【学長インタビュー】実習と実学を重視する三条市立大学(新潟県三条市)  開学から3年、学生と地元企業の反応は?<再掲載>

三条市立大学

掲載 2023年11月22日(最終更新 2023年11月26日)

三条市立大学(新潟県三条市)が開学から3年目を迎えた。学生を中長期間企業へ派遣する「産学連携実習」は、一般的なインターン体験とは異なり、企業の業務内容をカリキュラム化した大学独自の学修プログラム。今年秋からいよいよ、3年生による16週間の長期産学連携実習が始まった。

同大学のカリキュラムのメインとも言えるイベントを控えた秋、アハメド シャハリアル学長に、これまでの実習の様子や地場企業からの反応、そしてこれからの展望を聞いた。

 

目次

○朝礼に感動? ──実習を経た学生たちの反応と成長
○企業と学生、双方向の学びを目指す
○長期の産学連携実習に期待すること

 

朝礼に感動? ──実習を経た学生たちの反応と成長

アハメド シャハリアル(Ahmed Shahriar)。1966年、バングラデシュ生まれ。1988年に来日し、東京電機大学フロンティア共同研究センター、新潟産業大学産業システム学部、経済学部、沖縄科学技術大学院大学技術開発イノベーションセンターなどにおいて研究、教育、実務を実践。三条市立大学の設立に携わり、2021年に学長に就任。

──開学から3年が経過しました。まずは大学全体について、これまでの所感を聞かせてください。

3年間大学を運営してきて、さまざまな人との出会いがありました。そして分かったことは、地方の企業は競争力が求められている、ということです。そして、競争力を生み出すのは人材です。なので、競争力を生み出せる人を育てなければいけないと改めて感じました。

 

──1期生(現在の3年生)はこれまで1年時には企業見学、2年時には複数社2週間ずつの企業実習を経ています。彼らからはどのような反響がありましたか?

学生の数だけ例はありますが、印象に残ったのは、2年生の実習の後にとある学生へ「なにか感動したことはあった?」と聞いたら「朝礼に出させてもらったことに感動した」と答えたことです。

彼は「朝礼というのは企業にとって極めて内部的な伝達であるにも関わらず、部外者である私を信頼して出してもらった」と話しました。この例が物語っているのは、人は信頼された時、大きく変わることができるということ。学生時代にこうした経験ができたのは、人間としての成長に繋がります。

 

──「朝礼が印象に残った」というのは、働いている側からすると意外ですね。

思いもよりませんでした。私たち大人は色々考えて教育しますが、彼らがどのように受信するかは想定外の部分もあります。

また、これまで学生たちには一つの企業だけでなく、なるべく多くの会社を見るようにさせてきました。社会の中には難しい人や出来事もあって、そうした困難を飛び越える経験も必要です。企業によっては(実習期間が)繁忙期のところもありましたが、そうした納品前の緊張感や緊迫感は大学の中では経験できません。そうした部分も成長の鍵となり、彼らの今後でものを言うことになります。

1期生は想定以上の成長を見せています。卒業時の実年齢は22歳ですが、彼らの人間としての成長はそれ以上のものになると思っています。それは、企業での経験を授業に取り込んでいるから。経験に勝る学習はありません。

 

企業と学生、双方向の学びを目指す

2年生(2期生)による成果発表報告会の様子(2023年11月撮影)

──受け入れ先の企業からの反応はいかがですか?

昨年(2022年)11月、1期生には実習後に学んできたことをプレゼンテーションしてもらいました。実習先企業の方も見にきており、その際には「彼らから得るものも多かった」と言われました。我々が想定していた「双方向の学び」ができており、学生と過ごすことで企業の心が動かされていると思います。

 

──大学の目標の一つに、学際的な視点を地域産業へ取り入れるという点もあると伺っています。具体的には、そうした点が企業から好感を得たのでしょうか?

まだ2年生だったので、当時の時点では学際的な部分や技術的な部分というよりも、若い人の価値観や考え方を共有できたところが大きかったと思います。また、学生たちはデジタルネイティヴなので、デジタル端末の使い方や感覚の鋭さもあったでしょう。

(学際的な部分以外でも)現代の子どもたちは持っている情報量が多く、我々(の世代)は敵いません。そうした豊富な情報を、企業にいるほぼ初対面の人と分かち合うことができたのだと思います。

1年時には全員CADの授業を受けます。CADはエンジニアの嗜みであり、社会人にとってのWordやExcelぐらいの存在です。実習先では「2年生(19歳、20歳)なのに」と言われるそうです。学生たちも、昔からCADを扱っている人と並んで仕事ができることに感動があります。

一方で、(学生たちを企業へ預けるため)大学は学生たちへしっかりと事前学習を施していかなければいけません。我々も学生たちと同じく成長しています。(大学での授業は)これからもっと改善する余地があると考えています。

 

長期の産学連携実習に期待すること

三条市立大学

──1期生は、昨年の実習からまた1年成長したと思います。後期からの長期実習に期待することは?

学生たちにはまず、大学でできることはやってほしくありません。大学では「理論」の学習をしますが、それを活かす場所(実習先)が大事です。また、実習はきっかけに過ぎません。実習先企業での人間関係や出会いが重要で、自分たちが持っている能力や知識を活かすための出会いを作ってほしいと考えています。

16週間は企業のチームメンバーになれるほどの時間で、学生たちは持っている知識をさらにエクスポーズできます。彼らはこれまで様々な企業での経験を重ねており、次の実習先でも 知的な会話が飛び交うことに期待してます。また、そうした場をつくることを企業にも意識してほしいですね。

 

──具体的に、長期実習ではどのような学習をするのでしょうか?

学生と企業ごとにメニューは違います。ある会社の社長は「ゼロ(企画)から完成までもっていかせたい」と言っていました。企業の方々は、せっかくのチャンスなので何か新しいモノやアイデアを学生に考えてもらいたいと思っています。我々大学職員が企業と計画を練っているなかで、彼らも本気になっていったと思います。

人は他人に教える時に一番勉強します。現場の人たちは学生に仕事を教えるために色々な準備していおり、それが彼らの成長にもつながります。初回はそれが分からないかもしれません。しかし何度も実習を受け入れているうちに、お互いにメリットが見いだせるものだと思っています。

 

──長期の産学連携実習も含め、これからの三条市立大学への期待と意気込みをお願いします。

我々はまだ、4年生を経験していません。しかし、3年生までは開学当初に思い描いた通りか、それ以上の成果が出ています。

これから後期を経て来年4年生になる1期生には、大学生活の集大成として「自分づくり」をしてほしい。単位はどこの大学でも取得できます。なので、どういう自分になったかが重要です。4年間のバリュー、そして三条と燕に来てよかったと思える価値を、我々大学 はこれからも提供していきたいと思っています。

 

(聞き手 鈴木琢真)

 

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