【新社長インタビュー】株式会社里味・高頭芳徳氏、コロナ禍を経て「変わるべき慣習」「それでも守るべき理念」
原材料費の高騰、人手不足、そしてコロナ禍が変えた人々の食習慣――。外食産業はかつてない逆風にさらされている。従来のビジネスモデルがそのまま通用する時代は終わりつつある。
2025年6月から株式会社里味(見附市)の経営トップに就任した、二代目の高頭芳徳社長に聞いた。父・八郎氏がつくりあげたフォーマットを受け継ぎながらも、時代の要請に応えるべく変化へと舵を切るのか。
「変化」していかなければならない
新潟県内、新発田市から上越市まで、19店舗を展開する和食ファミレスチェーン「くいどころ里味」は、独自のフォーマットを確立している。
店舗に職人を置かない。食材の仕込みは見附市のセントラルキッチンで行い、そこから全店舗にトラックで運ぶ。新潟ならではのふのりをつなぎに使った蕎麦を根幹にしたメニュー構成は比較的シンプルだと言える。一転、原材料へのコストの傾け方は並みではない。
蕎麦粉は最高級と言われる北海道十勝の新得産。蕎麦つゆなどに使う鰹節は、真の一流料亭が使うような鹿児島県枕崎の本枯節・二度カビ付。同様に北海道利尻の昆布。蕎麦のつなぎに使うふのりは青森県尻屋崎のもの。もちろん米は新潟県産コシヒカリ。すべてがチェーンのファミレスが使用するようなレベルの食材ではない。これらに加えてマヨネーズ、ウスターソースなどは自家製というこだわりようだ。
―― コロナ禍が終息した、そのすぐ後に空前の原材料高騰となりました。里味のように原材料に最高級のものを使う業態には大きな打撃と思います。初代、八郎社長が作り上げた「店舗に職人を置かずセントラルキッチンで/原材料は最高のものを」というフォーマットは、ここにきて見直されるのでしょうか
高頭社長 そこのところは変わりませんし、変えてはいけない部分だと思っています。我々が扱う和食の舞台は、素材の良さを最大限に活かす文化です。ここだけはこだわらずにいられない。問題は今の物価高騰をどこまで受け止められるか、ですね。価格改定をせずにこのままどこまで行けるか。また価格改定した際に、お客様が『値上げ』ととらえるのか『付加価値』と理解していただけるのか。これについては景況との連動性、兼ね合いも当然あります。物価だけでなく賃金がどこまで上がってくるのか。もちろん手作りの路線もそのまま変えません。
―― 今年6月に新社長に就任されましたが、就任されてから「ここを変えた」というようなところはありますか?
高頭社長 変化はしていかなければなりません。というのはコロナ禍を経て、人々の外食に対する考え方は180度変わりましたから。それ以前に、外食だけでなく生活のスタイルがガラッと変わり、それが定着してしまった。例えば、夜間に出歩かなくなりましたよね。飲みにいかなくなったとか、それ以前に出なくなった。以前は映画を見たいと思ったらレンタルDVDに走ったりしましたが、今はサブスクで、自宅にいながら完結します。働き方改革も相まって、人々は17時に仕事を終わったらまっすぐ帰宅して、その後に出歩かなくなりました。今は20時を過ぎたら街に人がほとんど歩いていない。里味も、以前は24時まで営業していた時もありましたが、今は21時30分(ラストオーダーは21時)までです。
回復基調へ→検証→進化
―― 新社長は、どんなお店作りを目指されるのですか
高頭社長 これも先代の頃の考え方そのものなのですが「地域に必要とされるお店」であり続けることです。味の面では素材、鮮度、手作りにこだわった本物の美味しさを追求し、飽きられずに長く愛される献立を。そして美味しいのはもちろん、楽しく食事をしていただきたいので、お店づくりも少しづつ時代に合わせていかなければならない。
プライバシー空間の確保に配慮したつくり。お座敷席を減らしてテーブル席の数を増やすなど、需要に即した変更もある。それらを、和の落ち着いた雰囲気を活かしつつ移行していく。
コロナ禍を経て、冠婚葬祭などは簡略化、宴会は減少の一途。人が集まるシチュエーションはかなり簡略化されました。時代に合わせて変えていかなければならない部分は変えていかなければ。私たちは食事だけでなく「場所」も提供しているのです。
―― 人手不足、最低賃金の引き上げなどで、外食産業ではますます少人化、DX化に着手する会社が増えています。半面で、これまでの接客サービスとは、どうしても質を変えてきますが、新社長はどのようにお考えですか
高頭社長 コロナ禍を経てダメージを負った部分が回復基調に乗ったらDXの導入はいち早く考えていかなければ。ただしこれも検証が必要になると思うのですよ。例えば配膳ロボットを導入するのは良いとしても、里味に来たお客様がそれを望まれているかどうかという点です。今までどおりの接客を変えないでほしい、という人もいるでしょう。一方で今は、若い世代などは人と人との接触を望まない傾向にあるので配膳ロボットの方が喜ばれるかもしれません。検証が必要ですね。
―― 今後の出店戦略ですが、現在の19店舗はすべて新潟県内です。県外進出のお気持ちは?
高頭社長 出店計画についても、あくまで回復基調に乗せてからの前提でお話しします。県外への出店は、考えないことはありません。県外のお客様に、里味が提供する新潟ならではの味を提供することは常に考えていたことです。県外に出店する場合、1店舗だけということはあり得ません。1店舗出る時点で、同時進行で周辺5店舗くらいは青写真がないといけません。あくまで効率視点で。出るとすれば関東。群馬県などは今のセントラルキッチンでも十分フォローできる。
県外と同時にドミナントも考えないわけではありませんが、これは果たしてどこまで追求すれば良いものか、と。
―― 経営者として指針とされている言葉はありますか?
高頭社長 「着眼大局、着手小局」という中国の思想家・荀子の言葉です。「木を見て森を見ず」にならないように、物事を広い視野で全体的にとらえる。まず全体を把握して、それを解決するには具体的にどのような行動をすればよいか、に落とし込むのです。一方で実践する際には目の前の具体的な作業や細かな部分にまで目を配り、着実に実行することを大切にしたいですね
―― 高頭社長が里味に一顧客として食事に行く際、いつも注文されるメニューはありますか?
高頭社長 これは「たれかつ丼そばセット」(税込1,815円)ですね。新潟ならでは、甘辛い醤油ダレにくぐらせたたれかつ丼、海藻をつなぎに使った独特の弾力とコシがあるふのりそばのセットですが、最も新潟らしさを実感できると思います
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新社長から「着眼大局、着手小局」の言葉が出た時、「なるほどなあ」と感心した。慎重派だが、手をこまねいているわけではなく、経営の全体像から検証し、判断するタイプなのだろう。
外食産業にとって、この5~6年はまさに激動の時代。「鉄壁」と思われた先代社長が作り上げた経営フォーマットは、それでも時代に即して微調整が求められる時が来るかもしれない。そうした時に経営の全体像から次なる一手を導き出す心得こそが要になるのではないか。







