【道の駅 加治川物語】さびれた施設から賑わいの地域拠点へ、元CA駅長の改革的手法<三福運輸・五月女奈緒美社長>

今や、注目の道の駅に

その道の駅には「ダシ―ズアイス」の売り場がある。

ダシ―ズのアイスは豆乳を主原料とし、食品添加物、乳製品、白砂糖、トランス脂肪酸を使わないグルテンフリーのアイスで、いわゆる「意識高い系」アイスとして「その界隈」では知られている。新潟県で扱っているのは3店舗のみ。全国的に見ても、道の駅で扱う例はほとんどない。

この道の駅には、こんな風に「ちょっと尖った」商品群が、他にもある。道の駅、なのに「機内食」を売っている。値段も決して安くない(1,500円程度)のだが、一見ミスマッチなこの商品にはファンが付き、安定した売り上げにつながっているのだという。

道の駅加治川で販売している冷凍の機内食

ここ「道の駅 加治川」(新発田市)の指定管理者を2022年から務めるのは三福運輸株式会社(新発田市)。同道の駅の駅長を務める代表取締役社長・五月女奈緒美氏は、前職全日空の客室乗務員(CA)だった人。なるほど、ここで「道の駅」と「機内食」がつながる。

「機内食を置くきっかけとなったのは、トキエア株式会社の長谷川政樹社長との出会い。ちょうどコロナ禍で、人々が海外旅行にも行けない時期だったので『自宅にいても、旅行気分が味わえるんじゃないか』と言われて。機内食のメーカーも紹介していただきました」(五月女社長)

道の駅 加治川は、1993年に日本で最初に道の駅登録された103カ所のうちの1つだ。草創期の道の駅にありがちなのが、その機能の中でも「ドライバーの休憩所」を重視するあまり、今のように「目的地」になるような娯楽要素のない、地味な施設がほとんどだった。道の駅 加治川も同様だった。

以降30年間、道の駅として公の管理で在り続けはしてきたが、施設の雰囲気は暗く、そこに賑わいが創出されることはなかった。2022年、施設の老朽化からリニューアルが決まったことがきっかけで、指定間管理を民間に移譲する。そこで白羽の矢が立ったのが、施設のすぐ裏に社屋を構える三福運輸だった。地元商工会から「是非」と推挙され、五月女氏には「駅長」という肩書が新たに加わった。

「ずっと気にはなっていました。道の駅なのに雰囲気も暗く、私から見ても魅力のある施設ではなかった。当時は地元の商工会で『加治川さくらピクニック』というブランドが立ち上がり、マカロンなど商品開発に力を入れていましたから、売り場が残念だなと。『私が運営したら、もっと—』と勝手に考えていたのですが、まさかそんなお話をいただくなんて」(五月女社長)

道の駅加治川に入るカフェレストランの入口

現在の道の駅 加治川は、リニューアル前とは比較にならないほど、きれいなファシリティになり、先述したとおり個性が光る売り場と洒落たカフェレストラン、焼きたてベーカリーも併設する施設に生まれ変わり、平日にも多くの集客がある地域拠点へと昇華した。たまたま立ち寄って休憩する利用者だけでなく、遠方からここを目指して来るファンもいるという。

改革マインドを持ち続けたこと

五月女氏は2013年に将来的な事業承継を前提に、父が創業した三福運輸に入社。2015年に代表取締役社長に就任した。当時も今も、トラック運送の会社で女性の経営者はとても少ない。中でもCA出身というのは、業界の中では相当異色の存在だ。

全く異なる世界から運送業に転身した新任社長にとって当時の運輸業は、雇用する会社側も、雇用されるドライバー側にも、コンプライアンス意識の低さを随所に感じたという。無理のある運行計画、運転マナーへの意識の低さ、利益至上主義など。「2024年問題」(2024年4月からトラックドライバーに対して働き方改革関連法による時間外労働時間の上限規制が適用されることで生じる様々な問題)が顕在化し、業界自体の変革が求められる転換期でもあった。

五月女社長は、社内改革を徹底した。道交法の順守はもちろん、社員に正しいマナー教育を施した。五月女社長は日本トラックドライバー育成機構でマナー講師も務めている。

三福運輸株式会社・五月女奈緒美代表取締役社長

また2024年の改正基準告示に即した運行を徹底した。運行時間が減って売り上げも落ち、乗車する時間が減ったドライバーもその分「稼げなく」なったため、長く務めたドライバーが辞めていったこともあった。一方で女性雇用を積極的に行い、現在は同社に所属するドライバーの3割が女性だ。

経営面では、主力としていた医薬品輸送業務が好調に推移し、新発田市の本社の他、新潟市と石川県金沢市に営業所を構えている。近年は金沢営業所の取り扱いが増えている。また長く医薬品輸送に携わってきたこと自体がブランディングとなり「輸送の質」の高さが業界内外で高く評価されている。

改正基準告示以降、売上が落ち込んだ時期もあり、同業者からは「そんなルールを守っていたら会社が潰れる」という心無い声も聞こえてきた。しかし「運行時間の見直しは、ドライバーの身の安全を守ることでもある」(五月女社長)と断行した。顧客には誠心誠意に事情を話し、95%の顧客に運賃の値上げを承諾してもらった。三福運輸がこだわってきた「運送の質」が高く評価されたことの結実に他ならなかった。それも功を奏し、2024年には一転して過去最高益を計上。信念の勝利だった。

「この業界にも、他の世界から飛び込んできた新しい経営者は多くいますし、また私より先輩の女性経営者もいます。しかし残念ながら多くは、最初は違和感を持っても結局は業界の古い慣習に自分を合わせてしまうのです。私自身もまだ、目指すところにたどり着いたとは思いません」(同)とさらなる質の向上を目指している。

地域の「駅」へ

五月女社長が道の駅の指定管理者を引き受けた理由の一つに「女性の働き場所をつくりたい」というものがあった。地元で女性雇用の手を拡げたいが、運送業では限界があると感じていた。また自分が20年以上にわたって航空会社で培ってきた接客技術が活きるという確信もあった。

指定管理者になった当初、ベーカリーとカフェレストランはテナントが入っていた。飲食や小売りの経験がなかっただけに、お土産ショップ、農産物直売所と合わせて4部門をすべて運営するのは難しいと感じたからだ。しかし思ったように売り上げが上がらず、テナントは撤退を余儀なくされた。

道の駅 加治川のカフェレストラン

ベーカリーのスタッフは募集しなおし、ゼロからのスタートとなったが、むしろそれがきかっけでようやく軌道に乗った感がある。女性スタッフの発想からオリジナル商品も多く生まれた。

カフェレストランには、他の売り場から急遽スタッフを異動して対応したが、こちらもその後にオリジナル商品が数々生まれ、それがことごとくヒットしている。スイーツではアフォガードソフトや、いちじくソフト、まだリニューアル前の施設で根強い人気を誇っていた加治川ラーメンの復刻版など。

利用客のリクエストで数年ぶりに復活した「加治川ラーメン」が好評

五月女社長に今後の道の駅の展望を聞いてみた。

「ちょうど認知症カフェのお話を、いただいたところだったのです」

認知症カフェとは認知症患者やその家族が、お茶やコーヒーを飲みながら気軽に交流したり情報交換する場で、主に自治体が推進し、定期的に開催するもの。スターバックスなど街中のカフェが会場となることもある。

「道の駅が、単なる通過点ではなく、地域のための拠点となってほしい。地域活性化は道の駅が担うべき任務だと思っています。認知症の方のご家族は、閉鎖的な中にいるとどうしても息詰まるので、外と交流する場が必要になります。スタッフにも認知症サポーターの講習を受けていただき、そうした悩みを抱える方々が気軽に集える場になってほしい」と五月女社長は話す。

五月女社長が三福運輸を事業承継してから数々断行した改革、そして指定管理者として道の駅 加治川の運営。これらを見ていると「想いは通じる」は真理と思わざるを得ない。大切なのは「強く想うこと」だ。

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