【特集】西川中学校、米山雅大さん 「経営を学んだからこそ、生徒とのコミュニケーションが円滑にできている」 新潟経営大学卒業生を追う
「新潟経営大学で学んだことは、生徒との向き合い方に活きています」──梅雨入り前の6月。授業の合間を縫って取材場所の準備室に訪れてくれた米山雅大先生は、朗らかな笑顔で答えた。ドアを隔てた廊下から、教室を移動する生徒の足音とはつらつとした笑い声が聞こえる。
米山先生は2024年3月に新潟経営大学(新潟県加茂市)を卒業。1年間の講師期間を経て、2025年4月に新潟市立西川中学校に赴任した。人生で初めて、中学校教諭として担任を受け持つことになった。ここで注目したいのは米山先生の出身大学だ。
新潟経営大学は「経営」に特化した大学であり、教育学部がない。米山先生はなぜ、同大学で教員免許を取得したのだろうか。
やんちゃだった学生時代、教員を志すきっかけとなった先生の存在

社会科を選択した理由は「歴史や社会が好きだったから」と話す米山先生。伝え方を工夫することでもっと社会科好きの子どもを増やしたいと、授業の中ではよく雑談を交えるという
背が高く、爽やかな印象の米山先生。教師を目指した理由を尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「中学生のとき、私はあまり素行が良い生徒ではありませんでした。大人に対する見方が変わったのは2年生に上がったときです。担任の先生が、生徒一人一人に丁寧に目をかけてくれる方だったんです。その先生自身は結構ファンキーというか、まっすぐで力強い感じの方だったんですが、何より生徒の個性を尊重して指導してくれました。そんな風に、私も子どもたちのことをしっかり見て関われる教師になりたいと思うようになりました。生徒たちのこれからの人生を豊かにしていく、ピースのひとつになれたらと思っています」
ひとりの先生との出会いが自分の人生を変えたように、生徒に良い影響を与える存在で居たいという米山先生。元々、教員を目指していた米山先生が進学先に「新潟経営大学」を選んだ理由について尋ねた。
「教育学部のある大学が第一志望でしたので、正直な話をすると新潟経営大学は滑り止めで受けました。いっそ県外の進学先にするか迷っていたとき、新潟経営大学では通信課程との併修により、社会科の免許を取得することができると知って、自宅から近いこともあり新潟経営大学に進むことにしたんです」

最近までランドセルを背負っていた学生たちを毎日見ている米山先生。「成長が早くて、毎日違うクラスを担当している気分です」
米山先生は新潟経営大学の経営情報学科出身だ。経営学をメインに、会社組織の経営や起業を目指す際のプランの考え方など、ビジネスの根本の部分からプログラミング等の情報分野について学んできた。
新潟経営大学の学びの中で印象的だった授業について、米山先生は以下のように答えた。
「マイクロティーチングと言って、反転授業をしたことが一番印象に残っています。日本の授業は教授が前に立ち、生徒が受動的に学ぶ講義型授業と呼ばれる形がメインなのですが、私がお世話になった佐野先生のゼミは違いました。生徒たちにお題が与えられ、各々が調べて、それをほかの生徒に伝えるという授業をしていたんです。教授はその発表に対して補足してくれます。この授業の中で教壇に立つ意識やイメージを持つことができましたし、考える力や伝える力が身についたと思います」
「黒板に毎朝、生徒へのメッセージを書いている」

2025年度に創立50周年を迎えた新潟市立西川中学校(新潟市西蒲区)
西川中学校は全校7クラス。生徒数減少に伴い小規模化してきてはいるものの、校舎も以前の西川町時代に作られた立派な校舎だ。生徒たちはひとりひとりが非常に素直で、やる気のある子が多いという。
この4月より米山先生の指導担当にあたっている小竹智先生は、その働きっぷりに感心した口ぶりで話してくれた。

和やかに米山先生を褒める小竹智先生
「非常にひたむきで、真面目な先生です。生徒たちにも優しく笑顔で接している様子をよく見かけます。言われた通りのことや仕事をこなすのではなく、工夫しているのが彼のいいところじゃないでしょうか。毎朝ね、黒板に生徒たちを迎えるメッセージを書いているんですよ」
「毎日気持ちよく学校生活をスタートさせてほしい」そんな米山先生の想いに生徒が気付いているかは分からないが、毎日の積み重ねの中で生徒との信頼関係を築いている米山先生。
「新任教師として敢えて点数をつけるとしたら、100点満点ですよ。もちろん、足りないところはいっぱいありますが、身につけようという向上心も非常に強いし、日々悩みながらも相談して前進しようという気持ちがあります。初心忘れるべからずで、その気持ちはこれからも忘れないでほしいなと願っています」

米山先生へのさらなる期待を語る指導担当の小竹先生
「わずか3年間ですが、子ども一人一人が劇的に成長する期間に携われるのが中等教育の魅力です。生徒たちと共に歩んでいけるところが、私は大きなやりがいだと考えています」と、中等教育に携わるやりがいについて話す小竹先生。
深く同意するように頷く米山先生の様子から、二人の良好な関係性が伝わってくる。
しかし、新任教師としての日々は決して平坦ではない。米山先生にとっては、初めての担任クラス。慣れない授業、責任感。やりがいを感じながらもプレッシャーが大きく、戸惑うことも多かったという。何が正解で何が間違いかわからず、周りの先生に相談したときにかけてもらった言葉が今でも米山先生の心に残っている。
「米山先生のクラスなんだから、米山先生らしくやればいいんだよって言ってもらったんです。その時に、正解も間違いもないのかなと思いました。周りの先生たちは私が失敗したらそれは指摘するし、サポートするから思い切ってやってくればいいよって言ってくださって、張りつめていた気持ちが少し緩みました」
会社も学級も自分の人生も、すべては経営

新潟経営大学敷地内から望む越後平野
新潟経営大学は、経営情報学部を有する4年制大学。同大学の「経営」とは、ヒト・モノ・カネ・情報をもとに組織をつくり、人と社会に喜ばれる価値を創り続ける営みのこと。企業・スポーツ・教育・観光など、人と組織のあるところはすべて「経営」が支えているという前提に立ち、教育を行っている。
机上の理論だけでは得られない「生きた経営感覚」を養うため、同大学では県央を中心とした地域社会に実際に入り込むカリキュラムを組んでいる。実践をベースに学びを深められるのが特徴だ。
米山先生が多くの学びを得たという模擬授業や経営の本質を教えてくれたのが、ゼミの佐野浩教授である。

「米山くんのすごいところは、地域の中に入り込んでいく度胸です」と話す佐野教授
米山先生の学生時代について、恩師である佐野教授は準備してくれていたスライドを見せながら答えてくれた。新潟経営大学の学生数は約640名。県内の私立大学のなかでもコンパクトな規模だが、だからこそ学生と教授の距離が近いという強みがある。
在学中、米山先生は経営学やマーケティングを学びながら地域おこしを研究。卒業論文では市民ボランティアの経験を通して得た「加茂市における地域おこし」について発表した。佐野教授は米山先生の持つ視点や地域との関係の持ち方について言及した。
「米山くんは在学中、商店街の中で地域のNPOの方たちと一緒に地域を盛り上げる取り組みに積極的に参加していました。『かもおんすとりーと』というイベントに参加したり、ちょっとした理科の実験ブースで講師役となり、地域の子どもたちにスライムの作り方を教えたりなどですね」
全国的に過疎化が進む地方。加茂市も例外ではなく、消滅地域のひとつとして指定されている。その中で最近廃校になったのが加茂西小学校だ。文科省が進めている廃校プロジェクトでは、廃校になった学校を道の駅やキャンプ場、宿泊施設、カフェとして再利用する取り組みをしている。全国の約7割の廃校はそうして活用されているものの、加茂西小学校は活用されていない約3割に該当する廃校だった。

廃校となった加茂西小学校を見学する学生時代の米山先生
「彼のいいところは、学生時代すでに社会科教師の目線を持っていたことです。通学のときに加茂西小学校の児童が登校しているのを毎朝見ていたこともあり、いよいよ廃校になることを知って、もったいないと感じたんですね。加茂西小学校の校舎を使い、カフェや地域の子どもたちのためにボランティアをしている人たちの居場所として活用できないか調べました。教科書にあるものではなく、自分の目で見て地域に関わりたいと思ったのでしょう」
一見、教育分野とは離れて見える「経営の知識」や「地域社会との関わり」について、佐野教授は「経営も教育も根本はすべて同じ」と話す。

教職過程の専門学習施設「教職課程センター」内には、在学生たちの写真付きプロフィールが掲示されている。佐野教授は、卒業後も大切に保管しており、その中から米山先生のプロフィールを記者に見せてくれた
「会社や社員・顧客という言葉を、そのまま学校や生徒・保護者などに置き換えてみるといいんです。学生のころの米山くんは地域の問題解決に注力していましたが、地域の問題と学校教育は密接に関係しています。子どもたちは地域で生活しているわけです。地域がどんどん縮小して、景気が悪くなり、活気がなくなっているときに、米山くんたちのようにイベントを立ち上げ、子どもたちが楽しめる場所を作るのは非常に大切なことです。子どもたちがいきいきとしていれば、親や大人たちは地域に自信が持てるようになります。“加茂市も捨てたもんじゃないな”と思えたら、大成功ですよ。そういう意味で、会社も学級も自分の人生もすべて、経営と言えると思います」
佐野教授の言葉は真摯で、時折厳しく聴こえるがその裏には生徒と地域に対する愛情が滲んでいる。新潟経営大学で学んだ経営とマーケティングの知識、地域の方とのリアルな交流で受け取った声やその景色が、今の米山先生をつくっているのだろう。
最後に米山先生は、「社会のことをより楽しく、興味深く伝えられるようにがんばります。中学生は感受性が高く、人生軸上でも非常に大切な時期。このときに出会う大人が、その先の人生に強い影響を及ぼすこともあると思っています。見本となって導けるような教師になっていきたいです」と力強い声で語った。
(インタビュー・文・撮影 井高あゆみ)
【学校情報】
新潟経営大学
住所:新潟県加茂市希望ヶ丘2909-2
TEL:0256-53-3000
新潟経営大学 ホームページ
新潟経営大学は、1994年に新潟県加茂市に開学した4年制大学。基本的な経営学を学びの軸とし、「経営情報学科」では11の分野と教職課程を展開。多彩な分野で活躍できる人材を育成する。「スポーツマネジメント学科」ではスポーツに「経営」の視点を反映し、あらゆるフィールドで活躍できる人材を育成。小規模校ならではの少人数教育により、理論と実践の繰り返しで実力を養成し、多様な分野で活躍できる人材を輩出している。
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