第11回 移動がつなぐ縁——外に出て見えた地域の可能性 (蔡紋如「MAHORA西野谷」代表)
11月は東京、そして台北へと足を運びました。新しい出会いもあれば、久しぶりの再会もあり、「人と人をつなぐのは、やはり“移動”だ」と強く感じた旅でした。
MAHORA西野谷をオープンして1年半。宿の運営や地域活動を続けるほど、時に「自分一人で大丈夫かな」と不安になることがあります。「もっと良くしたい」と思っても、同じ場所にとどまっているだけでは新しい発想が生まれにくい。そんなもやもやを抱えていました。
だからこそ、外へ出てさまざまな人と会うことは大きな意味を持ちます。東京では、市役所主催のイベントに参加し、関係人口を増やす取り組みの一環としてMAHORA西野谷を紹介しました。参加者は約10名。妙高を初めて知った方、実家が妙高という方、将来妙高で宿をやりたい方など、背景はさまざまです。
参加者の一人から「もっとこういうイベントを開いたほうがいい」と言われました。個人的な観察ですが、都会は人が多い一方で、所属やつながりを感じにくい面があります。だからこそ、地方に関心を持つ“入口”が少しでも生まれれば、地域は元気になると思います。
ふるさと納税も同じです。地域の物産を通してまず「知る」ことができ、そこから実際に足を運び土地の風土を感じてもらう。こうした入口づくりこそ、関係人口の第一歩だと思います。
先日は、地元の中学校で1年生に向けて仕事の話をする機会がありました。もっとも多かった質問は「仕事のやりがいは何ですか?」というもの。正直に言うと、私は普段の仕事で“やりがい”を意識することはほとんどありません。私にとって大切なのは、「それが楽しいかどうか」。自分が面白いと思うことを行動に移し続ける中で、人と出会い、場所とつながり、思いがけない“縁”が自然と生まれていきます。
こうした縁の広がりは、宿の仕事にも重なります。まず妙高を知らない方に地域へ関心を持ってもらい、実際に来て、体験してもらうこと。その時間を通して、人と地域のつながりが育まれていきます。宿としては、お客様が何を求めて妙高を訪れたのかを理解し、その時間を最大限満足していただくことが第一歩です。すべての方と長い関係を築くことは難しくても、その中の一組でも妙高を好きになってくれたら——その瞬間こそが、私にとって何よりの喜びです。
そんな中、先日は台湾からのお客様が2泊され、日本海までドライブを楽しんでいました。古民家や私たちの暮らしにも興味を持ち、「なぜここで暮らしているのか」と熱心に質問してくださいました。そのとき改めて気づいたのは、「自分たちのストーリーを伝えることの大切さ」です。自分にとって当たり前のことでも、他の人から見ると新鮮で魅力的に映るのです。妙高の豊かな自然も、時には“トトロの世界”のように感じられます。
地域に根を張りながら、ときどき外の風にあたる。移動を通して生まれる“縁”こそ、私にとっての原動力です。これからも妙高での暮らしを軸に、外の世界とのつながりを大切にしていきたいと思います。
台湾出身。2014年に結婚し、夫とともに妙高へ移住。独学で総合旅行業務取扱管理者の資格を取得し、妙高市観光協会に積極的にアプローチしてインバウンド専門員として採用される。主にアジアの華僑系顧客をターゲットにプロモーションを展開し、企画制作を担当。また、FacebookなどのSNSを活用して日本での生活をPRする活動も行う。コロナ禍で観光業が大きな打撃を受けたことで、地域のために何ができるのかという強い危機感を抱くようになる。2023年、農業と観光業を通じて地域を活性化することを目指し、合同会社穀宇を設立。2024年には京都大学経営管理大学院観光経営科学コースを卒業。同年4月に築120年の文化複合施設「MAHORA西野谷」を開業する。
【関連サイト】
移動縁が変える地域社会: 関係人口を超えて


