【市町村長リレーコラム】第7回 新潟県三条市 滝沢亮市長 ——「ひとづくりのまち、三条」へ

新潟県内30市町村の首長に、地域での取り組みや課題、首長としての想いなどをコラムで寄稿いただき、次に寄稿いただく首長を指名いただく「市町村長リレーコラム」。

第7回は、新潟県村上市の高橋邦芳市長からバトンをつないでいただいた、新潟県三条市の滝沢亮市長のコラムをお届けします。

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みなさんは三条市に、どのようなイメージをお持ちでしょうか?もっとも多いのは、やはり「金物のまち」三条市、そして「ものづくりのまち」三条市でしょうか?

三条市長に就任し、産業界の方々はもちろんのこと、私たち三条市民が「ものづくりのまち、三条」であることに大きな誇りを持っていると強く感じています。また、現状に甘んじることなく常に進化を試みている地域の方から、私は大きな勇気をもらっています。

おかげさまで「ものづくりのまち、三条」は、目に見える形でも評価いただいており、2022年度の三条市へのふるさと納税寄付額は50億円を突破することができました。これはこの地域の極めて高い技術力や商品開発力が全国のみなさんに評価されているからこその結果であると考えています。

この「市町村長リレーコラム」のお話をいただいたとき、トピックを何にしようか悩みました。「ものづくりのまち」のお話やふるさと納税のお話にしようかとも思いましたが、にいがた経済新聞さんにいつも積極的に取り上げていただいておりますので、今回は別の角度から三条市のご紹介をすることにしました。

それは「ひとづくり」です。

 

「まちやま」と「ひとづくり」

2022年7月24日、三条市に、隈研吾さん設計の新しい図書館等複合施設「まちやま」をオープンしました。「図書館」「科学教育センター」「鍛冶ミュージアム」の3つの機能を持たせているため、「複合施設」という名前としています。

読者のみなさんの中に既に利用された方はいらっしゃいますでしょうか。

おかげさまで、オープンから1か月も経たない2022年8月21日に来館者数が10万人を突破しました。また、2023年4月2日、開館からわずか8か月で来館者数が50万人を突破しました。

三条市立図書館「まちやま」(提供 三条市)

「まちやま」の開館時間は朝9時30分ですが、春休みなど子どもたちのお休みの期間や週末になると、開館前から入口の前に行列ができます。どういう方々が並んでいると思いますか?

実は「まちやま」の学習室で勉強をするために、三条市の中学生や高校生たちが朝早くから並んでいるのです。建物の外の広場にもテーブルと椅子を設置していますが、学習室が埋まると、子どもたちはそこで教科書や参考書を広げて勉強しています。私が驚いたのは、昨年の11月下旬、この新潟県の寒空の下でも、子どもたちがそこで勉強していたことです。

また、小学生のお孫さんがいらっしゃる三条市民の方から嬉しいエピソードをお聞きしました。

「滝沢さん、ねぇ聞いて。これまでは放課後や休みの期間になると、孫とその友だちたちは、集まってゲームばっかりしていたて。それが『まちやま』ができてからは『とりあえず、まちやまに行こう』と言うようになったんだて。それで『まちやま』から帰ってきた孫が私に言ってくれたんだろも、『ねぇばあちゃん、聞いて。まちやまに行ったら中学生とか高校生のお兄さんやお姉さんたちがみんな真面目に勉強してるんだ。なんかかっこいかったわ。おれも中学生になったらまちやまで勉強しんばらな』」と。

三条市立図書館「まちやま」施設内(提供 三条市)

私たち三条市は、目的・意図を持って「まちやま」に図書館、科学教育センター、鍛冶ミュージアムの3機能を持たせました。

でも、正直に申し上げて、ここまで多くの子どもたちが「まちやま」で自主的に勉強をしてくれること、また、それが先ほど紹介したお孫さんのエピソードのように、高校生、中学生、小学生とその素晴らしい流れが伝播してくれることまでは想定していませんでした。

 

「三条高校」と「ひとづくり」

2022年8月31日、県央5市町村の首長、県会議員のみなさん、商工会議所の会頭・副会頭、県立三条高校の同窓会長の総勢14名で、花角県知事、佐野県教育長に対し、三条高校への理数科の設置を要望しました。

私たちがこのような要望をした理由は大きく2つあります。

一つは、将来の医師をこの地域で育てるには理数科の存在が必要不可欠であるためです。もう一つは、ものづくり産業の集積地域である県央地域において、産業発展の礎となる科学技術を支える教育をさらに充実させるためです。

花角県知事、佐野県教育長に対し、三条高校に理数科の設置を要望(提供 三条市)

花角知事は私たちの思いを受け止めてくださり「三条高校理数科設置の方向で前向きに検討、準備をしていきたい」というお言葉に加えて、「良いものをつくるには準備の時間も必要。来年度、再来年度を準備期間として、一つの目安として2025年度からかな」との具体的なスケジュールまで回答してくださいました。

三条高校理数科を卒業し、医学部に入って医師になり、来年3月1日開院の済生会新潟県央基幹病院で勤めてくれる方の誕生はどんなに早くても10年以上先になると思います。ものづくり産業の将来を創る人材の輩出も、すぐに目に見える成果が出るわけではありません。だからといって何もせずに待つのではなく、1日でも早く「ひとづくり」を前進させることが大切です。

三条市を含む県央地域が「ひとづくり」の観点からもより充実していくことの大切さをご理解くださった花角知事、佐野教育長にこの場をお借りして改めてお礼を申し上げます。

 

三条市、百年の計

みなさんは「国家百年の計」という言葉を耳にされたことがあると思います。この言葉の意味を「国家が立てる、遠い将来までの計画のこと」と理解している方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この「国家百年の計」とは、元々は「教育こそが国家百年の計」という言葉であったと言われています。つまり「教育や人材育成こそが国家の要である、100年後の国を支えるための要である」という意味です。

そして、この「国家百年の計」、さらに元を正せば、次のような言葉でした。少し長くなりますが、私が好きな言葉ですのでご紹介します。

 

一年之計、莫如樹穀
十年之計、莫如樹木
終身之計、莫如樹人

(書き下し文)
一年の計(はかりごと)は、穀を樹(う)うるに如(し)くは莫(な)し
十年の計(はかりごと)は、木を樹(う)うるに如(し)くは莫(な)し
終身の計(はかりごと)は、人を樹(う)うるに如(し)くは莫(な)し

(意味)
一年の成果を感じるには、穀物を植えるのが一番である
十年の成果を感じるには、木を植えるのが一番である
一生の成果を感じるには、人を育てるのが一番である
社会の発展にとって、人を育てることが一番重要である

 

一樹一穫者穀也
一樹十穫者木也
一樹百穫者人也

(書き下し文)
一樹一穫(いちじゅいっかく)なる者は穀なり
一樹十穫(いちじゅじっかく)なる者は樹なり
一樹百穫(いちじゅひゃっかく)なる者は人なり

(意味)
一を植えて一だけの収穫があるのは穀物である
一を植えて十の収穫があるのは木である
一を植えて百の収穫があるのは人材である

 

この言葉は、紀元前7世紀頃、中国の春秋戦国時代の管子「権修」に載っていたものです。今から3000年近く前から、教育の大切さ、人を育てることの大切さが説かれ、その言葉が現在にもしっかりと伝わり続けているところに、私自身、とても感慨深いものを感じています。

少子化、人口減少といった問題を抱え、将来の予測が困難な時代であるからこそ「ひとづくり」はこれまで以上に大切です。私たち三条市は、未来の、そして100年後のこの地域のために「ひとづくり」を重視していきます。今後とも、みなさんのご理解とご支援をよろしくお願い申し上げます。

三条市の未来を担う子どもたち(提供 三条市)

 

新潟県三条市の滝沢亮市長(提供 三条市)

【市町村長プロフィール】

三条市長 滝沢亮(たきざわりょう)。新潟県三条市出身。1986年1月7日生まれ。2008年、一橋大学法学部卒業。2010年、東京大学法科大学院修了。2009年に司法試験に合格したのち、 2012年に東京の外資系法律事務所で弁護士登録。2018年、三条市に「ひめさゆり法律事務所」開設。2020年11月に三条市長に就任。座右の銘は、「為せば成る 為さねば成らぬ何事も」。影響を受けた本は、豊饒の海(三島由紀夫)。趣味は、音楽(Perfume)、スポーツ全般。

 

三条市ホームページ

市町村長リレーコラムについて

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