【書評】地方都市が抱える社会課題の「最前線」で「最善戦」する、風俗店のシングルマザーたち


『性風俗シングルマザー 』~地方都市における女性と子どもの貧困~ 坂爪真吾<著>

 

1人から、多い時で10人ほどの未就学児がひしめき合い、遊んだり、ケンカしたり、泣いたり。

ここは、保育園や幼稚園、病児保育の施設ではない。デリヘル嬢として働くシングルマザーの多くが頼りにする、風俗店の託児所だ。彼女たちはここに子どもを預け、男性客と一緒にホテルの一室に入り、裸になって性的なサービスを提供する。あるいは事務所の待機部屋の中で、新規客からの指名が入るのを待つ。

「子どもがかわいそう」という声が聞こえてきそうだ。またここで、4歳の女の子が仕事に向かおうとするお母さんにすがりつき、「ママ、出ていかないで!」と泣きわめいているとしたら。恐らく、想像したくもない人が多いだろう。

しかしそれはきっと、風俗店で働くシングルマザーに対する一面的な見方にすぎない。彼女たちも世の一般的な家庭の母親像と同じく、必死で子どもを育てている。違うのは、頑張る舞台が風俗店であることと、インフォーマル(非公式)な社会資源に頼っていることくらい。本書はまず、そのようなことを気付かせてくれる。

著者は、一般社団法人ホワイトハンズ(新潟市西区)の代表理事を務める、坂爪真吾氏。2年間にわたって地方都市の風俗店で働くシングルマザーやその支援者などを取材し、地方都市における女性と子どもの貧困の現状と課題を追い続けた、とのことだ。

若くして出産したシングルマザーたちは、学歴や職歴が少ないことで、子どもを育て暮らしていくのに十分な収入を得られる働き口を、なかなか見つけられない。そこで風俗店が、彼女たちの「受け皿」として機能している実情。託児所も、それを支えているのだ。

しかし経済的・時間的な理由から、子どもに愛情を与えたくても与えきれていないシングルマザーたちの状態は、子どもの貧困、およびその連鎖という社会的課題にもつながってしまう。

人口減少時代において、次世代の子どもをどのように育てるべきかは、決して他人事ではないはずだ。特に、賃金も低く働き口も少ない地方都市では、企業の存続や自治体運営が困難になる可能性も指摘されている。しかし厳しい財政状態にあって、公的な子ども・子育て支援が今後、拡充される見通しは薄い。

風俗店で働くシングルマザーたちは、そんな地方都市が抱える課題の最前線で、最善戦している。

彼女たちは公的支援が行きわたらない中で、子育ても日々奮闘している先駆者である。そのリアルな話からは、地方都市の将来像や行政の問題点なども垣間見えるが、それらを真剣に考えることは、今の地方都市を生きる大人に課せられた使命ではないだろうか。

【性風俗シングルマザー】
地方都市における女性と子どもの貧困
出版社名:集英社
発売日:2019年12月22日
ページ数:272
価格:880円(税別)

【著者:坂爪真吾】
1971年、新潟生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。新しい「性の公共」をつくるという理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性の無料生活・法律相談事業「風テラス」などで現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰。著書に『はじめての不倫学』『性風俗のいびつな現場』『セックスと障害者』『セックスと超高齢社会』『「身体を売る彼女たち」の事情』など。

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biz Link2020年1月10日号より転載