【特集】越後製菓食品研究室、星野万悠子さん 「精密な検査で、新潟が誇るおいしさの安全を守ります」新潟食料農業大学食料産業学部卒業生を追う

星野万悠子さん。上越市出身。新潟食料農業大学食料産業学科フードコース卒業。現在は越後製菓株式会社で製品の安全安心を守る総合研究所食品研究室に勤務。
パックごはんやお煎餅、お餅…米どころ新潟ならではの商品を全国に届けている「正解は、越後製菓!」のフレーズでお馴染みの越後製菓株式会社。ここで食品を取り扱う企業の要ともいえる「食の安心・安全」を支えるキーパーソンの一人として活躍しているのが、新潟食料農業大学(以下食農大、胎内市)出身の星野万悠子さんだ。
おいしさを安心して味わえる、その背景には厳しい検査
大ヒット商品の「ふんわり名人」をはじめ、お正月に欠かせない国内産もち米100パーセントの杵つき餅や、時短料理としても非常食としても便利なパックごはんなど、日本中の暮らしのそばにおいしい幸せを届ける越後製菓株式会社は、1957年設立。長岡市に本社を構え、「安心して食べられる食品を作る」をモットーに、県内8ヶ所の工場で、米飯、米菓、餅、そして創業のルーツでもある麺などを生産している。

安心を掲げる越後製菓株式会社。製造現場の除菌・防菌対策は何重にも対策が取られており非常に厳重。
同社こだわりでもある製品の安全を守る中枢で活躍する若手社員・星野さんが入社したのは2023年。1年間の工場研修を経て、高梨工場(小千谷市)の総合研究所食品研究室に配属となった。
食品に関する基礎研究と商品の品質管理を担当する部署で、製品や工場の機器、さらに工場内環境の洗浄度なども検査して、安心して食べられる食品を製造する環境を整えている。

口の中でふわっと溶ける不思議な食感の米菓「ふんわり名人」。国内のみならず海外でも人気。
お米の微細なコンディションの違いにも目を配る
研修時代は工場で実際に煎餅や餅が作られる工程で、機械のオペレーションや製品の包装などを担当し、研究所に配属になってからは、主に工場で採取した製品サンプルの検査や工場の製造ラインの衛生管理をしている。不具合を見逃したり対応に不手際があると大きな事故につながりかねない、強い責任感と配慮が求められる職場だ。

工場内の器具など人が触れるところを拭き取って、シャーレで培養して微生物を調査・分析。常駐している高梨工場以外に、小千谷工場も担当している。
「『安心・安全』と『おいしさ』を両立させる製造条件を決めるのも仕事のうちの一つですが、配属になったばかりの頃は、温度や時間などのデータの計算に苦戦しました。お米は銘柄や収穫年などによって含まれている水分量など品質も違うので、最初はどういう条件で炊くのが最適なのかわからないことだらけでしたね」とプロフェッショナルとして勤める初めての現場では戸惑うことも多かったそう。
そんな星野さんの様子を「配属になったばかりの時から、非常に素直な姿勢が印象的でした」と振り返るのは、食品研究所に配属になった時の上司・風間勇太さん(現総務部部長兼広報室室長)だ。

星野さん(写真左)と風間勇太さん(写真右)。
新人なのでわからないことや失敗する場面、行き詰まる場面はもちろんあったが、その都度しっかりと指導から学び、必ず次はより良いパフォーマンスを発揮してきたと、その真面目な働きぶりに太鼓判を押す。
そんな新人時代の星野さんを支えたのが、大学での経験値だった。食品の微生物検査などの実験・実習を通して、原理や器具の取り扱いは理解していた。そのおかげで部署の先輩から検査方法のレクチャーを受けた時も理解しやすく、慣れるのには時間はかからなかったそうだ。

自動で続々と生産されるパックごはんの現場。製品検査ではパック内の酸素濃度の測定や菌数検査、食味検査などを行い安全性を担保している。
専門的かつ実践的な研究は難しい、だからこそ楽しい!
星野さんが食品に興味を持つようになったのは、子どもの頃にまで遡る。実家で父親がお菓子を作ってくれたり料理を手伝ったりするうちに、食品業界への興味を持つようになった星野さん。当初は栄養学を学ぶことを検討していたが、食農大の存在を知り大きく舵を切った。
食農大は、食料産業における生産から加工・販売までの一連の流れを理解し、食料産業を総合的に学べる大学で、2年次からアグリ、フード、ビジネスの3分野に分かれて専攻を追求していく。

フード学生実験室。新潟食料農業大学のフードコースは食品科学分野を中心に学ぶコースで、家政学の分野を入り口に段階的に、化学的・工学的ななアプローチで食品について学ぶ。特に実験・実習が多く、食品企業の工場見学なども行なっている。
「食農大ならではの食に関わる幅広い学びに惹かれました。入学当初からフードコースを希望していましたが、1年次に3分野を総合的に学べたことはとてもためになりました。授業は実習が多くて、うまくいったり失敗したり、それを検証したりするのがとても楽しかったです!」そう目を輝かせる星野さん。そんな積極的に学ぶ姿は教員たちからの信頼も厚かった。
「1年生の時からずいぶんしっかりと情報を整理して見やすいプレゼンを作る学生がいるなと思っていました。他の学生にもお手本として紹介していたほどです。私のゼミ生ではありませんでしたが、ゼミの教授と一緒にオリジナルのハーブティーの量産化を企業に働きかけていた姿が特に印象に残っています」そう学生時代の星野さんを評価するのが、フードコースで教鞭を取る阿部憲一先生だ。

阿部憲一講師。専門は資源循環工学で、現場重視の学びが特徴。エネルギーや廃棄物の視点から、限りある資源の循環利用が持続可能な食料産業には重要であることを日々学生たちに伝えている。
食農大開学時から在籍しており、今回の取材を通して、大学にとって2期生だった星野さんの直近の活躍を知り「食料産業界で活躍してくれてありがとう!本学の卒業生が食の安全を支える重要な役割を社会で担っていることが、本当に嬉しいし、誇らしいです」と手放しで喜ぶ。
星野さんが越後製菓への就職を決めたのも、きっかけは食農大だった。大学が主催する「JOB博」という新潟県内企業が集う就活イベントに参加したことで、越後製菓と出会った。企業理念の一つとして安心して食べられる食品づくりを掲げている話を聞き、大学での食品安全学の学びや、微生物検査の実験経験など学びが生かせると思い、第一希望の進路にすることを決意。大学の就活支援チーム・キャリアセンターに面接練習や相談で足繁く通ったこともあり、就職が決まった時には担当職員も一緒に喜んでくれたそう。
後進に背中を見せ、新潟の基幹産業の安心安全を繋いでいく存在に。
現在の部署に配属になって2年目、24年の12月に先輩から引き継いだ工場内の定期検査の業務は、検査結果をもとにしたフィードバックも業務の一つになっている。良かった点の評価や改善の指導など、その取り組みは一筋縄ではいかないそう。「1年目よりは確実に経験を積んでいますが、指示を出したりする場面で経験不足を感じます。もっと経験を積んで、工場の品質管理に役立てていきたいです」と更なる飛躍を目指す星野さん。
食品業界でアグレッシブに専門分野を極めていく星野さんに、阿部先生は「本学での授業のゲストスピーカーとして戻ってきてくれたら、間違いなく後輩の学生たちの刺激になります。そんなわりと近い未来も視野に入れながら、新潟、そして日本の食料産業を支える人物としてこれからも活躍していってください!」と熱望する。
上司だった風間さんも、品質管理の業務は需要が増す一方だからこそ、身につけたことを生かして、素直な学ぶ姿勢は大切にしたまま、よりハングリーにどんどん解決していく人材になってもらいたいと期待を寄せる。

工場の空気中の菌を検査している星野さん。「無菌状態で製品を作っても、例えば触ってしまうことで二次汚染を起こしてしまっては意味がないので、検査方法には特に気を配っています。最初の頃はこの無菌状態を維持して検査することが難しかったです」
越後製菓が食農大生を採用したのは、2023年の星野さんが初めてだった。そして彼女の活躍もあり、翌年にはもう一人食農大生の入社へとバトンがつながった。新潟県の産業別製造品出荷額は食品産業が第一位。中でも米菓や切り餅、米を主原料とした業種の全国シェアはトップクラスを誇る。この新潟が誇る基幹産業をより豊かで安全なものへと高め発信していく食農大発の新たなリレーが、今確かに始まっている。
【学校情報】

新潟食料農業大学 胎内キャンパス(新潟県胎内市)
学校法人 新潟総合学園 新潟食料農業大学
胎内キャンパス(新潟県胎内市平根台2416)
新潟キャンパス(新潟市北区島見町940)
新潟食料農業大学は、食・農・ビジネスに特化した実学重視の大学として、2018(平成30)年に開学した私立大学。開学以来、「食のジェネラリストの育成」を掲げ、農業生産から食品加工・流通・販売、さらには経営戦略までを一貫して学べる教育カリキュラムを展開。実習を重視した教育方針により、地域農業や食品関連企業との連携も活発で、新潟県内外の食料産業界に即戦力となる人材を輩出している。
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