【深層・参議院選挙2025】新潟選挙区に吹いた風は何色か?激戦17日間のドラマ

石破自民「ゴールポストずらし」で延命図る

「自公議席大幅減」とは、投開票日翌日の新潟日報の1面タイトルだが、おそらく新聞各社は「歴史的大敗」くらいの表現も用意して待っていただろう。それほど事前の自公与党に対する逆風はすさまじいと観測されていた。

それを考えれば、自民党は過半数割れではあっても「巻き返した」と言ってよいのではないか。とはいえ直前の総選挙、都議選、そして今回の参院選と連続で大敗したことで「史上最弱政権」と言われても仕方がないのだが。

自由民主党新潟県連

 

自民党は選挙期間中にもかなり綿密に世論の動きを分析していたに違いない。最終盤で幾分巻き返した感触を得て、石破首相は「自公で45議席を超えたら(首相を)辞めない」と言い出し、当日になると「21日14時に会見を開く」と党内反発勢力をけん制するかのような動きを見せる。当初「自公で50議席が必達目標」としていたにもかかわらず、あからさまな「ゴールポストずらし」はさすがである。

実際、福島選挙区など事前の予想で自民不利と出ていた1人区で勝利を収めるなど、大敗は大敗だが、想定内に収まったのではないか。世間では参政党や国民民主党の勢いを増す姿を見て「(SNSが主戦場となり)選挙の形が変わる」とまで言われたが、この範囲ならさほどの驚きはない。石破政権発足以降に物価対策の遅れ、「公約など守らなくてもよい」と公言するスタンス、関税をめぐる対米交渉の体たらくを目の当たりにしていただけに、正直もっと強風が吹くのではないかと思っていた。

投票率も最終的に60ポイント前後ということで、前回を上回ったものの「風が吹いた」と強調するほどではない。このあたり日本人の意識の低さなのかもしれないが、投開票日を連休中日に設定した「作戦」が功を奏したのか。

台風の目とされた参政党の存在

新潟選挙区、意外にも接戦に

そんな中で新潟選挙区である。

戦前、まだ都議選で参政党が注目を浴びる以前、立憲民主党サイドは今回の打越さく良候補の選挙をかなり心配していた。それは打越氏の後援組織作りが、この6年間でほとんど進んでいなかったからである。

「一時は『本当に選挙を打てるのか?』くらい、体制が何も整ってなかった」(ある支持者)

これは打越氏が、ある意味優秀な人で、党に重宝された結果だと言えなくもない。「党の政策実務の大きな部分を任され、そのためなかなか新潟に入れず、組織作りが進まなかった」という話を党関係者から聞いた。もともと「落下傘候補」として地縁血縁のない新潟から出た身としては、後手後手の選挙対策はかなり響いたに違いない。しかも相手(自民党候補)は知名度のある銀メダリストで、外から見るよりもよほど苦しんだ選挙戦だったようだ。

にいがた経済新聞の取材に応える打越さくら候補

一方で中村真衣候補(自民党)は、公募で次期候補に決まった9月ごろから着々と動き出し、既存の自民党支持層に浸透していった。しかしこの間の自民党支持率凋落は激しく、世論も「次の参院選で何かが変わる」という空気が作り出される。そうなると与党内から「新しい風を」というアピールでは、浮動票を持つ一般有権者に届きにくい。こちらもこちらでやりにくかっただろう。

ともあれ戦前は、立民現・打越と自民新・中村がかなり拮抗するのではないかと見られていた。そこに都議選で参政党が大躍進し、全選挙区に擁立した参政党候補が泡沫扱いできなくなる事態となった。世間では「急に現れた」という扱いをされることが多いが、参政党は2020年の結党以来、地道に地方組織づくりを進め、地方議会に何人も議員を輩出した実績を持っていた。今回の候補者も皆、党の政治塾でじっくりと政策を学ばせ「漬け込んで」きた。

平井恵里子候補(参政党)の主張はわかりやすく有権者に響いた

新潟選挙区から立候補した平井恵理子候補はもともとは普通の家庭の主婦で、なんのバックボーンも持たないことから、戦前は泡沫候補と見る向きも多かったが、都議選の同党躍進で見る目が変わった。事実、選挙戦序盤で神谷宗幣代表が新潟入りした時の街頭演説は、異様な盛り上がりを見せた。同党の政治塾でしっかり漬けこまれた平井氏の演説も、主張がシンプルで力強く、有権者に届きやすかった。

公益社団法人日本青年会議所北陸信越地区新潟ブロック協議会主催、にいがた経済新聞協力で開かれたネット討論会の様子

序盤は打越候補と中村候補が競り合い、平井氏がこれを追う形が続いたが、中盤で流れに変化があった。現職議員による舌禍問題や石破総理の不用意発言などで、この間にも自民党の支持率が大幅に下落を続ける。新潟選挙区の情勢は次第に「打越リード、中村猛追、平井も迫る」というニュアンスに変わっていった。それは演説会場の様子にも表れた。7月11日に小千谷市で開催された演説集会には、稀代の人気者である小泉進次郎農相が登場したのだが、会場には空席も目立ち明らかに盛り上がりを欠いた。以前では考えられないことだった。

大手新聞社の予想では、開戦当初「打越・中村の接戦」と打たれていた評価が、中盤に「打越リード」に変わった。自民党の自滅だった。

7月11日に小千谷市民会館で開かれた決起集会には小泉進次郎農相が登場したが、空席が目立ち盛り上がりもいまいちだった

最後は僅差の戦いに

一方で、打越陣営も楽観はできなかった。猛暑の選挙戦がたたり候補者が体調を崩すなど、回り切れない場所が出たのだという。新潟選挙区が危ないと見るや、野田佳彦首相が3度も新潟入りしてテコ入れを図る。社民党、共産党が全面的に選挙協力し、支持母体である連合新潟も精力的に動いた。先の総選挙で5区全勝した勢いも圧倒的。それでも上滑りの感が否めなかったのは、今回の選挙における立憲民主党の埋没ぶりが著しかったからか。

野田佳彦代表は3度の新潟入り。新潟の議席への思い入れがうかがわれる

また立憲民主党にとって誤算だったのは、参政党・平井候補の存在が「自民党離反票」の受け皿だけでなく「反自民票そのもの」を分断する傾向にもつながったことだろう。これは全国的にも見られ、1人区で当初不利が予想された自民党候補が逆転したり、3人区で自民党系候補が2人当選するなどの現象は「反自民票の分断」が引き起こしたものだと見られる。

打越候補は選挙戦を通して安泰というわけではなかったようだ

最終的に打越候補と中村候補の票差は約1万票の僅差。辛くも打越候補が競り勝ったが最後まで予断を許さなかった。平井候補は2候補にダブルススコア以上をつけられたが、まったくの無名から20万票を獲得したことは、今後の政治活動に向けて手ごたえとなったのではないか。

諸派の原田公成候補は当初から「当選する気はない」としていたため選挙活動もほとんどしなかった。

近年になく各党の政策にフォーカスが当たる選挙戦の中で、「新潟の元気」だけでは苦しかったかもしれない

今後、国政レベルで与野党の枠組みはどうなるのかも注目だ。。このまま極端な少数与党で政権運営を続けるのか、はたまたどこかを引き入れて数を増すのか。可能性は圧倒的に低いが、野党が共闘して政権交代するのか。

石破政権においては、8月にはまずトランプ関税発動の停止期限を迎え、その後には戦後80年の節目に、唯一の被爆国という立場から世界に向けて平和を呼び掛ける使命も控える。もしその後に石破政権が倒れ、首相が変わるようであれば解散総選挙もあり得る。この参院選の結果が、今後の新潟政界勢力図にどのような影響を与えるのかはますます興味深い。

【新潟選挙区 開票結果】
打越さく良 立民現 438592 当
中村真衣  自民新 428167
平井恵理子 参政新    207786
原田公成  諸派新  16604

(編集部 伊藤 直樹)

 

こんな記事も