【特集】「山をリノベーションする」環境価値とDXで林業の革新に挑むForestFolks・桜井隆志代表 NIIGATAベンチャーアワード受賞者インタビュー

株式会社ForestFolksの桜井隆志代表取締役
「林業だけで生活できず、知識と経験を積んだ人がどんどん離職している。整備できない森林が生まれると、土砂災害や倒木被害など、林業だけでなく間接的に多くの人にも影響が出てしまう」。そう危機感を語るのは、株式会社ForestFolks(新潟県南魚沼市)の桜井隆志代表取締役だ。
同社は2023年に設立された新進気鋭のスタートアップ企業。森林整備から環境価値の創出までを一気通貫して手がけ、林業のDXツール「Forester Earth」の開発にも取り組んでいる。その取り組みは、今年6月に開催された「NIIGATAベンチャーアワード2025」アントレプレナー部門で最優秀賞に選ばれた。様々な課題を抱える林業──桜井代表は「1000年先も続けられる森林経営」を掲げて業界の革新に挑む。

今回で11回目となる「NIIGATAベンチャーアワード」が6月に開催された。新潟県内で活動する個人のビジネスアイデアやベンチャー企業の事業を評価するコンテストで、今年の応募数は過去最多。6月2日に行われたプレゼンテーション審査会では、書類審査を勝ち進んだ応募者たちが自身のアイデアを熱弁し、しのぎを削った。
今回の特集では、各部門で最優秀賞に輝いた株式会社ForestFolks、日本マダミスラボ、きら星株式会社の代表者にそれぞれ話を聞いた。
雪山が好きで新潟へ

桜井代表は群馬県の出身で、20代で新潟へ移住した
桜井代表は群馬県の出身。スノーボードが好きで雪山に魅せられて2011年、20代で南魚沼市へ移住。そして10年間、同地の森林組合で林業に従事した。就職当初から独立も視野に入れていたが、林業一本で生活していくのは難しいという現実が立ちはだかった。
転機が訪れたのは2020年。当時の菅内閣の「2050年カーボンニュートラル宣言」がきっかけで、カーボンクレジットへの世間の関心が一気に高まった。「市場調査を実施し、第一線で脱炭素を進めてる企業や経産省にも話を聞きに行った。そしてその熱量や進み具合を見て、今だったらカーボンクレジットや脱炭素といった環境価値をうまく利用して、林業の課題解決ができるのではないかと思い、起業を決意した」と桜井代表は当時を振り返る。
現在の林業には大きな課題がある。「私も初任給が手取りで12万円ぐらいだった。まわりでも、結婚や出産を機に辞めてしまう人が多く、知識と経験を積んだ林業従事者がどんどん辞めている負のスパイラルが起きている」(桜井代表)。その結果生まれるのが、「整備したくてもできない、お金にならない森林」(同)だ。そして放置林の増加は、土砂災害や倒木、停電などといった災害を招く。林業の課題は多くの人にとっても身近な問題でもある。
林業に環境価値とDXを

写真提供:ForestFolks

写真提供:ForestFolks
ForestFolksの特徴は、森林整備や管理といった従来の林業とともに、カーボンクレジットの創出と測量、販売までを一気通貫で対応できる点だ。主な収益源は、原木販売や整備業務といった伝統的な林業の分野。一方で、カーボンクレジットや環境価値は「林業を持続可能なビジネスにするためのツール」(桜井代表)だと位置づけている。
自治体や山林所有者、森林組合や民間の林業会社のほか、カーボンクレジットを欲する全国各地の多様な企業が顧客だ。合わせて近年は、林業に新規参入したい建設業者などからの問い合わせも増えているという。
また、森林経営に必要なデータをワンストップで管理できる「Forester Earth」の開発にも挑む。桜井代表の実務経験を元に作る林業のDXツールで、業務の省力化とともに、高品質なカーボンクレジット創出のために必要なデータなどの管理も可能にする。
「山のリノベーション」を目指して

「Forester Earth」を紹介する桜井代表(写真は「NIIGATAベンチャーアワード」プレゼンテーション審査会時に撮影)
現在は新潟県を中心に、群馬県と宮城県でも事業を発信している。今後、各地域に支社を設け、そこを拠点に地元の森林組合や林業業者などと連携しながら、取り組みを「波及的に広げていく」(同)方針だ。
桜井代表は語る。「各地の林業事業者の利益を最大化する手伝いができればと考えている。『山を所有しているけど、要らない』という方は多くいる。それを、持っているだけで利益が出るような、いわば山のリノベーションを進めていきたい。弊社だけで利益を拡大していこうということではなく、林業に関わる方や、林業に関心のある方々の協力を得て、一緒に森林の課題解決に取り組んでいきたい」。
1000年先も林業を続けるために

「NIIGATAベンチャーアワード」受賞時の様子
「NIIGATAベンチャーアワード」で最優秀賞に認められたForestFolks。そのプレゼンテーションの場では、桜井代表の「1000年先も続けられる森林経営を」というフレーズが印象的だった。同氏は「まさか最優秀賞を取れるとは思っていなかった。今回のプレゼンや質問して頂いた内容を活かして、ビジネスを拡大させていきたい」と意欲を示す。
最後に、これから「NIIGATAベンチャーアワード」、あるいは起業に挑戦したい人へのアドバイスを聞いた。
「最優秀賞を獲ると、様々な機会が広がる。それを活用して自分の事業をさらに展開できるようになるので、起業を考えている人にはぜひこうした機会に参加してもらいたい」。
林業が抱える課題に現場で働いてきた者だからこそ分かる視点で向き合い、未来を切り拓こうとしている桜井代表。その取り組みは「山のリノベーション」であり、そして課題を抱える林業の革新でもある。1000年先の森林を見据えた挑戦は、今まさに始まったばかりだ。
次回は、パーティゲーム「マーダーミステリー」で地方の活性化を目指す日本マダミスラボを紹介する。
【特集】マーダーミステリーで地方創生を 日本マダミスラボ・島田眞伊さん NIIGATAベンチャーアワード受賞者インタビュー
【関連リンク】
ForestFolks webサイト
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