【特集】日和山小学校養護教諭 上村優里華さん「子どもたちの笑顔が原動力」新潟青陵大学卒業生を追う

上村優里華さんは新潟市出身。新潟市立高志中等教育学校、新潟青陵大学看護学部看護学科卒業。現在は、新潟市立日和山小学校にて養護教諭として勤務

「どうしたの?」。保健室に駆け込んできた子どもの目線まで腰を落とし、優しく声をかける。手首を押さえて涙ぐむ子どもの表情を確かめながら「どこが痛い?」「曲げられる?」と丁寧に状態を確認していく。処置を終えると「頑張っている証拠だね」と励まし、「涙が止まってから給食に行く?」と子ども本人が決められるよう促す。

新潟市立日和山小学校で養護教諭として働く上村優里華さんの日常だ。上村さんは2019年に新潟青陵大学看護学部看護学科を卒業後、養護教諭として新潟市内の小中学校に勤務。子ども一人ひとりへの対応を大切にしながら、保健室を子どもたちの「心の拠り所」として支えている。

休み時間に足をくじいた子どもが来室。「こっちに曲げるとどう?」と丁寧に子どもに確認する上村さん

 

「個別性」を大切に、一人ひとりと向き合う日々

2014年に4校が統合された日和山小学校

上村さんの勤務する新潟市立日和山小学校があるのは、新潟市中央区の海に近い下町地区。2014年に豊照小学校、湊小学校、入船小学校、栄小学校の4校が統合して誕生した、新潟市内でも新しい小学校だ。各学年2〜3学級、全校362人で運営され、2024年には創立10周年を迎えた。

同校の養護教諭である上村さんは、以前は中学校に5年間勤務し、小学校での勤務は2年目を迎える。1日に保健室を訪れる児童数は10〜20人ほど。怪我や体調不良だけでなく、ちょっとした不安や心の悩みを抱えた子どもたちも多く来室する。朝、教室に行く前に立ち寄る子、授業中に「お腹が痛い」とやってくる子、子どもたちはさまざまな思いを抱えて保健室を訪れている。

午前中の早い時間は、各クラスの出席票を確認して回る。特定の感染症が出ていないかなどもチェック

「養護教諭の仕事は来室対応がメインですが、それ以外にも健康診断のデータ管理や感染症対策など、事務仕事も意外と多いんです」と書類を記入しながら語る上村さん。

取材に訪れた日も、上村さんは朝の登校後に来室した子どもの対応から、各教室を回っての出欠や健康チェック、これらを確認した後は書類の記入に提出と、保健室と職員室を行き来しながら慌ただしく業務をこなしていた。

出席票を確認した後は報告業務。保護者がシステムに入力した欠席・遅刻情報を、健康観察簿と照らし合わせて、把握漏れがないか確認する

数多くの業務で最優先するのは、やはり子どもの来室対応だ。上村さんは子どもがどんな表情で入ってきたかということから観察を始め、顔色、歩き方、声のトーンなど、子どもが感じている辛さと客観的な不調をすり合わせながら、必要な支援を見極めていく。

「『お腹が痛い』と言って来る子が3人いたとしても、原因はそれぞれ異なります。少し休んで体調が戻れる子もいれば、しっかり休養が必要な子もいる。実は悩みがあって、気持ちの部分が体調不良に現れている子もいます。毎回一人ひとりその子の様子を見て、会話をしながら、何が理由で今お腹が痛くなっているのかを考えるようにしています」

出席票を見て回っていると、子どもが次々に寄って来る。「全校の全員の名前ですか?ほぼ把握しています!」と上村さん。一人ひとりに向き合いたいという気持ちが伝わってくる

 

多様な時代を生きる、子どもたちの笑顔を守りたい

「子どもたちの笑顔が元気の源です」と語る上村さん。休み時間や授業中など、普段の子どもたちの様子にも目を配っている

日々の仕事のやりがいについて尋ねると、上村さんは迷わず答える。

「子どもたちの成長する姿を見られることです。子どもたちへの対応の基本は、なるべく本人に決めさせることを重視しています。例えば、『何分になったら教室に戻れそう?』と尋ね、子ども自身に答えてもらう。自分で決めて頑張ると言えた方が、その後も前向きになれると思うんです。そうやって悩みを抱えながら保健室に来ていた子たちが、教室で良い表情を見せていると、よかったなぁと思えます」

「努力家で優秀な先生。私たちも助けられていますし、先生方からの信頼も厚いですね」と諸橋智校長

上村さんの子どもへの対応は、同校の諸橋智校長や教諭からも定評がある。

「子どもたちの個性や背景を全て踏まえて、よく話を聞き出してくれる。一人ひとりをよく見て的確に対応してくれています。何かあった時でも状況を的確に把握し、子どもたちの気持ちを考えて、見通しを持って接している印象です」と語るのは、同校の諸橋校長だ。

完全に甘やかさないが、しっかりと受け止めるというバランスが絶妙で、機動力や判断力の高さも頼りになるという。7年目になる上村さん、これまで積み重ねてきた実践と経験がしっかりと裏打ちされているというわけだ。

「新潟市の養護教諭のリーダーとして活躍できる人材だと思っています。ただ、一つだけ言いたいのは、もう少し早く帰ってほしいかな(笑)。児童全員のデータを丁寧に見ているから、帰るのが遅くなってしまっているようです。学校としては大変ありがたいことですが、上村先生ご自身の体も大切にしてほしいですね」と諸橋校長は労った。

日和山小学校の保健室

 

幅広い実習を通して実践的に学べる新潟青陵大学看護学部へ

新潟市中央区にキャンパスがある新潟青陵大学

上村さんが養護教諭を目指したきっかけは、特別支援学級在籍の子と仲良くなった小学生時代に遡る。

「その子なりに頑張って成長していく姿がすごく素敵だなと思いました。子どもの成長を支える仕事がしたいと思うようになったのも、その子との出会いが転機になりました」

養護教諭を目指すにあたり、進学先の選択で悩んでいた高校3年生の時に、入学から卒業までお世話になった養護教諭の先生に相談。その際の「新潟で養護教諭になりたいのなら、実践的に学べる新潟青陵大学を絶対におすすめしたい」という言葉が、最終的な進学の決め手となった。

上村さんが、子ども一人ひとりの様子や考え方、性格といった「個別性」を意識する視点は、母校である新潟青陵大学時代の学びが土台になっている。

「大学ではその人なりの、その人にとって最適な看護や支援を考えることを学びました。例えば、同じ病気でもAさんとBさんでは全く違います。この視点を持つことは、今の仕事に直結する貴重な経験でした」

「養護教諭を目指す学生を全力で応援したい」と語る新潟青陵大学看護学部の塚原加寿子教授

そんな上村さんに大学時代、具体的な学びを教えてきたのが、上村さんの恩師である新潟青陵大学看護学部の塚原加寿子教授だ。

新潟青陵大学看護学部看護学科は、高い看護実践力を持った看護のエキスパートを養成し、全国トップクラスの資格養成数を誇る。全員が看護師資格の取得を目指し、その他、保健師資格、助産師資格、養護教諭一種免許状のいずれかの資格・免許とのタブルライセンス取得が可能。中でも養護教諭一種免許状は人数制限がなく、看護師免許と養護教諭免許の二つの資格取得を目指せることを強みとしている。

大学内の実習室を案内してくれた塚原教授。看護に関する設備が充実している点も、同大学の強みの一つ

3年生までの看護実習で看護実践能力を習得した後、3年生後期から養護教育を本格的に学ぶ。学生は小・中学校や特別支援学校、高校での実習も行い、学校現場での実践を通じて実践力を高めるカリキュラムが特徴だ。

設備面では、救急処置や健康相談の模擬実習が可能な機器や実習室が完備され、シミュレーションやデブリーフィングも充実。教員は養護教諭経験者と教員経験者で構成され、採用試験合格後も実践力を備えた人材育成に取り組んでいる。

寝室・居間・台所などの家庭環境や学校の保健室を再現した第2看護学実習室。ここで在宅での看護援助や養護教諭に必要な知識と技術を学ぶ

「上村さんは入学時から養護教諭になりたいという強い意志を持っていました。学習支援ボランティアにも積極的に参加し、熱心に学ぶ学生でしたね」と学生時代の上村さんの様子を振り返る。

2年時に歯科検診のボランティアに参加した際には、現場の養護教諭から「2年生とは思えないほど立派です」と評価されるなど、その頑張りがあらゆる方面で認知されていたという。

「子どものためにという思いが根本にある方です。ただし本人は謙虚で、「私なんか」と口にすることもありました。そのたびに私は『私なんかという言葉を使ってはいけません』と伝えてきました。何事にも熱心。仕事への情熱にあふれている人です」

新潟青陵大学時代の上村さん。大学でのさまざまな学びが、養護教諭の仕事に活きている

 

子どもたちの笑顔があるから、毎日頑張れる!

「なんかちょっとだるいの」と来室した低学年の子どもたち。検温をしながら、いつから具合が悪いかなど会話を通じて確認していく

日和山小学校保健室の窓からは、校庭で遊ぶ子どもたちの姿がよく見える。休み時間になれば、怪我や体調不良はなくとも、上村先生に会いたい一心で保健室にやって来る子どもたちもいる。保健室=怪我や病気の時に行く場所というイメージを払拭したいと、ぬいぐるみやユニークな骨格標本を持参し、少しでも子どもの不安な気持ちを和らげたいと、上村さんは日々励んでいる。

上村さんが子どもたちに健康や体に興味を持って欲しいと飾っている骨格標本やぬいぐるみ。子どもたちにも評判だ

「上村先生の好きなところ? いっぱいあるよ! えーっとね、優しいし、話を聞いてくれるし、かわいいでしょう!? みんな大好きなんだよ!」

保健室に訪れた6年生の女子が満面の笑みでそう答えてくれた。

「これから出会う子どもたちの力になりたいですし、いろいろなことがある時代だからこそ、子どもたちが毎日笑顔で過ごせる学校生活を支えていきたいです。私自身、子どもたちの笑顔があるから頑張れていますから」

子どもたちの笑顔を守るため、今日も一人ひとりに寄り添い続ける上村さん。その穏やかな笑顔の奥には、子どもたちへの深い愛情と強い使命感に満ちている。

 

(文・取材:野口彩)

 

【学校情報】

学校法人 新潟青陵学園 新潟青陵大学・新潟青陵大学短期大学部
住所:新潟市中央区水道町1丁目5939番地

新潟青陵大学・新潟青陵大学短期大学部 Webサイト

新潟青陵大学は2000年に開学し、新潟県初の看護、福祉、心理系の大学として1学部2学科を開設した。現在は看護学部看護学科と福祉心理子ども学部社会福祉学科・臨床心理学科・子ども発達学科の2学部4学科で構成されている。
毎年、卒業生の約80%が新潟県内に就職しており、新潟県の医療、福祉業界を支えている。
また、新潟青陵大学短期大学部も併設している。現在は人間総合学科と幼児教育学科の2分野を有し、新潟県の企業、保育業界への人材供給を担い続けている伝統校。

 

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