【梅川リポート21】「面倒なこと」を積み重ねる富裕層に届く提案力 若手経営者・布施常務が推進する差別化戦略(アスカ創建)

新潟県上越市に本社を置くアスカ創建

新潟県内工務店の中で、独自路線を鮮明にする企業がある。新潟県上越市に本社を置くアスカ創建である。1979年の創業以来、地域に密着した家づくりを掲げながら、近年は富裕層向け住宅分野で存在感を高めている。同社の成長を牽引するのは、布施景太常務取締役だ。30代前半という若さながら、新たな顧客層に向けた提案力とブランド価値の向上を担う立場にある。

同社は現在、社員約30人弱を擁し、年間約25棟を手掛ける。対応エリアは上越地域を中心に、妙高市や県内他地域にも及ぶ。顧客の年齢層は30~40代が厚く、経営者や医師など、高い住宅ニーズを持つ層からの受注も増えている。布施常務は「一般住宅会社が敬遠しがちな要望を、可能な限り形にすることが評価に繋がっている」と語る。

家具としてのキッチンオリジナル設計で差別化

家具としての存在感を持たせたデザインが特徴のキッチン

同社の象徴的な取り組みの一つが「オリジナルキッチン」の開発である。住宅設備メーカーの標準仕様ではなく、空間全体の一体感を追求し、家具としての存在感を持たせたデザインが特徴だ。住宅の中で、来訪者の目に最初に入るLDK空間の質を決める要素として、キッチンが果たす役割は大きい。

一般家庭向けの設備は、耐久性を優先した工業製品的な仕上げが多い。しかし布施常務は、海外住宅の視察を通じ、キッチンを「家具の延長」と捉える文化から着想を得たという。木質感のある素材を採用し、住空間に馴染む意匠性を重視した。これにより、「どれほど他の空間にこだわっても、キッチンだけ明らかに住宅設備として見えてしまう」という従来の課題を解消した。

キッチン開発には約2年を要した。デザインだけではない。水回り設備である以上、アフターサポートの体制まで整わなければ提供できない。製造会社の選定から、修繕対応の仕組みづくりまで、自社責任で行える状態に仕上げた。「既製品を選び、メーカー任せにするほうが簡単。本当に良い物を提供するには、手間を惜しまないことが不可欠だ」と布施常務は話す。価格面でも優位性がある。大手メーカーの最高グレード品と同等水準でありながら約半額に抑える提案が可能だ。高額住宅層の顧客からは、「この価格なら迷わない」と評価されているという。

「面倒なこと」を積み重ねる富裕層に届く提案力

同社が支持される背景には、標準化された設計・施工を採らず、施主ごとにゼロからプランニングする姿勢がある。間取りが同じでも、形状や仕上げ材の選択で原価が大きく変わる。多くの住宅会社はコスト管理が煩雑になることから、細かな変更を避ける傾向がある。しかしアスカ創建は最初から「面倒な依頼」を想定し、丁寧に対応する体制を整えてきた。「利益は最後。まずは満足を積み上げる」。布施常務は、経営効率より顧客ニーズの実現を優先する方針を明言する。その姿勢が口コミを呼び、富裕層顧客からの紹介に繋がっている。

社員の仕事に対する意欲も高い。設計・営業・インテリア担当者は、それぞれが自らの提案で満足を得ることを誇りとし、ワンパターンに陥らない環境がモチベーションを生む。布施常務は「面倒な仕事に挑戦できる会社で働きたい若手が集まっている」と説明する。

現場で磨く「目利き力」、国内外の高級邸宅を視察

経営効率より顧客ニーズの実現を優先する。その姿勢が口コミを呼び、富裕層顧客からの紹介に繋がっている。

提案の質を高める施策として、同社は社員を積極的に県内外へ派遣する。国内の高級住宅会社と連携し、引き渡し前の顧客邸宅を視察する機会を設けるなど、年間で数十件の建物を見学する。

こうした視察活動は、布施常務自身が築いた人脈によって成立している。建築トレンドを知るには、実際の空間に触れることが不可欠という考えからだ。過去にはオーストラリアで富裕層向けの高層マンションなどを視察。現地の実例と比較し、自社住宅の質に確信を深めたという。「世界の高級物件と比べても、内装のこだわりは遜色ない」と語る声には、経験に裏打ちされた手応えがある。「お客様より多くの建物を見ていなければ、提案に説得力は生まれない」。現場主義を徹底する同社の姿勢は、社員教育の根幹を成している。

動画が広げた顧客接点、ルームツアーで説得力を可視化

顧客接点の開拓にもデジタルを活用する。YouTubeで配信する完成住宅のルームツアー動画は、40分を超える長尺でも人気が高く、最多で10万回再生を記録した。モデルハウスでの見学は期間や場所が限られるが、動画なら過去の施工事例をいつでも確認できることが強みだ。

顧客は昼休みや家事の合間に視聴し、理解を深めた上で商談に臨む。結果として提案が具体的で、話が早い。「動画を見て来社した方は、すでに当社の家づくりの世界観を理解している」と布施常務は語る。

動画の構成は布施常務が企画し、外部編集者とともに仕上げる。「ただの物件映像では見てもらえない」。工夫を凝らしながら、視聴者の理解を促すコンテンツ作りに努めている。

 

【記者メモ】
決して、数を追う成長は考えていない。年間棟数を急拡大すれば品質や顧客対応力が損なわれかねないためだ。布施常務は「自分たちにしかできない住宅を一棟ずつ積み上げる」と語る。その視線の先には、地域社会全体の活性化がある。「社員もお客様のお子様も含めて、上越の若者に面白く楽しく働く大人の姿を見せたい」と語った。創業者である父が築いた地盤の上で、時代に合わせた価値提供を探求する。家具としてのキッチン、現場で磨かれた提案力、動画による発信力──三位一体の差別化戦略は、上越発の工務店を新たなステージへ押し上げつつある。アスカ創建の挑戦は続く。

新潟県内でモデル活動などを行う同社の布施景太常務取締役

 

(文・撮影 梅川康輝)

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