【特集】岩塚製菓の「日本のお米100%」の美味しさと安心を多くの人へ届ける、新潟薬科大学卒業生・庭山愛さん

岩塚製菓品質保証部の庭山愛さん
米菓大手・岩塚製菓株式会社(新潟県長岡市)の工場内──海外へも輸出される「おかき」がラインを流れていく。その様子を静かに見つめているのが、同社品質保証部の庭山愛さんだ。
庭山さんは2023年に新潟薬科大学(新潟市秋葉区)応用生命科学部を卒業し、岩塚製菓へ入社。「おかき」や「せんべい」といった日本を代表する菓子を国産米100%で作る同社の、安全と安心を支えている。
食べる人に安心と美味しさを

相談者から送られてきた商品を調べる庭山さん
品質保証部は読んで字の通り、同社製品の品質を保証する部署だ。しかし「安全・安心」を確立するには、工場内の設備の確認から、消費者からの相談対応まで、様々な業務をこなさなければならない。
工場内で工程や設備の変更があれば、その影響が品質に及んでいないか現場で確認し、必要があれば改善点を探る。さらに、消費者から寄せられる「味が少し違う」「黒い点が付いている」といった商品へのお問い合わせ対応も重要な仕事。送られてきた現品を自ら調べ、必要があれば原因を工場に調査依頼し、さらにその結果を報告するまでが庭山さんの役割だ。
「品質を安定させるよう生産しているのですが、いつもと少し違うように感じられるお客様もいます。また、焦げがついてしまうことを不安に思いお問い合わせいただくお客様もいます」マイクロスコープで商品の状態を確認しながら、庭山さんは解説する。目視だけではなく、実際に食べて食味や固さを確認することもある。「味」という主観に関する部分だが、サンプルと食べ比べることで品質基準を満たしているかを調べている。
また、調査結果もただ伝えるだけではない。重要なのは顧客に安心してもらうことだ。「工場の機械や工程の名前など、難しい言葉がたくさんあります。それをどうしたら分かりやすくお客様に伝えられるか、ということも大切にしています」と庭山さんは語る。

「品質保証部の仕事は縁の下の力持ちで、『できて当たり前』を地道にやる仕事です」と話す品質保証部の渡辺奈津子係長。だからこそ、品質保証部に重要なのは、自社の商品でも「疑いの目を持って確認していくこと」だという
もう一つ、庭山さんは「様々な視点を持つこと」も大事にしている。「自分の目やイメージだけだと、注意しきれないところもあります。先輩や工場スタッフの職員の話を聞いて、仕様変更の目的や実際に作業している人の感覚などを取り入れつつチェックをしています」(庭山さん)。
品質保証部の渡辺奈津子係長はそんな様子を見守りながら「品質保証部は年齢層が高くて、(庭山さんは)お父さんお母さんぐらいの世代の方と仕事をしています」と話す。しかし、「そういった中でも意見やアドバイスを受け入れ、自分のものにしているところがとてもすごいなと感じています」という。
庭山さんも部署に配属された当初は、なかなか自分の意見が言えない様子だった。しかし、「最近は工場や品質管理部門とのやりとりにも積極性が出始めている」と渡辺係長は部署内一番の若手の成長を嬉しそうに語る。
家族に教えてもらった「食の楽しさ」と将来の夢

商品だけでなく、工場内の確認も行う
庭山さんは新潟市の出身。彼女が食品関連の道を選んだ原点は、「食べることが好き」という素直な思いだ。父は食品卸の営業職、母も青果関係の企業で働いており、楽しみは父が時折持ってきてくれる名産品や珍しい食材だった。そして、将来を考え始めたきっかけも父の言葉だったという。「父が『全国の美味しい物を、色々な人へ届けたい』と言っていました。自分も自然と、美味しいものを作るところで働きたいと思い始めました」(庭山さん)。
高校では理数系のコースを選び食品系の仕事を目指して勉強をするなか、出会ったのが新潟薬科大学だった。オープンキャンパスで訪れた際、対応してくれた先輩たちの雰囲気にも惹かれ、進学を決めた。
新潟薬科大学はその名称から特に薬学部を中心とした医療系学科の印象が強いが、庭山さんは同大学「応用生命科学部」の出身。同学部は食品や農業、環境、バイオ分野などを社会に役立つ形で「応用」することを目指した研究を軸に据えている。

新潟薬科大学
大学時代、最も印象的だったのは班でパンやゼリーを作る実験。「自分の班で好みに合わせて試行錯誤したり、ほかの班と食べ比べて評価したり、みんなでコミュニケーションを取りながら作るのは楽しかったですね」と庭山さん。
一方で、実験機器の操作や食中毒、HACCP(危害要因分析重要管理点)の授業は直接現在の仕事に繋がっている。「手を洗う実験がありました。自分の手を洗って、それに光を当ててどれだけ洗えているか、まだ汚いのかを見るものです。自分が普段やっている洗い方と推奨されている洗い方を比べて、菌を持ち込まない安全性を学びました」(庭山さん)。また、例題から工場内の危険性を予測してリスク管理を行う授業もあった。

品質の確認のため、マイクロスコープなどの使用は必須だ。庭山さんは大学での経験があったため「そういったところの飲み込みが早く、すぐ戦力になった」と渡辺係長は振り返る(写真はマイクロスコープを使う庭山さん)

庭山さんは応用生命科学部の授業のかたわら、理科の教員免許も取得。教職課程では物理も修めなければいけないが、「生物・化学を中心に勉強してきたので、物理は苦手でした」と苦笑い
社会での実践を重視して──新潟薬科大学

新潟薬科大学応用生命科学部の松本均教授
「庭山さんは何か食べると、よく『美味しい』と言う学生でした」そう言って笑うのは、新潟薬科大学応用生命科学部の松本均教授だ。松本教授は大手菓子メーカーで長年商品開発の現場に立ち、現在はその経験を活かしながら後進を育成している。「私は新しい商品が出るとよく買ってきて、学生たちとみんなで食べています。そうすると色々なアイデアも出ますし、食品の世界は食べて経験するのが一番記憶に残りますからね。庭山さんは、本当に食への興味は強いほうでした」。
松本教授によると、同学部の約8割が県内からの進学者で、卒業後も6割から7割程度が県内の食品や農業関連の企業へ就職する。「もちろん、在学中に進路を決める人や、やりたいことが変わっていく人も珍しくありませんが、最初から食品会社に就職することを目指して入学する人が多いんですよね。今どきの高校生がそんなに将来のこと考えているのかと、いい意味で予想外でした」(松本教授)。

庭山さんが印象に残ったと語るパンやゼリーなどを作る実験だが、松本教授は「パンは酵母を使ってパンの膨らませ方や、きめ細やかさを見ています。ゼリーに関しては、増粘多糖類が色々あって、それを使い分けて様々な商品を作っています。実験ではそれを実際に確認しながら、学生たちに工夫をしてもらう。言われたことをただそのままやるのではなく、自分たちで工夫してもらわないと学びが積極的にできない。そういった自発性のようなものを実験で養っています」と解説する
また、新潟薬科大学は他大学と比べ、学際的な学びよりも将来の仕事へ向けて実践・実学を重視している部分が強い。専門家を養成している薬学部や看護学部などはその好例だ。そして、応用生命科学部もその影響が強い。授業と実験で実践的な知識をつけるだけでなく、特に理系の分野は定例の朝礼や書類での実験結果の提出・報告など、会社に近い形式で授業が進む。「私たちも会社的にやっています。そうすると、学生が社会に出てからも違和感なく毎日を過ごせると思います」と松本教授は話す。
応用生命科学部のもう一つの特徴が、企業や自治体との共同プロジェクトだ。商品開発の前段階となる基礎研究が主で、松本教授によると、「商品がすぐ劣化してしまうから何かいい方法はないか?」「この成分の分析方法は?」「食品の機能性について調べて、証明してほしい」など企業からの困りごとを解決することが多いという。

新潟薬科大学は2027年、「新潟科学大学」へ名称を変更する。「自分が高校生の頃も薬学部のイメージが強かったので、それが変わることで『どんな大学なんだろう』とより興味が湧いたり、『ちょっと調べてみようかな』と思うきっかけになったりすると思います。色々な人がこの大学を知るきっかけになれば」と庭山さんも期待する
「日本のお米100%」の味を多くの人へ

岩塚製菓へ入社した理由は、「日本のお米100%」だったと話す庭山さん
卒業後、庭山さんは岩塚製菓へ入社。就職の決め手は同社が掲げる「日本のお米100%」。「新潟はせっかく美味しいものがたくさんある県なので、県内で食品の企業を調べていました。そこで岩塚製菓の『日本のお米100%』という部分が目を惹きました。やっぱり、美味しいものを届けたいという思いが根本にあるので、食材にこだわっている岩塚製菓は魅力的でした」と庭山さんは笑みを浮かべる。そして半年間の工場勤務で現場を経験してから、現在の部署へ配属された。
庭山さんを支えているのは、やはり顧客からの「声」。「お客様からのアンケートで、『分かりやすかった』『安心できた』というお言葉をいただくと、ちゃんとお伝えすることができてよかったと思います。そして、また商品を買っていただけるのかもと思えることがやりがいです」。
まだまだ駆け出しの庭山さん。「今は、確認することで精一杯」だと謙遜気味。しかし、これから知識や経験を積みながら現場や部内で「もっとこうしたらいいんじゃないか、と提案していけたらと思っています。そして、それが一つの工場だけでなく、色々なところにつなげていけたら」。そう、力強く語り、真摯に「美味しさ」と「安全」に日々向き合う。こうした努力の積み重ねで、全国の食卓に「安全・安心」な米菓を届けている。
(文・取材:鈴木琢真)
(ディレクター:石橋未来)
【学校情報】

住所:新潟市秋葉区東島265番地1
新潟薬科大学は、1977年に新潟県で最初の4年制私立大学として、薬学部を開学した。現在は、薬学部、応用生命科学部、医療技術学部、看護学部の4学部5学科で構成される「医療・健康系総合大学」として発展を続けている。
特に、県内で唯一の薬学部を有する大学として、地域医療に貢献できる薬剤師を育成しているほか、2023年には医療技術学部、看護学部を開設し、多職種連携教育を推進。健康社会の実現に向け、医療・健康・科学技術分野で活躍する人材を地域に送り出している。
さらに、2027年には4学部7学科体制の総合大学への移行を目指し、教育・研究・社会貢献を推進していく予定である。
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