【梅川リポート20】糸魚川から全国へ 再生タイヤ技術で環境時代を牽引するトーヨーリトレッド株式会社(糸魚川市)

トーヨーリトレッド糸魚川工場の外観

地球温暖化やカーボンニュートラルへの関心が高まるなか、タイヤ再生技術で注目を集める企業がある。新潟県糸魚川市に本社を置くトーヨーリトレッド株式会社である。同社は、地元の株式会社髙瀬商会とタイヤメーカーのTOYO TIRE株式会社(大阪市)が出資し、1999年に設立された。リトレッド(更生)タイヤの製造を主力とし、全国に製品を供給している。

創業母体である髙瀬商会の歴史は古い。昭和6年(1931年)に創業し、昭和23年(1948年)には通産省の指定を受けて更生タイヤ事業を開始。戦後まもなくから再生タイヤの分野で全国的に知られる存在となった。その後、昭和28年には東洋タイヤの新潟県総代理店となり、昭和33年に株式会社化。さらに平成11年10月、リトレッド生産部門を分離し、トーヨーリトレッド株式会社として新たな一歩を踏み出した。

現在の工場は新潟県糸魚川市と北海道小樽市の2拠点。年間生産量は約15万本にのぼり、国内シェアの約12〜13%を占める。1工場あたりの規模では、業界トップクラスの規模を誇る。糸魚川工場は朝8時から深夜2時までの二交代制で稼働し、日々約500本を生産している。高い技術力が評価され、国内で唯一のミシュランタイヤのライセンシー工場として同社ブランドの更生タイヤを製造している点も特筆される。

トーヨーリトレッドの髙瀬昌洋代表取締役社長

リトレッドタイヤとは、使用済みタイヤの基礎部分(ケーシング)を再利用し、新しいトレッドゴムを加硫・加圧して再生する製品である。新品に比べて価格は6〜7割程度と安価で、資源の再利用・CO₂排出削減に寄与する。トラックやバスなど中低速走行の業務用車両を中心に利用されている。欧米では普及率が50%を超える一方、日本ではまだ20%程度にとどまる。髙瀬昌洋代表取締役社長は「日本でも今後10年で30%程度まで普及が進む」と見通す。背景には企業の環境意識の高まりがある。

同社の取引先はTOYO TIRE株式会社、トーヨータイヤジャパンなど。販売網は全国に広がり、物流倉庫を北海道、東北、中部、大阪、九州に配置している。運送会社やバス会社などを中心に、再生タイヤの「委託加工」も増加傾向にある。これは、企業が自社で使用したタイヤを同社に再生委託し、再利用する仕組みである。この取り組みにより、ドライバーがタイヤの空気圧や溝の残量を日常点検する習慣が根づき、安全運行への意識も高まったという。また、品質管理には徹底した姿勢を見せる。工場には内部欠陥を検知する「シアログラフィー検査機」を導入し、MRIのようにタイヤ内部を非破壊検査する。針穴程度の損傷を検出する装置も備え、入口検査から出荷まで複数段階のチェックを行う。こうした設備投資の継続が、国内外メーカーからの信頼につながっている。

さらに、労働環境の改善にも力を入れる。夏季には工場天井に通気孔を設け、地下水を利用した冷却システムを導入するなど、従業員の快適な職場づくりを推進。社員教育にも注力し、部署異動を通じたスキルアップ制度を導入している。髙瀬社長は「オールマイティーに動ける人材を育てることで、欠員対応にも強くなり、全体の総合力が上がる」と語る。現在、社員数は59名(2021年3月末時点)。平均年齢は41歳だが、近年は高校・大学卒の若手採用も進み、世代交代が進んでいる。2025年度には県内高校からの新卒採用も決定しており、「地域で育ち、地域で働く人材を増やしたい」と意気込みを見せる。

国内で唯一のミシュランタイヤのライセンシー工場として再生タイヤを製造

台タイヤにタイヤのゴムを巻き付ける作業

糸魚川工場の内部の様子

 

また、同社と髙瀬商会は昨年、新潟県の「ユースエール認定企業」に選ばれた。若者の採用・育成・定着に積極的に取り組む企業として国(厚生労働省)から認定を受けたもので、糸魚川地域では数少ない認定例である。髙瀬社長は「働く人が誇りを持てる会社でなければ人は集まらない。離職率を下げ、地域で長く働ける環境を整えることが何より重要」と強調する。

さらに、糸魚川商工会議所工業部会の部会長として、行政や教育関係者と連携し、中高生への企業見学や職業体験の拡充を提言している。社長は「製造業の現場には子どもたちが誇りを持てる仕事がある。それを伝えることが地元経済の土台を強くする」と語る。地域企業の魅力発信を行政・教育機関とともに推進している。

業界的にも、リトレッド技術を持つ企業は減少している。30年前には全国で120社あった構成タイヤメーカーは、現在では10数社にまで減った。理由は、タイヤの大型化・多様化に伴う設備投資負担の増大である。その中で、トーヨーリトレッドは継続的な投資を行い、生産体制と品質を両立してきた。結果、国内外メーカーからの委託製造や共同開発も増加している。

再生技術を支えるのは「人」である。髙瀬社長は「企業の三要素は人・物・金だが、最初に来るのは人だ」と語る。社員が誇りを持ち、やりがいを感じる職場でなければ、良い製品も生まれないという信念が同社の原動力だ。糸魚川から全国へ。同社の挑戦は、持続可能な未来を走り続けている。

 

【記者メモ】
同社では今後、トラック・バス用に加えて、タクシーや商用バンなどへの応用拡大を視野に入れる。また、再生が困難になった使用済みタイヤのゴムを再資源化する「再生ゴム事業」への展開も構想しており、グループ全体で“3R(リデュース・リユース・リサイクル)”の循環体制を確立する考えである。環境対応と地域貢献、そして人を育てる企業文化。トーヨーリトレッドは、再生の技術を通じて、地球にも地域にもやさしいものづくりを続けている。

 

(文・撮影 梅川康輝)

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