【特集】無視できない「健康経営」、企業はまず何をすればいい? 県内の健康経営トップランナー5社で座談会、きっかけから取り組みまでを語る(前編)

左から、新宣取締役社長・丸山慶之氏、高舘組取締役 ソリューション事業部部長・髙舘陽子氏、北陸保全工業総括代表・青池仁氏、大島電気顧問・富井修司氏、越佐ロード取締役常務・深井実穂子氏、アイセック代表取締役CEO・木村大地氏
新潟県は、健康経営に力を入れる県内企業を「にいがた健康経営推進企業」として登録している。この中でも積極的に活動している企業を「マスター」として認定しているが、さらに毎年秋には「マスター」の中でも顕著な成果をあげた数社を選定して表彰している。
今回は、2025年秋にこの狭き門をくぐり抜け表彰を受けた5社による座談会を開催。県内企業の健康経営をサポートする株式会社アイセックの木村大地代表取締役CEOをモデレーターに、各社の取り組みやきっかけを語った。
【座談会参加者】
北陸保全工業株式会社(新潟市・にいがた健康経営推進企業表彰「知事賞」):総括代表・青池仁氏
株式会社高舘組(上越市・同「グッド!スポーツカンパニー賞」):取締役 ソリューション事業部部長・髙舘陽子氏
大島電気株式会社(十日町市・同「奨励賞」):顧問・富井修司氏
株式会社新宣(新潟市・同「奨励賞」):取締役社長・丸山慶之氏
株式会社越佐ロード(佐渡市・同「奨励賞」):取締役常務・深井実穂子氏
新潟綜合警備保障株式会社(新潟市・同「奨励賞」)は、都合により欠席
【北陸保全工業】健康経営のスケジュールは「短期」と「中長期」に分けて

「従業員が元気に働いてるほうが、会社も健康でいられる」と話す北陸保全工業の青池仁氏
アイセック・木村:
にいがた県健康経営推進企業表彰で表彰された企業の取り組みを、県民と県内企業に周知していきたいと考え、今日は皆さんが情報共有する場を作らせていただきました。参加された企業の皆さまには取り組みをお話しいただくとともに、皆さま自身も新たな発見や気づきも得られる場になればと思います。
順番にそれぞれの取り組みをお話いただき、そのあと、参加者同士でそれぞれ疑問や参考になった点を踏まえて意見交換を予定しています。
では、北陸保全工業株式会社の青池仁様から、よろしくお願いします。
北陸保全工業・青池:
弊社では5年ほど前に健康宣言をしました。当時は新型コロナウィルス感染症の全盛期で皆さん萎縮している中だったこと、また、会社自体も現場に出る仕事が多いことが理由です。転倒などの事故で仕事ができなくなると社員も困るし、会社も利益が減ってしまいます。そうした点を打開したいと思ったのがきっかけです。
最初の頃、他社の取り組み事例を見て事務局を立ち上げました。しかし、闇雲に取り組んでも進まないので、「整える、防ぐ、守る」という3本の柱を基軸として設定しました。
「整える」は「体調を整える」など、様々なものを整えることを考える項目です。「防ぐ」は、けがなどを未然に防ぐための会社の取り組み。「守る」は保険や様々な補助であり、会社としてはちゃんとあなた(社員)を守ってるんですよ、という点。この3軸から枝分かれさせていく形で具体的な取り組みを考えてきました。
2年ほど前からは、月ごとの行事や取り組みなどをまとめた年間スケジュールを作って社員に周知しています。

北陸保全工業のスケジュール表
アイセック・木村:
国や県も健康経営の推進においては「PDCAをちゃんと回しましょう」と推奨している中、しっかり計画を立てて取り組んでいるところが素晴らしいと思います。どういう形で、どなたが発案したのですか?
北陸保全工業・青池:
総務に属する事務局が「整える、防ぐ、守る」を基軸として取り組みを考えつつ、県の「乳がん月間」などが月ごとにあるのでそういうものも盛り込みながら作成しています。例えば口腔月間であれば、トイレにうがい薬を設置したりなど、年間計画を立てるようになってからできるようになりました。
また、この月にボウリング大会があると分かれば、社員も「もうちょっと練習しておこうかな」となりますし、なにより直前に開催を連絡してもなかなか気分も乗らないじゃないですか。やっぱり年間でこんなイベントがあると知らせることによって、社員もやりやすくなった部分は大きいです。
アイセック・木村:
北陸保全工業の健康経営年間計画は、県内のロールモデルとなるぐらいの完成度だと思います。
もう一つ良いところがあって、2020年から2025年までの「長期計画」も作っていますよね。中長期計画のようなものが健康経営にも使われています。健康作りも健康経営も「一日にしてならず」で、多くの企業はすぐ結果を求めがちですが、北陸保全工業の場合は短期と中長期を切り分けて取り組んでいるのが素晴らしいなと思います。
【北陸保全工業】「朝食を食べない」社員は一年で激減、週1でも効果が出た取り組み

アイセック代表取締役CEOの木村大地氏
北陸保全工業・青池:
ほかにも、保険会社からご指導いただきながら、従業員の健康アンケートも初年度から取っています。それによって、弊社は社員の血糖値の平均が他社と比べて高いということも分かりました。なので、事務所に給茶機や健康器具を設置しました。あとは、朝食を提供する取り組みもしています。
現在は血糖値の有所見者はかなり減りました。やっぱり数字で見えてくると事務局もやりがいを実感できて、インパクトが大きかったなと思います。
アイセック・木村:
給茶機にはどのようなものを?
北陸保全工業・青池:
お茶や黒ウーロン茶、コーヒーなどが出るようにしています。事務所に置いている自販機も、コーラなどはやめて健康飲料に切り替え、カロリーが高いものは置かないようにしています。
また、2023年のアンケートでは朝食を摂っていない社員が多いということも分かりました。会社から社員へ「朝食をしっかり食べろ」とは言えないので、まずはきっかけづくりとして、週1回会社で朝食を出す取り組みもしています。朝5時から出勤する社員もいるので、朝食が取りづらいんですね。朝食が欲しいという社員には、前日にパンと野菜ジュースを配っています。
アイセック・木村:
会社から朝食を提供しようと思っても毎日は難しいですし、公平性も考えなければいけないのでなかなか実行は難しいです。そうした中、北陸保全工業では「週1回」と決めて、スモールスタートでやっているのが素晴らしいと思います。
北陸保全工業・青池:
アンケートで欲しいと回答した6割から7割ぐらいの社員に配っています。朝食の代金は一人300円もしないぐらいですね。1年間週1回ですが続けたところ、朝食を食べるようになった社員も出始めています。
あまり強制はしませんが、やっぱり朝食を食べないと脳が働かなくて事故のもとになるだろうと思いますし、会社としてはそういったところに伴走することで効果はあったと思います。
アイセック・木村:
「ほとんど食べない」という回答率が最初「29%」だったものが、翌年度は「17%」に向上してます。さらに、「毎日食べる」は「58%」から「67%」に改善しています。これだけでも、投資対効果で見れば健康改善の大きなインパクトがありますね。
【高舘組】スポーツ大会から野球観戦まで…様々な社内運動イベント

高舘組は2025年11月、厚生労働省が主催する「第14回健康寿命をのばそう!アワード(生活習慣病予防分野)」でも優良賞を受賞。高舘氏は、「ずっと当社が提唱してる、『あたりまえ(歩く、食べる、良質な睡眠、毎日歯磨き、笑顔で働ける環境、の頭文字)』が評価されたのだと思う」と話す
高舘組・髙舘:
今回「グッド!スポーツカンパニー賞」をいただきました。これに関して健康の取り組みで言いますと、社内の運動習慣推奨、社内ソフトボール・ソフトバレーボール大会の開催、社内ボーリング大会、大縄跳びやモルックなどの年忘れスポーツ大会開催等、楽しい企画をしています。
それから、本物のスポーツに触れる事も大事だと考えているので、社内旅行はプロ野球観戦です。アプリを使ったウォーキングチャレンジもしていて、本日、お隣にいらっしゃる 大島電気株式会社様とのコラボの経験もあります。
建設業はたくさんの協力業者様で成り立っています。今年度2025年は、協力業者の皆様にも健康を持っていただきたいと考えました。当社と協力業者様で成り立つ、春の労災互助会安全大会では、歯科衛生士さんを招き、講演いただきました。
秋には、ラジオ体操の専門講師を招き、社員と協力業者の皆さんといっしょに学びました。最近では小学校の夏休みのラジオ体操の実施が少なく、本当のラジオ体操を知らない方が増えていると感じています。
協力業者さまにアンケートを行った結果、「次回も高舘組主催の健康イベントに参加したいか」について、「ぜひ参加したい」が30% 「可能なら参加したい」が55% 「会社と相談して参加したい」が15%という結果だったので、また輪を広げていきたいと考えています。
今回、当社が評価いただいたポイントとしては社員のイベントの参加率の良さではないかと思っています。70歳を超えている社員や当日の事情があり参加できない社員もいて100%にはなりませんが、平均して70%から90%を超える参加率が自慢です。
アイセック・木村:
ラジオ体操の専門講師を招くというのはとても良い試みだと思います。どのように招へいしたのですか?
高舘組・髙舘:
かんぽ生命に講師を紹介していただき、元NHKラジオ体操に出演されていた講師の先生に長野から来ていただきました。
【高舘組】健康イベントに他社も巻き込んで

高舘組では階段に消費カロリーを書いて階段の使用を啓発する取り組みも実施。県庁でもこれを取り入れ、階段に消費カロリーと健康標語を書いたステッカーを貼っている(写真は新潟県庁)
アイセック・木村:
高舘組は健康経営関連の表彰では常連で、以前から様々な取り組みをされていますよね。健康経営プロジェクトチームは何人体制でやられているんですか?
高舘組・髙舘:
健康推進プロジェクトチームは10年前から、総務課を中心に立ち上げ、メンバーの入れ替えはありますが、今7人体制です。技術職の現場メンバーも入っているので、幅広い意見が聴けます。
アイセック・木村:
先ほどの話の中には他社とのスポーツ交流の話が出てきましたが、健康経営って1社だけでなく、ステークホルダーの皆さんとも一緒にやっていくことも重要だと考えています。他社とのスポーツ交流はどんなスポーツをしていますか?
高舘組・髙舘:
例えば、直江津港湾協会のソフトボール大会参加は随分前から開催していて、恒例行事です。
(前述の)大島電気さんとのイベントは十日町と上越で市を跨いで開催できたので、これからも実施できたらいいです。
アイセック・木村:
ウォーキングアプリは何を使用していますか?
高舘組・髙舘:
「グッピーヘルスケア」(県が2021年から運用しているヘルスケアアプリ)です。色々なアプリがありますが、使いやすいので。
大島電気・富井:
十日町市でも「グッピー」を推奨していますね。
高舘組・髙舘:
やはり、使いやすいと皆さんにイベントに参加してもらいやすいです。市町村で推奨している健康アプリが違いますが、県が主導して統一していただけると、県全体で盛り上がるのでありがたいですね。
アイセック・木村:
高舘組は以前から健康経営に取り組んでいますが、ずっと成長し続け、毎年進化し、拡大しつづけてると感じました。
【大島電気】有所見者多数の企業から健康経営のトップランナーへ

「元々は健康経営以前に、社員の有所見者の割合が非常に悪かった」と打ち明ける富井氏
大島電気・富井:
まず始めたきっかけですが、元々弊社は社員の有所見者の割合が高かったんですよ。社員の定期健康診断を行い、再診が必要な方には案内を手渡して、再診を促していましたが、それ以上の部分は個人情報との関係で、我々がどこまで踏み込んで良いのか分からなかったんですね。それで2016年頃から、協会けんぽからの指導を受けながら始めました。
だから最初は、健康経営ではなく、とにかく悪いので改善しようと動いていました。その活動が認められ、健康優良法人に選ばれたので会社も乗り気になって、少しずつ進めている感じです。 結果として、社員の健康は「個人の問題」ではなく、会社全体で支えるものだと考えるようになりました。
社員の健康状態やこの地域の健康状況を把握している医療専門の方や保健師の方に講演をお願いしてきました。特に十日町はお酒を飲む機会が多く、高血圧、高血糖が多くて、弊社もそうした傾向がありました。会社のBCP(企業継続)を考えると、一時的な休暇はいいけど長期離脱は会社にとって非常に痛いですし、お客様の信頼にも影響してきます。そのため、社員の健康維持にどのように取り組めば良いのか産業医の先生や医療専門の方々と相談して、健康に関心を持ってもらうような講演をお願いしました。
そんな中で、県が進める「健口」文化推進の取り組みも始めました。職場の歯磨きスペースを3か所設置し、歯ブラシや歯間ブラシなどを設置し、いつでも歯磨きできるようにしました。歯科衛生士からも歯周病が身体に及ぼす影響が大きいことを講演していただきました。引き続き、社員が歯周病予防への関心を持ってもらうため、厚生労働省が進める歯周病予防のモデル企業として、2年連続で参加しました。徐々にですが歯石除去や歯周病検査のために歯医者さんに行くという意識が芽生えてきたように感じます。
タバコの禁煙も進めていきたいと考えており、3、4年前から全面禁煙を目指して取り組みをしていますが、やはり根強い愛煙家がいるので難しいですね。なので、従業員には禁煙治療のための費用を会社が報奨金(約2万円)として出すことにして進めています。
また、定期健康診断を2025年4月に社員全員を対象として、検査項目が充実している人間ドックに変更してみました。費用は全社員合計で約100万円ぐらい上乗せとなりました。費用面では正直、迷いもありましたが、社長からの助言もあり、安心して働ける職場づくりへの投資だと判断しました。また、女性特有の乳がんと子宮頸がんについては、偶数年齢を対象として実施しました。 来年はどうするか、という話の中で社員にアンケートを取りました。「やりたくない」という回答が多いかと予想していましたが、98%が「来年もやりたい」と回答する結果になりました。2026年も実施する方向です。一方で、検査項目が充実するので有所見者はまた増えます。でも、やっぱり長期離脱になるぐらいだったら、早めに医療機関へ行って、治療を受けてもらいたいと思いますね。
【大島電気】社員が再受診できる環境を

大島電気と高舘組では、合同で健康イベントを実施している
アイセック・木村:
3年前の健康経営セミナーで富井さんと私で対談したのですが、その時には「再検査受診率が低いことが課題だ」というお話がありました。
大島電気・富井:
勧告はしていましたが、再受診したかどうか、その後どうなったのかまでは把握できていなかったんですよね。社員が「これくらいなら大丈夫だろう」と放置してしまうことが一番怖かったんです。
そこで現在は、再受診後に3カ月、6カ月で経過観察や再診が必要とされた場合には、会社としてフォローする仕組みをつくり、必要に応じて声掛けを行っています。結果についても、本人の同意のもとで報告してもらっています。
また、定期的に治療中の社員についても、報告をお願いしています。というのも以前、治療中と聞いていた社員が、急に体調を崩して入院するケースがありました。実際には通院が途切れていたことがわかり、会社としても反省しました。その経験から、治療中の社員についても無理のない範囲で状況を共有してもらい、必要があれば業務調整ができる体制にしています。
アイセック・木村:
では、今は皆さんだいたい再診へ行くようになったのですね。
大島電気・富井:
現在は、安全衛生委員会やISOの安全衛生マネジメント会議で、「〇〇部の✗✗さんは、まだ再診に行ってません」「まだ報告来ていません」など受診状況を確認し、必要に応じて社長とも情報を共有しています。健康は自己管理が基本ですが、長期離脱に至らないためには、上司が部下の体調や状況を把握し、必要に応じて工程や業務を調整することが重要だと考えています。
私たちは「自分が休んでも、会社の中で調整できる」というメッセージを発信してきたことで、再診のために有給休暇を取ることへの抵抗感が薄れ、受診をためらわない意識がようやく定着しつつありますね。
アイセック・木村:
前回のセミナーで「健康経営は優しく見守っているかどうかが重要」とおっしゃっていた富井さんの言葉が印象的でした。再検査を全然受けてなかった会社が、課題を可視化し、改善策を講じて組織全体が変わっていく。みんなが再検査を受けられるようになったという改善は素晴らしいですね。
(前編、終わり)
後編は2月18日に掲載予定です。