【80周年迎え「次の正解」へ】越後製菓(長岡市)、現場主導DXと社内ブランディングで高まる創造性
絶妙な「ずらし」で見せるクリエイティブな社風
「正解は、越後製菓。」――。
このキャッチコピーは越後製菓株式会社(長岡市)が1999年から使用しているが、俳優・高橋英樹が出演するテレビCMとともに、すっかり消費者に定着している。日本の食品メーカーが用いるキャッチコピーの中でも、完成度が高く戦略性に富んだものとして評価されている。
語感の良さや簡潔さはもちろんだが、注目すべきは企業の歴史、商品特性、市場環境との整合性の高さである。「おいしい」「安心」「伝統」といった情緒的な言葉ではなく、「正解」という、あえて“判断を委ねる言葉”を用いている点が秀逸だといわれる。

越後製菓株式会社(長岡市)
同社が属する餅市場は参入ブランドが多く、商品差別化が難しい。コピーが「味覚競争」に振れれば主観的に受け取られ、「原料競争」を打ち出しても一般消費者には見えにくい。そこで同社は「選択の正当性」を提供する軸へと視点をずらした。これは「味覚競争」や「価格競争」からの戦略的離脱であると評する専門家もいる(もちろん越後製菓の餅製品が美味しく、求めやすい価格であることは言うまでもない)。
さらに、このコピーは流行語に依存せず、技術革新や商品改廃の影響も受けにくい。そのため長期使用に耐えうる言葉としても優れている。
同社は1946年を創業年としているが、当初は「ゆでだしそば」を製造販売していた。1951年の法人設立時の屋号は「山﨑製麺所」であり、現在の社名である越後製菓株式会社となったのは1957年である。
こうして振り返る同社の歴史には、随所に「戦略的なずらし」によって価値を創造してきた姿勢が見られる。それは時代ごとに「革命的」ともいえる手法で市場に新しい視点を提示してきた歩みであった。
餅製品では1979年、業界に先駆けて生切り餅「田舎もち」を発売した。以降、餅業界では、つきたての食感を生かした「生切り餅」が主流へと台頭していった。

業界に革命を起こした「生切り餅」
米菓では、焼きたて・揚げたての商品を直送する新シリーズ「越の伝承」(現「味の追求」)を発売し、大きな反響を呼んだ。あられやせんべいのマーケティングにおいて、初めて「鮮度」という視点を打ち出したシリーズである。これもまた同社らしい「絶妙なずらし」であった。
近年で最も画期的な例は、米菓「ふんわり名人・きなこ餅」「ふんわり名人・チーズ餅」のシリーズだ。これは農林水産省主催の「世界が認める輸出有望加工食品40選」にも選ばれている。

「ふわっ」と溶ける軽い口当たりは米菓の概念を根底から変えた
従来のあられやせんべいは、バリバリとした硬質でクリスピーな食感が特徴だった。しかしこの商品は、米菓でありながら口の中で溶けていく淡雪のような食感を追求した。ふんわりと軽い口当たりが、北海道産きなこやラクレットチーズの濃厚な風味と重なり、従来の米菓にはない味覚の世界を生み出している。
こうした独創性を生んでいるのが、同社の「戦略軸のずらし」である。

その精神は2023年発売の比較的新しいブランド「新潟の星」にも受け継がれている。従来の米菓にはなかった「サクッ」とした軽い食感と、かわいらしい星形が特徴だ。味付けは、日本人になじみ深い「甘辛」や「青のり」といったオーソドックスな組み合わせを採用している。

玉ねぎの甘さに香ばしい海老を加え、”まるでかき揚げを食べているような味わい”
2025年9月に発売された「新潟の星 えび味」は、玉ねぎの甘さに香ばしいエビの風味を加え、「まるでかき揚げを食べているような味わい」に仕上げている。
このような独創的な商品開発は単なる変化球ではない。餅や米菓という成熟した既存市場に対して、新たな可能性を提示する確かなインパクトとなっている。
「次の正解」を探しに
越後製菓は2026年に創業80周年を迎える。これを記念したさまざまな企画も検討されている。
同社は2025年8月、ISOよりも厳格な基準が定められている食品安全マネジメントシステム「FSSC22000」を取得した。これに先立ち、2024年にはDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進にも着手しているが、その過程で大きな気づきがあったという。

現場の効率化は現場主導で。これが活きた
同社の片貝工場では約300人が働いている。最大の生産拠点であり、この工場だけで約60億円の売上を担う。実は同工場では10年以上前、業務効率化を目的として情報共有ツールとしてタブレットを導入していた。しかし、運用定着には至らなかった。
働く人たちの意識が変わらなければ、紙に書いていた記録がタブレットの画面に置き換わっただけにすぎない。本質的な効率化にはつながらなかったのである。管理側が考える「効率」と現場が感じる「効率」には、大きな差がある。そこで同社は、現場の効率化は現場主導で進めるべきだという考えへとシフトした。その結果、「FSSC22000」取得に向けた帳票のデジタル化や、資材チェックにおける資材間違いゼロの実現などにつながった。
同社の取り組みは、現場DXプラットフォーム「カミナシ」シリーズを提供する株式会社カミナシ(東京都千代田区)の「現場DXアワード2025」において、「プロジェクト推進賞」に選ばれている。
こうしたボトムアップ重視へのシフトは、会社全体にも緩やかな変化をもたらしている。

ボトムアップ重視へのシフトが、さらなるクリエイティビティへとつながる
越後製菓では2025年、80周年に向けたリブランディング施策「次の正解プロジェクト」をスタートさせた。その第一歩として着手したのは、意外にも社内ブランディングに向けた「社内アンケート」であった。
「正解は、越後製菓。」のCMで全国的な知名度を持つ同社だが、あえてインナー調査から始めた背景には、DX推進の過程で得た気づきがあったのではないか。管理側と現場の間にある認識のギャップを見つめ直す必要性を感じたためである。
社員はこの会社をどのように見ているのか。会社の強みや課題をどのように理解しているのか。これまで、こうした問いを社員に投げかける機会は必ずしも多くなかった。
アンケートには、経営側が想像していなかった企業イメージや、社内だからこそ出てくる率直で厳しい意見も数多く寄せられたという。しかしそれらは、いずれも未来に向けた建設的な内容であった。
今後もこうしたボトムアップ重視の姿勢は、商品開発や業務改善などさまざまな分野で生かされていくことになりそうだ。
もともと備わっていた独創的な企業文化が、ボトムアップの力によってさらに豊かさを増していく。創業80年という節目にあたり、越後製菓は「次の正解」を探し続けている。

越後製菓株式会社 吉原忠彦代表取締役社長
