【世界のAIRMAN】佐藤豪一社長(兼ヒーロー)に訊く「製造業におけるリブランディング」その真意

株式会社AIRMANの佐藤豪一代表取締役社長

海外では以前から「AIRMAN」がおなじみ

2025年4月に、北越工業株式会社(燕市)は「株式会社AIRMAN(エアマン)」へと社名変更した。

日中戦争のさ中、国家総動員法が制定された1938年から80年以上の歴史を刻んだグローバル企業の社名は大きく重く、さらにはエアコンプレッサや発電機といった、いわゆるBtoB製造業という市場は“硬質”なイメージがある。敢えて社名をがらりと変えてリブランディングする、その真意はどこにあったのか。

株式会社AIRMAN本社(新潟県燕市)

AIRMANの本社を訪ね、佐藤豪一代表取締役社長にインタビューに応えてもらった。佐藤社長自身も2024年2月に同社の代表取締役に就任してまだ2年経っていない。祖父の佐藤五郎氏は北越工業5代目社長で、現在の経営の礎を築いた中興の祖と言われる人物。テレビCMでは架空のヒーロー「AIRMAN(エアマン)」として登場し、今やお茶の間にも知られる顔となった。

―― 率直にうかがいます。北越工業からAIRMANへの社名変更は、発端はどこからなのですか

佐藤社長 私はこの会社に入社する前、3年ほど取引先の企業で修業していたのですが、そのころから「社名が変わった方が良い」と思っていました。「AIRMAN(エアマン)」というブランド名は祖父が考えたものですが、海外ではエアマンと呼ばれることが圧倒的に多いのです。

もちろん、ここまでの歴史を刻んできた会社なので「北越工業」という社名は大切に思っています。一方で海外の市場を意識した時に、こちらの方が通りが良いのです。

―― これだけ歴史がある企業、しかもBtoBの取引が100%に近い製造業にあって、敢えてリブランディングに踏み切ろうという発想にはなりにくい。社名が変わって「失ったもの」「新しく得たもの」について教えてください

佐藤社長 社名を変えようという当初は、私も「大変だろうな」と思いましたね。ところが意に反して皆で「変えようよ」という雰囲気になりました。不思議なものです。

「失ったもの」はありません。やはり先輩たちが築いてきた北越工業の歴史と、その企業の社員であるという気概は脈々と残りますから。「新しく得たもの」ばかりですね。会社の勢いは増しているように感じるし、直近の業績にも反映されていると思います。「新しいスタート」というモチベーションが社員にはあるでしょうし、持ち続けて欲しい。

「風通しの良い会社であればこそ、新たな気づきが生まれる」と佐藤社長

―― 県営スケートパークのネーミングライツや社長ご自身がテレビCMに出演されるなど、近年は企業の発信、広報を強化されています。BtoBの製造業が一般に向けて積極的に企業イメージを発信していく(どんな会社か知ってもらう)ことの反応、手ごたえはここまでいかがですか

佐藤社長 おおむね良好ですよ。やはり「認識される有難さ」はありますよ。何をしている会社なのか、どんな雰囲気の会社なのかを知ってもらうことで、ひいては採用活動などにもつながって欲しいと思います。

CMのストーリーは、いつもぎりぎりまで教えてもらえなくて(笑)最初は「何をやらされるのか」と戸惑いましたが…

「空気づくり」が会社の根幹

―― 社長に就任されて、積極的に「変えていこう」と思ったことはありましたか

佐藤社長 トップダウンとボトムアップが、バランスよく融合した会社を目指したので、まずは「風通しの良い会社の雰囲気」を作ろうと。空気を作る会社だけに、まずは社員が何でも言える「空気づくり」から(笑)。自分たちがやりたいことを口に出しやすい雰囲気にしていこうと思いました。

経営側は常に多角的・多面的な視点を持っていたい。新しい価値を生むのは若い人のアイデアからなので、どんどん吸い上げたいと考えました。そうすることで、経営側が気付かなかった新たな発想や視点を得ることができます。特に製造業は、世代や部署が違うと隔たりがあるものなので、意識的にこちらから声をかけるようにして。

―― 次世代のリーダーたちに向けて一言

佐藤社長 愉しんで挑戦していって欲しい。我々にはないアイデアを持っているのだから、どんどん。提案されたものは会社で共有していく、そうすればやりがいにもつながるでしょう。ひとりひとりがAIRMANです(笑)。

社員食堂の入り口ではヒーローがお出迎え

未来はすぐそこまで

―― 海外ビジネスの構成比が大きい会社です。円安進行はかなり追い風なのでは

佐藤社長 そうですね。当社の海外比率は45~46%ありますから、現段階では追い風ではあります。収益性が向上し、価格競争にも優位性が出ます。ただ、今は良いが、円高にシフトすることも当然想定していなければならない。ドル建ての債権が増えれば評価損が出ますから、しっかりリスク対策していかなければならない。

また海外戦略に関しては為替の動向以外にも地政学的な要素も大きい。常にアンテナを張り巡らせて、世界市場に注視しながらの成長戦略が必要です。未来永劫変わらないわけはありませんから。

―― 海外戦略において、特に注力していきたいエリアはどこですか

佐藤社長 北米は今最も伸ばしているエリアですが、トランプ大統領による関税引き上げもあって今後は不透明な部分もあります。世界中にAIRMAN製品を届けたい我々にとっては“一本足打法”ではいけませんから。むしろ今こそ、もともと持っていたアジアのシェアを、さらに拡大することは考えていきたい。

世界の「空気を作る」技術がここで生まれる

―― 御社のコアコンピタンスである「空気を作る技術」は今後どのように進化していくのでしょうか

佐藤社長 「省エネ」「脱炭素」という二つのグローバルな課題は避けて通れないでしょう。省エネには昔から取り組んでいますが、脱炭素という新しくて大きなテーマが加わってきている。環境負荷を低減しながら高効率な製品を生み出して行かなければなりません。

圧縮空気を作り出すコンプレッサーに関しては、技術的には既に行きつくところまで来ています。環境負荷を抑えて、どう機械を回すか。そうなるとやはり注目されるのは水素エネルギーによる動力です。まだ規制が厳しい面もあり、コストが現実的にならないと日本では実用化にこぎつけるまで時間を要するでしょうが、水素社会が来てから準備するのではもう遅い。

当社でも水素の専用実験室は建てています。これが有るのと無いのとでは、メーカーの向き合い方も格段に変わってくるので。水素動力によるコンプレッサ、発電機、またエンジンとモーターのハイブリッド、これらが生まれるシーズは既にあります。

加えて環境負荷の低いバイオ燃料による動力も視野に。ハイブリッドも含めて研究開発を進めています。バイオ燃料の確保さえできれば、こちらの方が早いかもしれません。

無理を言って、ヒーローに変身していただきました(感謝)

―― 世界市場においてAIRMANは、今後どのような存在感を持っていたいですか

佐藤社長 (少し考えて)「面白い存在感」「面白いメーカー」でありたいですかね。「面白い」というのは日本語だといろいろな意味を含みます。英語で言うfuny、Interestingだけでなく、excitingやAmazingなども「面白い」のうちですよね。いろいろな意味でインパクトのあるメーカーに。「奇抜」になってはいけない?そんなことないでしょう。時には「奇抜」もまた結構じゃないですか。

(聞き手:編集部 伊藤直樹)

 

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