【単独インタビュー】就任したての廣田幹人新潟商工会議所会頭、「見える、繋がる、動く」地域経済へ

新潟商工会議所の新しい会頭に就任した廣田幹人氏(新潟綜合警備保障株式会社代表取締役社長)。今年10月に竣工した新社屋の前にて

商議所を「見える化」したい

2025年11月、新潟商工会議所に新時代のトップが誕生した。

新たに新潟商議所会頭に就任したのは新潟綜合警備保障株式会社の廣田幹人代表取締役社長。直近まで4期12年にわたって副会頭の立場で商議所を支え続けた。

新会頭の廣田氏には、これまで幾度か小紙の経営者インタビューに登場していただいた。担当記者の印象では「情熱と行動の人」だ。それはかつて、廃止が決まっていたANA新潟―福岡路線を、民間運動の先頭に立って復活に導いた実績にも表れている。「どこか」と「どこか」を結びつける、「どこか」と繋がりを生む旺盛な好奇心。それは単なる「手法」と呼ぶには収まらない。、体の内側から溢れる「人の熱」の交換だ。従来の新潟財界には少ないタイプの存在として、新たな動きをもたらす可能性がある。

12月8日、竣工したての新潟綜合警備保障本社に廣田会頭を訪ねた。

「見える、動く、繋がる商議所に」と廣田会頭

―― 長く副会頭も務めてこられましたが、会頭に就任して、あらためて新潟商議所に対して感じた印象はございますか?

廣田会頭 これは副会頭でいた時から感じていたことなのですが、(新潟商議所の)スタッフの知見とネットワークの広さには、あらためて驚かされますね。皆さん非常に高い能力をお持ちです。県、各地の商議所、地場の企業・経済団体など数多と繋がりを持っておられる。それでいて勉強熱心。こういう部分は是非これからも深めていただきたい。

―― 一方で「こんな商議所にしたい」という希望もあるのでは?

廣田会頭 いろいろな面で蓄積の多い商議所ですが、どちらかと言えばこれまでは「外に出ていく」ということが少なく、万代島のヘッドクォーターに閉じこもりがちになっていた印象もあり、市民や一般の会員にとっては少し距離を感じる機関に映ったかもしれません。商議所が「何をやっているのか」がもっと見えて欲しいと思っています。私自身がその一助になりたい。

―― 昔の商議所は「金融支援」が主な役割でしたが、近年は多様で複雑な経営課題に対応する総合的な経営支援や、地域経済の活性化を目的とした取り組みへとシフトしています。そのような変容の中で、「新しい商議所像」をどのようにとらえていらっしゃいますか

廣田会頭 新潟商議所の会頭はこれまでの慣例で新潟県商工会連合会の会頭も兼務します。これは何も新潟県の経済のトップが新潟商議所の会頭だというわけではなく、あくまで「議長」的な意味合いです。

ご多分に漏れず、地方の各都市は人口減による経済・市場規模の縮小傾向が避けられません。必然、これまで各々のエリアで完結できたことができなくなることも多い。それなら各商議所が様々な形で連携していくことがますます必要になります。今までの視点視野に加えて、若者や地域の意見も踏まえながら伝統と新しいものの融合でシナジーを生んでいかなければ。それぞれが地域の大名跡の方ばかりで、昨日今日の団体ではないので、そのあたりの突破力はお持ちのはずです。

新潟商議所が入居する万代島ビルディング

地方と地方による地方創生を

―― 新潟市の経済に話を向けたいと思います。全国の政令市の中でも新潟市は「都市力指標」において下位に甘んじているのが現状。若い世代を中心とした首都圏への人口流出も深刻です。いろいろな意味で「選ばれる新潟」になるために必要なものは何だと感じますか?

廣田会頭 おっしゃるとおり、都市力指標は国内政令市の中でも低迷していますよね。現状は財務力が大きく影響しているように見えます。人口も県全体で毎年2万人が流出している計算です。かつては人口250万人を標榜していたのですが、今や約219万人になりました。一方で生産力は高いものがあります。「つくる力」「売る潜在力」はあるのですよ。まだまだ活かせると思います。まだ見せていない手札もたくさんあります。

ひとつカギとなるのは「新潟の人は地元への愛着心が強い」という点だと思っています。これまでの新潟人の良くないクセとして、どうしても「東京を見てしまう」「東京に引っ張られてしまう」という東京追随型のマインドがあります。これには首都圏とのアクセスの良さ、距離の近さが多分に影響していると感じます。新潟の良さを、時間をかけて重層的に若い世代に植え付けていくことが大切。そのために継続的に情報発信をして、進学などの理由でいったんは新潟を離れた若者が、回帰を選択できるような環境を作っていく必要があるでしょう。人生をロングレンジで見た時の暮らしやすさ、安心はわかってもらえると思います。民間だけでは難しいのなら、行政とも連携をもって発信していきたい。

―― 今ほど「東京追随型のマインド」の話が出ましたが、廣田会頭がかつて尽力された新潟―福岡間の交流のように、地方都市同士の交流促進の方がシナジーを生みやすいのでは

廣田会頭 そのとおりです。実は既に動き出しています。東北との結びつきです。新潟は「東北経済連合会」(東北6県+新潟県)の一員でもあるので、会頭になってすぐに東経連の増子次郎会長(東北電力前会長)に挨拶に行きました。人口流出によりマーケットがシュリンクしているのは仙台も同じように深刻な状況を抱えています。だからこそ交流を深め、人と人の行き来を盛んにする必要がある。私はね、敢えて「東北越」という呼称を広めたいと思っているのですよ。地方同士が経済交流を深めるには「共有するストーリーを探す」ことがカギ。それも「経済原理」以外のところで。東北との交流を皮切りに、新潟と北陸(富山、石川、福井)などともどんどんつながりを求めたい。今までの「地方創生」は、東京と地方の関係性の上にありました。これからは地方と地方による地方創生が大事だと思います。

新潟経済の勃興は「地元愛」と「地方同士の交流」にかかっているか

動ける新潟商議所へ

―― 前任の福田勝之会頭からは、就任時に何か託された言葉はありましたか

廣田会頭 前会頭からは「廣田君はフットワークが軽いのが良い」と褒めていただいたうえで「あまり臆せず、廣田君らしいやり方で」と言っていただきました。お言葉通り、どんどん外に出て行って、いろいろな地域と話をしたいと思っています。

―― 就任1年目に目指すところは?

廣田会頭 すぐには形にならないので、時間をかけて取り組むためにも、まずは積極的に動こうと。多くの地域の商議所に挨拶して、シナジーにつながる物語を見つけていきたい。まずは「会う」そして「意見を交換する」ことをやっていきたい。

※       ※       ※

廣田会頭は自ら出向いて行って福岡県の人たちとの交流をつくってきた人だ。その「自ら出かけて行って」という姿勢が相手に認められて、新潟人としてはおそらく初であろう、博多山笠の「台乗り(だいあがり)」を許された。また家系や、ビジネスで全くと言ってよいほど関係性のなかった柳川市の観光大使にも選ばれている。新潟財界を見渡しても、「他者との交流の構築」この点で廣田氏ほどの人物は見当たらない。

閉塞感が漂う近年の新潟経済にあって、こういう行動派のリーダーが風穴を開けてくれる、そんな期待感にあふれる。

(編集部 伊藤 直樹)

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