新潟と日本海の向こうの隣人を繋ぐ「知のハブ」に 設立から2年半、新潟県立大学・北東アジア研究所

北東アジア研究所所長のシャクダル・エンクバヤル教授(写真左)と、副所長の新井洋史教授(写真右)

新潟県立大学(新潟市東区)に「北東アジア研究所」が誕生し、今年4月で2年が経過した。県が長年維持してきた研究所の機能を引き継ぎつつ、大学という学術の場で新たな動きも生まれている。中国、韓国、北朝鮮、ロシア、そしてモンゴル──北東アジアの国々は新潟にとって「日本海を挟んだ隣人」であり、世界情勢が大きく動く今、その重要性は一層増している。今回は同研究所の設立の経緯から現在の取り組み、そして今後の展望について、所長のシャクダル・エンクバヤル教授と副所長の新井洋史教授に話を聞いた。

研究所は1993年に設立された公益財団法人「環日本海経済研究所(ERINA、エリナ)」を前身としている。同法人は県の外郭団体として北東アジア地域の調査研究や県内企業の経済交流の支援などを担ってきたが、「2020年頃から、県議会や県の出資法人の評価委員会でERINAの存在意義や活動の目的が達成できているか、などが議論になり、新潟県立大学に研究機能を引き継ぐ形で新研究所が誕生した」と新井教授は振り返る。

ERINAには元々、調査研究部、経済交流部、企画広報部と主に3つの部門があったが、新研究所では調査研究を中心に再編。調査内容を発表する季刊誌「ERINA REPORT」については引き続き発行している。

新潟県立大学

「ERINA REPORT」は北東アジア研究所のサイトからも読むことができる

現在の活動は大きく三つ。第一は研究。各国の経済・社会動向を分析するだけでなく、「サプライチェーン」や「SDGs」、「農業」などの横断的テーマにも取り組む。第二は教育。研究員が学部や大学院で授業を担当し、学生に最新の研究成果を還元している。この点は、旧ERINAにはなかった新しい機能だ。そして、第三は社会貢献。一般向けセミナーや行政・企業への情報提供を通じ、地域社会に開かれた研究所を目指す。

研究所の最大の特徴は、何と言っても北東アジア地域に特化している点だ。中国やロシアなど国単位でなく「地域」として研究しているのは、日本国内でほかには東北大学の「東北アジア研究センター」ほどしか存在しない。

「所属する研究者は6人と、大学の研究所としてはかなり小規模。しかし、それぞれが各国を分析でき、自分の担当の国だけでなく他の北東アジアの国との関係も意識しながら研究できる点が強み」と新井教授は語る。エンクバヤル教授も「この地域には様々な国があるが、隣り合う国だからこそ人もモノも動きやすい」と解説する。北東アジアは、互いに「異質な国が集まる地域」(新井教授)。6カ国の相互関係や、国を横断する課題やテーマを研究する点は非常にユニークだ。

そして、旧ERINAは謂わばこの分野における「老舗」。北東アジア各国を研究する人々の間で旧ERINAの知名度は高く、信頼も厚い。約30年の間に渡り築いてきた研究者や各国の研究機関とのネットワークも、新研究所の強みになっている。

新潟県立大学内の北東アジア研究所

2022年にはロシアによるウクライナ侵攻が始まり、米中摩擦など不確実性が世界を揺さぶっている。また、日本国内では近年にわかに「外国人問題」が話題に上がることも増えた。さらにエンクバヤル教授は「日本、中国、韓国、ロシアはいずれも少子高齢化に直面しており、労働力不足は共通課題」と指摘する。

世界情勢の不安定化や各国が課題を抱える中で、「北東アジア研究所」のような拠点が新潟にあることは意義深い。「『地方』対『地方』だからこそ関係性を作れる余地がある。また地方創生の観点から見ても、東京一極集中のアンチテーゼになりえる」と新井教授は力を込める。

「東京とモスクワ、あるいは政府間だと政治的な議論が先に立ってしまう。しかし、ソ連の時代から新潟とハバロフスクは姉妹都市協力を続け、かつては飛行機の定期便も飛んでいた。ソ連がロシアへ変わった時に、そういったものが交流の次のステップに進むために重要になった」(新井教授)。国家間の関係が停滞しても、地方と地方、あるいは人と人の交流や往来は続く。そしてそれは、将来の関係性の基盤となり得る。

新潟港や新潟空港は日本海の向こう側と繋がる入口だ。しかし、海の向こうとやり取りするのは、物質的なものだけではない。「県も、北東アジアにおける拠点を目指して交通インフラを整備してきた。その中で、人やモノだけでなく知識や情報の『ハブ』としての役割を、北東アジア研究所が担うことができれば」新井教授はそう語った。

 

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新潟県立大学 北東アジア研究所

 

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