【燕三条の技術を守りたい】協栄信用組合が地域企業を仲介 フカウミが金仁製作所をM&A 

【燕三条の技術を守りたい】協栄信用組合が地域企業を仲介 フカウミが金仁製作所をM&A

新潟県燕市のステンレス加工メーカー・有限会社フカウミ(深海隆義代表取締役)は12月26日、同市内で金属プレス加工を手がける有限会社金仁製作所(金山幸仁代表取締役)の全株式を取得し、子会社化した。仲介役を担ったのは、地域に根ざした協栄信用組合だ。

今回のM&Aの核心は、後継者不在という地域産業が抱える構造的課題への対応にある。買い手・売り手ともに燕市の企業であり、仲介も地元金融機関が担うという地域完結型の事業承継モデルとなった。フカウミの深海隆義氏、金仁製作所の金山幸仁氏、協栄信用組合の理事長の池内博氏、仲町支店長の古澤賢氏にM&Aに至る経緯と地域産業への思いを尋ねた。

協栄信用組合の古澤賢氏(写真左)と有限会社金仁製作所の金山幸仁氏(写真右)

 

後継者不在という課題 地元への承継を模索

燕市にある有限会社金仁製作所

今回のM&Aにあたり、最初に事業承継を検討していたのは金仁製作所だ。同社は金属プレス加工の専業メーカーで、鍋の蓋やケトルの部品など家庭用品の量産をはじめ、建築・工業部品、フッ素樹脂加工を施した製品、薄板絞り加工の技術を軸に多品種小ロットに対応してきた。売上の8から9割は燕三条地場企業との取引が占め、堅調な売上を維持してきた。

一方で、経営者夫妻が長年、胸の内に抱えてきたのが後継者問題だった。二人の娘はいずれも異業種に就職しており、社内からの継承も現実的ではないと感じていた。「従業員も口には出さなかったのですが、この会社はこの先誰が跡を継ぐのだろうと思っていたと思います。常日頃、後継者については課題として捉えていました」(金山氏)。従業員の雇用を守りながら事業を継続させるには外部への承継が必要との認識を持ちながらも、誰にも相談できずにいた。

金仁製作所の金山氏

そうした状況を変える契機となったのが、2025年4月、協栄信用組合・仲町支店の古澤支店長による訪問だった。農地の処分や工場の将来について話す中で、金山氏は「機械も従業員もそのまま引き継いでくれる相手がいるなら、事業を手放すことも選択肢だと考えている」と初めて腹の内を打ち明けた。「古澤支店長でなければ、きっと相談してなかったと思います。地域がわかる人でないと、無理な話だと思っていましたから」と金山氏は振り返る。

対して、買い手となったフカウミは1967年(昭和42年)創業のステンレス加工メーカーだ。業務用厨房機器向けの加工をメインに、コロナ禍での飲食業停滞を機に自動車・建設部品やキャンプ用品など複数分野へ展開を広げてきた。プレス・ベンダー・溶接・研磨・梱包まで一貫して対応できる体制と、多品種小ロット対応力が強みで、三代目の深海隆義氏は新潟県商工会議所青年部連合会の会長も務める。

有限会社フカウミの深海隆義氏

深海氏がM&Aの話に前向きだったのは、金仁製作所が自社にない技術を持っていたからだ。「金仁さんは当社ができない絞り加工の技術を持っていました。専門業者としてのプレス加工スピードはやはり別格で、その技術を持つ社員さんごと引き継げることが大きな魅力と捉えました」と語る。また、人手不足が深刻な地域事情も背景にあり、深海氏は「県外の企業より地元企業である私たちが引き継いだ方が、地域のためになる」という思いも決断を後押ししたと明かす。

 

「困りごとを聞く」姿勢に信頼 地域金融機関が仲介役に

両社の思いをつなぎ、M&Aを具体的に動かしたのが、燕市の協栄信用組合だ。同組合は2016年、同地域の信用組合3組合で「燕三条地区事業承継支援ネットワーク」を発足。「しんくみ事業承継支援協議会(通称:ツグ・サポ)」を立ち上げ、事業承継への体系的な取り組みを継続してきた。設立前には地域事業者へのアンケート調査も実施。後継者不在問題の実態把握も行い、2017年6月には地場企業同士による第一号案件が成立した。

有限会社フカウミの深海隆義氏と協栄信用組合の金子氏

フカウミと金仁製作所においては、仲町支店の支店長を務める古澤氏が金山氏から相談を受けたその日のうちに、新潟県事業引継ぎ支援センターへ連絡を入れた。企業名を明かさず情報を公開したところ3社が関心を示したが、金山氏が一貫して求めたのは「地元企業への承継」という条件。県外からの問い合わせや業種が大きく異なる案件は、当初から選択肢に入れなかった。

協栄信用組合は自組合の融資先だけでなく、本店・各支店のネットワークを総動員。古澤氏のかつての同僚を通じてフカウミの深海氏が候補として浮上し、協栄信用組合の応接室を面談の場として提供しながら、引継ぎ支援センター・法務担当・融資部と連携。4月の相談から内密にサポートを続け、約8カ月でM&Aを成立させた。

有限会社フカウミの代表取締役深海隆義氏(左)と、有限会社金仁製作所 代表取締役 金山幸仁氏(中央)、取締役 金山町子氏(右)(プレスリリースより)

金山夫妻のもとには「よかったね」「どうやって事業承継したの?」という前向きな声が多く届いているという。「深海さんは以前から若手として活躍されていると聞いていました。実際にお会いして、当社の技術を評価してくれた上に、条件をしっかりと受け入れてくれました。妻は周りの方々から声をかけてもらったことで『これで良かったんだ』と思えたといいます。深海さんにお願いできて安心しました。その一言に尽きます」と笑顔で振り返った。

また、特筆すべきは、金仁製作所は協栄信用組合がサブ取引行であった点だ。古澤氏が最後まで両社と伴走したことは、組合内でも「サブ取引先からのM&Aが完結したのは初めてのこと」と評価されている。古澤氏は日頃から全ての取引先に「お困りごとはございませんか」とストレートに問いかけることを実践してきた。「『実は……』という話の中にこそ、真のニーズがある。それが言っていただけるかどうかが全てで、融資の有無に関わらず寄り添い続けることが地域金融機関の役割だと考えています」と古澤氏は語る。

協栄信用組合の理事長・池内博氏

協栄信用組合理事長である池内氏は今回の案件を振り返り、「仲介役となった古澤の人間性と、普段からの関わり方があってのことでしょう。地域と一体の金融機関として、産業の活力を落とさないために動く。それがこの仕事の本質だと実感しました」と話す。

 

地元同士で技術をつなぐ 相乗効果と産業の未来

フカウミと金仁製作所のM&A成立後は、金仁製作所の社名・従業員構成はそのまま維持されている。深海氏が代表取締役に就任し、金山氏は顧問として事業継続を支える体制だ。取引先への挨拶回りでは「今まで通りなら安心した」と受け入れられ、既存受注の継続も確認している。

協栄信用組合で行われたM&A成約式で挨拶をする深海氏(プレスリリースより)

事業面での相乗効果は既に動き出している。両社の取引先は全く重複しておらず、互いの顧客基盤を活用した新規案件が発生し始めた。フカウミから金仁製作所へのプレス加工の外注も始まっており、増員計画も進んでいる。深海氏は「お互いの顧客をつなぐチャンスが生まれています。すでに金仁さんのお客様から見積もりをいただいて、品物を出し始めた案件もあります。1×1を3にも4にもしていくのが、M&Aの真価だと思っています」と語った。

深海氏が今回のM&Aで見据えるのは、自社の成長だけではない。燕三条地域では廃業や後継者不在による事業所の減少が続いており、問屋が発注先を海外に切り替えるケースも生じ始めている。「燕は安価なものから航空関係まで作れる金属加工の一大産地。一社が辞めると『燕は最近断られる』という話が一気に広がります。後継ぎがいないまま年数が経つと、設備投資もできなくなり、経営はどんどん守りに入ります。技術や機械があるうちに積極的に動いてほしい。金仁製作所の金山さんのように年齢も比較的若い段階での決断が、地域全体にとっての攻めの事業承継になるはずです」と深海氏は訴える。

産業活性化を見据えた提案を行っていきたいと語る協栄信用組合の池内氏と古澤氏

理事長の池内氏も、今回の案件を「地域産業の流動化を促す先例」と位置づける。産地の強みを守るには、技術・人材・顧客関係を地域内で引き継ぐ地元同士のM&Aが貴重な一手となると見据える。「地域の産業の活力を落とさないよう、地元と一体の金融機関として今後も関わり続けていきます」(池内氏)。

後継者問題を抱えながらも、踏み出せずにいる経営者は予想以上に多いだろう。地域の企業同士のM&Aは、地場産業の技術の維持・発展への一つの道標になりそうだ。

 

【有限会社フカウミ】
新潟県燕市大関273-1
TEL:0256-62-5580
WEB:https://fukaumi.jp/

【有限会社金仁製作所】
新潟県燕市八王寺1485
TEL:0256-63-3306

【協栄信用組合】
新潟県燕市東太田6984
TEL:0256-61-1511
WEB: https://www.kyoei-shinkumi.jp/

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