【インタビュー】 開志専門職大学 北畑隆生学長「求める学生は、受験秀才ではなく、意欲のある人、一芸に秀でている人」


北畑 隆生氏(Kitabata Takao)
東京大学法学部卒業。元経済産業事務次官。元三田学園中学校・高等学校校長。公益社団法人日本ニュービジネス協議会連合会(JNB)特別顧問、百年経営の会会長、株式会社神戸製鋼所取締役会議長、丸紅株式会社社外取締役

新潟県内で唯一の専門職大学「開志専門職大学」(新潟市中央区)は、2020年4月に開学した。専門職大学は2019年4月に始まった大学制度で、既存の大学が研究に重きを置き、教養を身につけることに重点を置いている一方、専門職大学は将来、産業をリードできる人を育成するために産業界と連携しながら理論にもとづく実践力と創造力を養う。事業創造学部(起業家・経営者・事業承継者育成など)、情報学部(エンジニア、データサイエンティスト、ロボティクスエンジニア育成)、アニメ・マンガ学部(2021年春開設)をもつ開志専門職大学でも、国内外のビジネスの第一線で活躍する実務家講師の授業、海外研修、ビジネスプランコンテストへの参加、超・長期企業内実習(600時間以上)、英語教育などを通じ、日本・世界で活躍する専門職大学人材の育成を行っている。開校1年目をまもなく終える同大学の北畑隆生学長に、1年の振り返りや今後の展望などについて聞いた。

 

開校1年目、『起業サークル』も誕生

—講師陣に産業界で活躍した人が多いですね。

北畑 教師陣の4割以上を産業界で経験のある実務家教員(ビジネスの第一線で活躍してきた人たち)にし、実践的な教育を行うというのが、専門職大学。開志専門職大学も半分が実務家教員で、国内外の企業の第一線で働いている特別講師の授業をオンラインで受けることができるのが特徴(個別の教員は同大学サイトで確認できる)。いろいろな大学でアントレプレナー育成、アントレプレナー研究に取り組んでいるが、本学では(基礎的な経営学などを学ぶことに加え、)実践的な教育、最新のビジネスを学ぶことを重視している。(卒業後は)すぐに起業することもあるし、いったん企業に就職し、学校で学んだことに加え、会社で経験を積んでそこから独立するケースもある。また、事業承継をするという人もいると思う。

—開学からのこの1年弱を振り返っての感想はいかがですか。

北畑 1年間やってきて、それなりの手応えを感じているし、専門職大学という新しい制度の中で特色を発揮した大学になっていくのではないかという自信は深まってきた。例えば、意欲のある生徒が多く集まってきた。さらに、その中から、在学中に大学発ベンチャーの設立を目指し勉強しているサークル『起業サークル』も生まれた。このサークルに、実際のアントレプレナーを連れてきて学生が直接話をする機会の提供を年度内に始めたいと思っている。授業の中に『トップランナー研究』(世界のトップランナーからまだ見ぬ世界を学ぶ特別講義)があり、ソフトバンク株式会社副社長などの実業家にきてもらったが、せっかくサークルができたので、授業ではない場所で、自由に色々なことを聞いてほしい。

—会社で重要なのは資金集めですが、そのサークルでも、会社設立に向けて、実際にクラウドファンディングを始めとした資金集めを行ったりすることもあるですか。

北畑 (サークルに限らず)資金調達全般を学ばなければいけないと思う。金融機関から担保を取られて融資を受けるということもあるし、出資を募ることもある。クラウドファンディングのように新しい資金調達方法を勉強することもある。資金調達は事業創造学部の一つのテーマでもある。

—質問を1年目の振り返りに戻しますと、1年目は新型ウイルス感染拡大があったため、色々な苦労もあったのではないでしょうか。

北畑 色々苦労はあった。一つは入学式をオンラインでやらざるを得なかったこと。授業も対面での授業の開始が遅れ、オンラインでやらざるを得なかった。そうした中でもオンライン授業で工夫するなどしてここまできた。対面授業とオンライン授業を併用していくという新しい形も発見できた。その後、万が一、感染症が発生した時に備えた模擬演習や、大学構内の感染症対策をしっかりと行い、感染者を出さないことを何よりも重視しながら、6月29日に対面授業を始めることができた。これは他の大学と比べても早いほうだったと思う。

—大学の特色として掲げている企業内実習(600時間以上)、海外研修(ベトナム武者修行など)もコロナ禍で難しかったのではないでしょうか。

北畑 残念ながら企業内実習は今年、感染対策の観点から現場には行けずオンラインで行った。先日、その成果に関する発表会を行ない、学生は生き生きと発表していた。海外研修は初年度から行ないたかったが今は無理な状況、4年間のうちに必ず実現したい。

臨地実務実習発表会の様子

—学長、副学長、2人の学部長は経産省出身ですが、経産省時代に培われた人脈も活かされているですか。

北畑 産業界のネットワークが非常に重要な大学。色々な人脈を持っている人が学部長になってくれたので、うまくいっていると思う。先日もアイリスオーヤマの大山健太郎会長に講演をしてもらったが、こうした人脈からお願いをした。今後も産業界のビッグネームの人を公開講座などに呼びたいと思っている。

—まだ先に話になりますが、卒業生の就職先については、どんなイメージをお持ちですか。

北畑 色々あるが、新潟に就職する人は多いと思う。インターンシップを受け入れてもらった新潟の経営者に先日開催した発表会に来賓として参加してもらったが、『あなたの所の学生さんはすぐにでも採用したい』といわれるなど高い評価を受けた。勿論全国や世界でビジネスをやりたいという学生もいて、そうした人材(全国や世界でビジネスする人材)も生まれていくと思う。

 

校長時代に感じた教育現場の課題は「偏差値重視」

―ところで北畑学長は、三田学園中学校・高等学校校長や理事長(現・顧問)を6年間務めていましたが、そこで感じた教育の課題は何でしょうか。

北畑 今の学生は素直だし、授業も出席率も極めて高い。ただ、今の教育は受験勉強に引っ張られ、社会に出てからの人間を鍛えるという意味でいうと、おかしな教育になっている。特に英語教育、デジタル教育はおかしい。中学校、高校と6年間英語を勉強しても喋れないのは受験英語のための勉強をしているから。三田学園では、ネイティブの先生を入れたり、オンラインでフィリピンの人講師の授業を受けたりする取り組みを積極的に行っている。楽しい英語、気楽な英語にしないと、英語が嫌になってしまう生徒ばかりになってしまう。

デジタルも全くできていない。いまGIGAスクール構想でタブレットを配ろうとしているが、公立高校ではまだ2%しか配っていない。また、いじめの原因になったり、ゲームや変なものを検索したりするからという理由で、スマホを学校に持ち込んではいけないという文科省の通達がある。これは技術の進歩を自ら否定しているようなもので、コロナ対応で韓国や台湾に負けた最大の原因だと思う。三田学園は私学なので、生徒と教員全員に3年かけてタブレットを無償で配った。ものすごく効果が上がっている。

ただタブレット配布で最大のネックとなるのは、先生が生徒の進歩についていけないという恐怖があること。つまり生徒からの使い方などについての質問に50、60代の先生は対応できない。だから『いじめが起こったらどうするのですか』という別の理由で反対する。三田学園では、そういう理由があることがすぐにわかったので、情報企業の関連会社から専門家を中学と高校に一人ずつ派遣してもらって、操作方法への対応を任せたら、なんの問題もなく、うまくできた。2019年には全配布が終わっていたので、今回のコロナ対応で(オンライン授業などが)もっともうまく対応できた学校の一つだと思う。地元の新聞にも褒められた。

—まだ先の話ですが卒業生が経営者になると資金繰りで苦労したり、孤独の中で様々な判断をしたりしていかなくてならない場面に遭遇します。そして成功するためには乗り切っていかなくてはいけません。学校で教えることではないかもしれませんが、この能力についてはどのようにお考えですか。

北畑 三田学園の卒業生の中に一部上場企業の経営者が現在6人いるが、その人たちに『三田学園で学んだことで何が役に立ちました』と聞くと、クラブ活動という答えだった。授業や教科書では将来、経営者になった時、孤独に耐えうる力を教育していない。しかしクラブに入ると、リーダーシップ、リーダーの孤独、忍耐力などを学ぶ。三田学園では9割の生徒がクラブ活動に所属していて、しかもほとんどが高校3年生までやり続ける。受験に影響があるのではないか、と言われるが、クラブ活動をやり続けたことが三田学園卒業生の一つの武器になっている。

開志専門職大学には運動部はないが、社会に出てから、どう乗り切るかについては、次々呼んでくるアントレプレナーの成功者に授業やクラブ活動の中で、自分で質問したり、またインターンシップを通じて身につくと思う。

—起業家志向の学生が多く、将来的には、卒業生同士のネットワークも期待できますね。

北畑 私は入学式で、『卒業生が協同して会社を興して、上場する夢を見ている』と語った。
新しい会社を興していくというのが日本経済の活性化につながる一つの道だが、この3つの分野(事業創造学部、情報学部、アニメ・マンガ学部)は事業を興して成功する可能性が高い成長分野。(卒業生の中から)独立して会社を興す人が出てくるだろう。そうした時、例えば、『アニメ・マンガ学部の卒業生が起業し、設立登記や資金調達などは事業創造学部の仲間が行う』。また、『いまのアニメ・マンガはデジタルの世界だから、アニメ・マンガ学部の卒業生と情報学部の卒業生が一緒に会社をやる』。そういう会社が出てきたら嬉しいと思っている。学長としての夢でもある。

—話は変わりますが、これまでの新潟との関わりについて教えてください。

北畑 長岡の米百俵。小泉元総理が国会で、小林虎三郎という立派な教育者が長岡にいたと言われ、新潟に来たことがある。それで小林寅三郎ゆかりの地や長岡の花火を見た。また、雪だるま財団をつくった新潟県の県議会議員から、『雪も太陽光と同じで自然の恵みだから新エネルギーに指定して欲しい』と言われ、指定したことがある。

—国土交通省は、港湾において水素などの次世代エネルギーの大量輸入や貯蔵、利活用を図るとともに、港湾機能の高度化を通じて温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラルポート(CNP)」の形成に向け、CNP検討会を開催する6地域の一つに、新潟港を抽出しました。このプロジェクト進行について北畑学長に期待する声もあります。

北畑 資源エネルギー庁の省エネルギー・新エネルギー部長をやっていた時、燃料電池自動車の日本での開発関連の業務をやっていたことがある。その時は、水素はまだまだ先というイメージだったが、その時から将来は水素だと思っていた。菅総理が2050年カーボンニュートラルを宣言され、そうなると(実現のために)日本も水素エネルギーを使わないといけない。しかし、資源価格の高い日本ではなかなか水素を作れないので、安く水素を作ることができる(褐炭が使える)オーストラリア、(天然ガスが使える)ブルネイ、(メガソーラーを使える)中東、(水力発電が使える)カナダなどから液化して日本に持ってこなくてはいけない。そうなると日本の港に水素受け入れ基地を作らなくてはいけないが、新潟が候補の一つになったのは嬉しい。新潟に縁があるので、そうしたプロジェクトをなんらかの形で手伝いたいと考えている。

—最後に2021春の受験生に向けて、メッセージをお願いします。

北畑 本学の一般入試の必修科目は1科目だけで、面接重視で決める。また(入試の際に提出する)学修計画書で『こんな勉強をしたい』と意欲的に書いている子はぜひ入学させたい。

偏差値教育では人間の能力を発揮できない。受験秀才ではなく、意欲のある人、一芸に秀でている人にぜひとも来て欲しい。

 

開志専門職大学

学部/事業創造学部、情報学部、アニメ・マンガ学部(2021年春開設)※定員はいずれも80名
所在地/紫竹山キャンパス、米山キャンパス、古町ルフルキャンパス(いずれも新潟市中央区)
大学サイト/https://kaishi-pu.ac.jp/

開志専門職大学の紫竹山キャンパス(新潟市中央区)

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