廃棄野菜を活用したパックごはん、容器再利用で災害時にも活躍 新潟大学の学生4人が開発へ挑む「さつまクルん」

左から、新潟大学経済科学部4年生の森成雅さん、佐藤拓人さん、永井亜美さん、水上英香さん
新潟大学の学生4人が、フードロスと災害時の課題を同時に解決する商品「さつまクルん」の開発に挑んでいる。廃棄されるサツマイモをアップサイクルしたパックごはんで、容器にフィルムシートを貼ることで再利用もでき、災害時には避難所での活用も期待される。
「さつまクルん」を手がけるのは、新潟大学経済科学部4年生の佐藤拓人さん、水上英香さん、森成雅さん、永井亜美さん。4人とも伊藤龍史准教授のゼミに所属し、昨2024年からチームで活動している。ホームセンター「ひらせい」とのコラボレーションというテーマからスタートし、同社が抱える課題の一つとして提示された「廃棄野菜」の問題に関心を持ったのがこの企画が生まれるきっかけだった。
「日本全体で年間約200万トンの野菜が廃棄されている現状がある」と4人は話す。「ひらせい」でも、大きさや虫食いの有無などによって年間1トンほどのサツマイモが廃棄されており、これはひらせいファームで作るサツマイモの約1割ほどにのぼるという。
当初はスイーツやスムージーなどの案もあったが、「サツマイモを使ったパックごはんは珍しいのではないか」ということで、保存食としても優秀なパックごはんに形が定まった。

内側にフィルムシートが貼られた試作品の容器 写真提供:森さん
中身のサツマイモごはんには、ひらせいファームから回収した廃棄予定のサツマイモを使用する。さらに注目すべきは容器の工夫だ。中にフィルムシートを貼ることで、中身を食べ終えてもそれを剥がして2回、3回と使えるようにした。これにより、災害時に不足しがちな食器の代替として機能したりゴミの削減に寄与する。さらに、フィルムシートには迷路や間違い探しといった娯楽要素を印刷。避難生活を送る子どものストレス緩和や、避難者同士のコミュニケーションのきっかけにも繋げる工夫で、災害関連死を抑制したいと思いを込める。
この発想の背景には、メンバーの1人である森さんの経験も反映されている。「小学1年生の頃に東日本大震災の影響で避難生活を送った。その時から避難所での食事や衛生の問題に課題を抱いていた。フードロスと災害時の課題を、同時に解決できる商品をつくることができないかと考えた」(森さん)。
「さつまクルん」のアイデアは、各種ビジネスコンテストでも高い評価を受けた。4月12日に開催されたジャパンビジネスモデル・コンペティション(JBMC)では、企業チームも参加する中で2位と大健闘。他にも「Open Gate NIIGATA」(2024年11月開催、優秀賞)「フードテックビジネスコンテスト」(2025年2月開催、個人部門優秀賞)、「K,D,C,,, Food Challenge」(2025年2月開催、4位)などでも結果を残す。
指導する伊藤准教授も「JBMC決勝ラウンドまで行ったのは、当ゼミでは初めて。県内の大学生ではここまで来たのは、留学生を除けば株式会社LacuSを起業した古津瑛陸さん(開志専門職大学、JBMC2022出場)ぐらい。東大のチームや海外のトップビジネススクールなどもいる中でここまで来たのは、中身がしっかりしている証拠」と期待を寄せる。

永井亜美さんと水上英香さん

森成雅さんと佐藤拓人さん
容器については現在、東京都内の協力企業とともに開発を進めている。ヨーロッパなどではゴミの分別の都合で使い捨て容器にフィルムを貼る事例はあったが、再利用を前提にフィルムを貼るのは他にはない発想。開発は難航したが、現在は試作品が完成するレベルにまで達している。
一方で、関門は中身のごはんだ。廃棄品を回収するというコンセプトのため、工場へ生野菜を持ち込むには衛生上の問題などが立ちふさがる。しかし、各ビジネスコンテストに出場する中で「すでに世の中に出ている商品も参戦した中で、高い評価を得られたことは自信に繋がった」と森さん。佐藤さんも「他の企業やスタートアップ、ベンチャーキャピタルの方に『商品化できるから、やりなよ』と言われて嬉しかった。正直、最初は事業化は無理だと思っていたが、その道もありなのではないかと思えるようになった」と語る。先達に背中を押され、協力企業を見つけるために4人は今も奔走する。
開発やビジネスコンテストを経て、意識の変化もあった。「ビジネスコンテストに挑戦して、大学生活が3年生から変わったと感じている。考え方や行動の仕方も変わり、挑戦できる部分が増えた」と水上さん。永井さんも「最初は賞を取ってみたいと思っていたぐらいだが、少しずつ、自分たちの活動を発信することで『さつまクルん』の商品化に繋げたいという思いが強くなってきている。商品化が現実味を帯びてきたので、ビジネスコンテストの機会と経験も活かしていきたい」と意気込んだ。