【梅川リポート24】「包丁を扱うファストフード」 凡事徹底で選ばれ続けるモスバーガーの現場力

モスバーガーのハンバーガー

新潟県上越市および妙高市に展開するモスバーガーの店舗が、外食市場全体が物価高や人口減少の影響を受ける中で、客数・売上ともに堅調な推移を示している。背景にあるのは、競合との価格競争や派手な販促ではなく、創業以来変わらぬ「現場力」と品質重視の経営姿勢である。

上越エリアには現在、モスバーガーが2店舗存在する。いずれもドライブスルーを備え、車社会である地域特性と親和性が高い。取材に応じたフランチャイズオーナーの福崎義則有限会社代表取締役は、松屋や吉野家、ラーメン店などを含む外食全般を競合として意識することはほとんどないと語る。「他社を意識して戦略を立てることはない。自分たちの店を磨き上げることだけを考えてきた」と述べ、競争軸を外部に置かない姿勢を明確にした。

その考え方を象徴するのが、モス独自の「HDC」である。Hospitality(接遇)、Delicious(おいしさ)、Cleanliness(清潔さ)の頭文字を取った合言葉で、HDCは1982年から全店舗で徹底されてきた。売上高や店舗数ではなく、HDCの達成度を評価軸とする点が特徴で、本部による定期的な巡回や表彰制度を通じて、店舗運営の質を高めてきたという。

上越エリアの店舗でも、このHDCを最重要指標としている。福崎オーナーは「売上は結果であって目的ではない。きれいで、おいしく、気持ちの良い店を作れば、売上は後から必ず付いてくる」と語る。実際、コロナ禍以降も客数は増加傾向にあり、値上げによる客単価上昇と相まって売上は伸長しているという。

モスバーガー上越高田店

モスバーガー直江津店

注目されるのは、ファストフードでありながら「包丁」が存在する点である。店舗ではレタスやトマトを丸の状態から仕込み、必要な分をその場でカットして使用している。工場でカットされた食材を組み立てるだけの業態が多い中、店舗内で下処理を行う工程は珍しい。株式会社モスフードサービスFC事業本部の田口輝人チーフスーパーバイザーは「仕込みという前段階があることで、野菜の鮮度や食感を保てる」と説明し、これが他社との差別化ポイントの一つになっていると語った。

原材料へのこだわりも一貫している。生野菜は契約農家から調達し、本部の厳しい基準のもとで管理されている。地域によっては、生産地での収穫体験などを通じて、オーナーやスタッフが生産現場を理解する取り組みも行われている。こうした活動は、店舗での商品提供や接客に反映され、付加価値として顧客に伝えられている。

フランチャイズ運営の在り方も、モスの特徴の一つである。モスバーガーには、本部と加盟店、加盟店同士を結ぶ「モスバーガー共栄会」が存在する。本部主導型のフランチャイズに加え、加盟店同士の横の連携を重視する独自の仕組みで、1980年に発足した。全国20支部に分かれ、情報共有や相互啓発、地域貢献活動を進めている。

共栄会は、HDC教育委員会やキャンペーン推進委員会を設置し、成功事例の共有や顧客満足度調査の活用、全国共通キャンペーンの推進などを担っている。加盟店は対等な立場で意見を交わし、チェーン全体の価値向上を目指す。福崎オーナーは「本部と加盟店が一体となっている感覚が強い。人と人とのつながりが、50年以上続く理由だ」と語った。

物価高の影響については、「外食全体の価格が上がり、相対的な価格差が縮まったことで、同じ金額を払うなら質の高いものを選ぶという消費者が増えた」(福崎オーナー)との見方を示した。実際、既存店ベースでの客数が前年比プラスを維持している点は、飲食業界では評価される指標である。

出店戦略については慎重な姿勢を崩さない。上越エリアでの追加出店は、商圏や人口動態を踏まえると容易ではないとし、無理な拡大よりも既存店の価値向上を優先する考えを示した。一方で、観光地やリゾートエリアについては、条件次第で検討の余地があるとの認識も示されたが、いずれも本部主導で判断される事項であるとしている。

華やかな戦略や短期的な成果を追わず、現場の積み重ねを最優先する姿勢は、個人経営の飲食店が苦戦する中で、チェーン店が安定した成長を続ける要因とも重なる。福崎オーナーは「努力を続ける仕組みがあるかどうかが、差になる」と語り、フランチャイズという枠組みが現場力を支えていると強調した。

モスバーガーの店舗は47都道府県すべてにあり、新潟県内では21店舗、全国では1,309店舗ある(2025年12月31日現在)。

有限会社フクザキの福崎義則代表取締役社長

【記者メモ】
包丁を握り、野菜を仕込み、接客と清掃を徹底する。その地道な日常が、上越という地方都市でモスバーガーが選ばれ続ける理由である。派手な競争を避け、「凡事徹底の当たり前」を磨き続ける経営の姿が、いまの消費者の支持を集めている。

(取材・文 梅川康輝)

 

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