ども発達学科の2学部4学科で構成されている。
毎年、卒業生の約80%が新潟県内に就職しており、新潟県の医療、福祉業界を支えている。
また、新潟青陵大学短期大学部も併設している。現在は人間総合学科と幼児教育学科の2分野を有し、新潟県の企業、保育業界への人材供給を担い続けている伝統校。
【シリーズ『新潟で輝く卒業生たち』】
【特集】新潟こころの発達クリニック(新潟市中央区)臨床心理士、緑川ほのかさん 「発達障害の特性に寄り添う心の専門家」青陵大学卒業生を追う
【特集】株式会社熊谷営業、喜藤武琉さん「オーダーメイドのパッケージを、全国展開するコンビニの店頭に!」新潟食料農業大学卒業生を追う









